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民衆の票を守るための闘いが始まる

終わりじゃない。
これはの始まり。

『プレジデント』
2017年の軍事クーデターで、独裁者ロバート・ムガベ大統領が辞任し、エメルソン・ムナンガグワを暫定大統領に任命したジンバブエ共和国。映画『プレジデント』は、クーデター後初となる大統領選の行方を現職のムナンガグワに挑戦する野党MDC連合の党首ネルソン・チャミサの姿を通して記録したドキュメンタリー。7月28日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開となります。
 
本作監督のカミラ・ニールセンのオフィシャルインタビューが到着しましたので、ご紹介!
カミラ・ニールソン監督

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インタビュー

Q:本作のプロデューサーとスタッフについて教えてください

A:エグゼクティブ・プロデューサーのタンディ・ニュートンは女優です。(『M-I:2』、『クラッシュ』など。)彼女はサンダンス映画祭で本作のプレミア上映を観て、この作品に参加してくれました。彼女はジンバブエ人とのハーフで、母親がジンバブエ出身なんですが、この映画をとても気に入ってくれて、私に電話してきて、この時点から彼女とコラボレーションすることに興味はないか、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加できないかと頼んできたんです。

この映画のプロデューサーであるシーネは、フィクション映画もいくつか手掛けていますが、主にドキュメンタリーを手掛けています。『アクト・オブ・キリング』、『ルック・オブ・サイレンス』、第95回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたシモン・レレン・ヴィルモント監督の『“かけら”たちの家 ウクライナ 子どもシェルターの9か月 』等です。彼女は多くの分野で活躍し、多くの映画を作っています。彼女は若い頃、ジンバブエで何本か映画を撮ったり、ジンバブエを訪れたりしていて、繋がりがあったんです。

Q:チャミサ氏との出会いについて教えてください。

A:『Democrats』製作時、チャミサはジンバブエの非常に若い大臣でした。私は彼をよく知りませんでした。しかし、私が『Democrats』を作った時に野党党首だったツバンギライ前党首が、選挙の数カ月前に大腸がんで亡くなったとき、チャミサが新しい野党党首に選ばれるのは自然な成り行きでした。そこで彼に連絡しました。というのも、彼は晩餐会には出席しておらず、選挙を題材にした映画を作るというアイデアも知らなかったからです。モーガン・ツバンギライが亡くなった後、私は彼にこう言いました。「ツバンギライは亡くなってしまいましたが、私たちとこのプロジェクトを続けることに興味はありませんか?」彼は5秒で即答。彼は『Democrats』を確か…6回見たことがあり、前作のファンだったんです。「もちろん、ぜひ。いつ来られますか?」と聞かれました。

その後、すぐにジンバブエに戻って、すぐに撮影を始められると思ったんです。しかし、残念なことに、情報省は私が戻ってきて2作目を撮ることに対し好意的ではありませんでした。ジンバブエでは、『プレジデント』製作のための撮影許可を得るのに2カ月ほど費やしました。だから実際、大統領の撮影を始めたのは選挙の4週間ほど前でした。そして、私と、私と一緒に『Democrats』を撮影したカメラマンのヘンリック・イプセンは、機材を持ってジンバブエに入り、ネルソン・チャミサとの撮影を始めることができました。
初日に撮影した素材を本編で使ったのは今回が初めてです。それがチャミサと彼の仲間たち、そして私との信頼関係や、『Democrats』と『プレジデント』の相互関係を物語っていると思います。『Democrats』を作らなければ、『プレジデント』のような映画を作ることはできなかったでしょう。

ツバンギライがガンで亡くなったと聞いた時、私は大きなショックを受けました。というのも、ジンバブエの政治をボクシングの試合に例えるなら、彼は過去20年間、ロバート・ムガベと戦ってきたからです。そして、彼はそのうちの何回かの選挙で勝利していたのですが、ムガベが結果を不正操作し、ツバンギライから権力を奪ったのです。ツバンギライは、ジンバブエで最初の真の民主主義の闘士でした。彼は野党をゼロから立ち上げ、多くの人々にとってジンバブエの民主主義の自由の象徴でした。そして彼は、ムガベの後、初めての独立選挙を実施する方法を理解していた、非常に賢い政治家でした。何度も選挙で勝利し、不正に泣いてきた彼が今度こそジンバブエの大統領になる番だと、誰もが感じていたと思います。彼の死は、まず、野党にとって災難でした。戦いの4カ月前に王を失ったのですから。

そして、次に、ジンバブエで長年民主主義のために戦い、『Democrats』で親しくなったツバンギライが、大統領としての役割を果たす機会がなかったことに、個人的にも大きな悲しみを感じました。しかし、彼が亡くなった時、選挙はあまりにも近くなっていました。私たちは、考えたり、嘆いたりする時間はもてませんでした。チャミサが党首になったのは、ツバンギライが亡くなったわずか数日後のことです。チャミサに会ったとき、そして彼のことを少し調べたとき、私は「お〜、これはなかなか面白い」と思いました。このような状況になった今、この青年がどうなるのかみたいと思いました。

Q: 作中チャミサに殺害予告がされますが、撮影スタッフの安全に関してはどうでしたか?

