母ブタ“GUNDA”と農場に暮らす動物たちの深遠なる世界。名優ホアキン・フェニックス(エグゼクティブ・プロデューサー)と“最も革新的なドキュメンタリー作家”ヴィクトル・コサコフスキー監督がタッグを組んだ『GUNDA/グンダ』が、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか絶賛上映中です。 |
|
森直人、町山広美が徹底解説想像力でいかようにも解釈できる“開かれた映画” 町山:いま映画を観終えたみなさんは、すごく耳が良くなった気がしているのでは。韓国映画を観て、韓国語を喋れる気になるように、ブタの言語が分かるような感覚がありました。撮影する際は小屋に8本のマイクを仕込んでいたそうですが、音のバランスにはとても凝っていると思います。劇場の閉ざされた空間で、この音だけを聞くという体験が良いと思うので、DVDや配信ではなく劇場で観ることをおすすめまします。いろんな映画監督が要素をあえて減らしているのは、劇場で観ないと良さを体験できない映画を目指すという理由もあるかもしれないですね。 森:色彩は人間中心主義の見え方とも言えますね。 町山:人間の視覚や聴覚は自然全体でいうと一部でしかない。本作を観ていて動物の仲間になった気がするんですが、ラストシーンで母ブタGUNDAと目が合う瞬間に、「あ、自分はあくまで人間なんだ」と気づかされて、突然突き放される感覚がありました。あれは衝撃的です。 森:まさに本作には共感と断絶がありますよね。 町山:あと、GUNDAが子ブタを踏みつけるシーンがありますね。知能が高いから、昔の日本でいうところの“間引き”のように、痩せて弱った子をあえてつぶしたのか、間違えたのか…でも実際、養豚場では圧死が良く起こるから母と子を離したりするらしいですよ。アリ・アスター監督が褒めているのは、このようなシーンを序盤早々に見せてくる部分なんじゃないかという気もしたり(笑)。 森:本作を絶賛している監督が、ポール・トーマス・アンダーソンにアリ・アスターに、結構ゴリゴリな方々なんですよね(笑)。単にいい物語ではなく、自然の残酷な摂理をしっかり映していることも理由のひとつかもしれません。 あの名作“ブタ映画”とのある共通点とは? 森:確かに『GUNDA/グンダ』もある意味、行って帰ってくるという点では一緒かもしれない! 人間が敷いたシステムの中で生きている動物たちの物語 森:しかも農場が舞台なので、人間が敷いたシステムの中で生きている家畜たちの物語なんです。よく見ると耳にプレートが付いていて、要は奴隷です。それが一種の風刺性を感じたりもします。見方によっては、システム下に生きる我々とも重なるのではないかと。 町山:ブタは多産に作られていて、2年で約5、6回ほど出産します。おそらく彼女はまた出産を繰り返すのだと思いますが、彼女がそれを望んでいるのかはわからない。 森:とても皮肉ですね。一時、某政治家が女性を「産む機械」と発言し炎上しましたが、それが人間の食育システムのなかで行われていて、我々はそれを甘受しているのだということが掘っていくと見えてくる。そして、コサコフスキー監督はベジタリアンだそうですが、エグゼクティブ・プロデューサーのホアキン・フェニックスもヴィ―ガンとしてすごく有名です。ヴィーガンのプロパガンダ映画ではないけれども、本作にはその心象がにじみ出ていますよね。 町山:でも例えば、ブタを食べることを人間が止めたときに、ブタはその後いったいどうなってしまうのでしょうか。人間が家畜化するために改良した動物だから簡単に自然には放せないし、外来種問題もありますね。 森:改めて、この映画が描いているものってすごく切ないですよね。この農場のシステムの中でしか生きられない動物であり、でも自由を求めてもいますから。 |
|
イマジネーションを刺激する【93分】未踏の映像体験。
ドキュメンタリー『GUNDA/グンダ』絶賛上映中 ある農場で暮らす母ブタ GUNDA。生まれたばかりの子ブタたちが、必死に立ち上がり乳を求める。一本脚で力強く地面を踏み締めるニワトリ。大地を駆け抜けるウシの群れ――。迫力の立体音響で覗き見るその深遠なる世界には、ナレーションや人口の音楽は一切ない。研ぎ澄まされたモノクロームの映像は本質に宿る美に迫り、驚異的なカメラワークは躍動感あふれる生命の鼓動を捉える。ただ、そこで暮らす生き物たちの息吹に耳を傾けると、誰も気に留めないようなその場所が、突如 “無限の宇宙”に変わる――誰も観たことのない映像体験が待ち受ける。 |
監督・脚本・編集・撮影:ヴィクトル・コサコフスキー
エグゼクティブ・プロデューサー:ホアキン・フェニックス、トーネ・グルットヨル・グレンネ
2020年/アメリカ・ノルウェー合作/93分
配給:ビターズ・エンド
©2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.