A: もちろん、チャミサが政府から殺害予告を受けた時、私たちはこれが深刻なことだと理解しました。同時に、彼が候補者として非常に成功しているということだとも思いました。なぜなら、もし彼に勝算がなければ、殺害予告で命を脅かす理由はなかったからです。自分達のセキュリティのことはあまり考えていませんでした。私が一番心配していたのは、選挙の日に私の映画の主人公が安全な隠れ家に籠り、私たちが彼についていけないことでした。選挙に向かう大統領候補の物語として見るなら、最も重要な場面で主役がいないのです。元々は集計結果が出てくる様子を撮影するつもりでした。彼が選挙に勝つところを撮影することを望んでいたのですが、突然、彼は画面から完全に消えてしまいました。とてもショックでしたね。しかし状況の進行はとても速く、考える時間はあまりありませんでした。実際の政治においても、チャミサが隠れている間、誰かが彼の代わりをしなければならなかったのです。そこで、彼のスポークスマンのシバンダが後を引き継ぎました。そして当然、私の映画の主人公にもなりました。そして、それは私が思っていたほど大きな打撃にはなりませんでした。まず第一に、シバンダは素晴らしい人です。彼はとてもよくしゃべり、カメラを愛し、カメラも彼を愛していました。彼はすぐにレンズの前に出て、チャミサが去ったところから間をおかずに引き継いだと言えるでしょう。第二に、私たちは物語や映画の連続性に気を取られていて、自分たちの危険性についてあまり考えていなかったと思います。

Q:安全確保のために、どのような工夫をしましたか?

A: 私たちの安全確保という点では、撮影活動について規則や規定がありました。例えば私たちは、同じ場所に2泊以上する場合、車で同じルートで宿泊先に戻ることはほとんどなく、別のルートで帰りました。また、しばしば別々の場所で寝泊まりし、どこにいるのか、何をしているのか、チーム内だけで密かに連絡を取り合っていました。また、チャミサのセキュリティ・チームは、彼の安全に関連した情報を、私たちの安全のためにも提供し、私たちをチームに組み込んでくれました。あの頃撮影したのが、この映画の中でも最高のシーンだと思います。ディスクを安全な場所に移し、バックアップのコピーを作る、という繰り返しでした。

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サンダンス映画祭での反応

Q:チャミサの映画を見てのリアクションはいかがでしたか。サンダンス映画祭での反応は?

A:サンダンス映画祭でのプレミア上映の前に、チャミサにこの映画を見てもらいたかったんです。監督として、たとえ公開が決まっていても人を危険にさらすようなことはしたくないですし。本作の主人公たちは、自分たちについてのメディアでの表現に満足していません。ジンバブエ人ではないデンマーク人である私にとって、ジンバブエの客人として、ジンバブエの物語をジンバブエ人が共感できる方法で語れているかが大切でした。だからチャミサも、この映画に少し出演している人も、みんなサンダンスの前に映画を見たんです。私たちは特別上映を手配し、2時間のラフを見てもらいました。私のアパートで私とシーネ、プロデューサーは彼からの電話を待っていたのですが、4時間もかかったので、彼が危険なシーンや、映画に入れられない情報、問題になりそうなことをリストアップしていると思い、とても神経質になり始めました。でも、「カミラ、ショックだ。映画の本編を見たよ」と夜の11時にやっと電話がかかってきました。「いい意味でのショック?悪い意味でのショック?」と聞いたら、「いい意味です、前向きに受け止めています。素晴らしい映画だと思います。何の変更も必要ありません。」と答えてくれました。彼は、私たちがどんな映画を作ったのか知らなかったと思います。サンダンスでのプレミア上映も安全だと感じていたようです。ジンバブエのような独裁国家で仕事をする場合、映画監督として一番避けたいことは、自分の映画に登場する誰かを危険にさらすことです。そこで、チャミサと彼のセキュリティ・チーム、そして映画に出演するすべての人たちに、プレミア上映の前に見てもらったわけです。彼らの反対はなく、映画はそのままサンダンスでプレミア上映されました。あるシーンについて、被写体が、何かバカなことを言ったとか、髪の毛の位置がおかしいとか、そういう何か気に入らないことがあったとしても、私はそのシーンを削除しません。一方、私は映画監督として、皆が安全であること、そして映画が上映された後も皆が安全であることを確認するという、非常に大きな責任を負っています。だからこそ、文化の違いや私の理解不足から、誰かを危険にさらすような発言がないように、セキュリティ・スクリーニングを行ったのです。普通、政治家に映画を渡して「どう思う?」と聞くようなことはデンマークではありません。でも、この状況では生死にかかわる問題だと思います。

サンダンス映画祭でのプレミア上映では、とても良い評価を得ました。興味深いことに、私たちがサンダンスでプレミア上映をする2週間前に、トランプ支持者による襲撃事件が連邦議会議事堂で起きていて、その時トランプは、選挙が自分から盗まれたと話していました。彼は、チャミサが不正投票について話しているのとまったく同じ言葉、同じ表現を使っていました。盗まれた選挙をめぐるアフリカの物語が、突如として普遍的な映画になり、欧米でも注目される映画になりました。民主主義とは何か?自由で公正な選挙とは?そして、政治に暴力があるとどうなるのか。アメリカの観客は、大統領やジンバブエの状況について、トランプ大統領が登場する1カ月前や1年前とはまったく違った形で考えるようになったと思います。アメリカの政治には “トランプ以前 “と “トランプ以後 “があり、『プレジデント』のワールドプレミアは、ワシントンDCで暴徒が大暴れしたまさにその時だったと思います。そして突然、ドナルド・トランプの選挙が盗まれたという偽の主張があったことで、『プレジデント』の主人公であるネルソン・チャミサが盗まれた選挙について本気で戦っている姿が、本来なら集めなかったであろう多くの関心を呼びました。

Q:読者にメッセージをお願いします。

A:現在、世界はほとんどの場合高齢の男性に動かされていて、若い人は、政治に興味がないかもしれませんが、もし民主的なプロセスを尊重し、何年かに1度投票するということをしないと、ある日世界はさらに悪くなるかもしれません。

本作の日本での公開のタイミングは、これ以上ないほど完璧なタイミングです。8月23日にジンバブエで次の大統領選挙があります。国際社会の(本作で描かれている)前回の大統領選の扱いは、恥ずべきものでした。本作が国際社会の目を覚ますことができればと思っています。ジンバブエの国民と連帯して、確実に、2018年に起こったことが繰り返されないようにすべきです。

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監督:カミラ・ニールセンProfile

1997年から2000年までフルブライト奨学生としてニューヨーク大学ティッシュ芸術学部と同大学人類学部でドキュメンタリー映画制作と映像人類学を学ぶ。 卒業後、子どもの権利をテーマにしたドキュメンタリー短編三部作 “Good Morning Afghanista”(2003)、”Durga”(2004)、”The Children of Darfur”(2005)、また”Cities on Speed”シリーズの”Mumbai Disconnected”(2009)等を監督。2007年以降は”We Will Be Strong in Our Weakness”(2011年ベルリン国際映画祭、2011年ヴェネツィア・ビエンナーレ)、”Demonstrators”(2011)、”Re:Constructed Landscapes”展(デンマーク国立美術館/コペンハーゲン国立美術館)などで評価される。前作、ドキュメンタリー”Democrats”(2014)は、80以上の映画祭で上映され、トライベッカ映画祭2015で最優秀ドキュメンタリー賞、ノルディックパノラマ2015で最優秀ドキュメンタリー賞を含む20の賞とノミネートを獲得している。
 
 
プレジデント_撮影風景
カミラ・ニールソン監督

プレジデント_撮影風景

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『プレジデント』

7月28日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

7月29日(土)には、日本の劇場側はMCの汐月しゅう(元宝塚歌劇団星組)が登壇し、カミラ・ニールセン監督が生でオンラインでスクリーンに映し出される形で、舞台挨拶が開催される。詳細は決まり次第、公式SNSや劇場公式サイトで告知される。

公式サイト:
https://president-jp.net/

公式ツイッターアカウント:
@PRESIDENTjp2023

公式Facebook:
@PRESIDENTjp2023

監督はユニセフやユネスコのメディア・コンサルタントとしても活躍するデンマーク出身の女性監督カミラ・ニールセン。ジンバブエの新憲法制定に向けた権力闘争を追った前作「Democrats(民主主義者)」(2014年)はトライベッカ国際映画祭で最高賞を受賞するなど高評価を受けた。その続編とも位置付けられる本作は、ジンバブエの、民主化を求める国民と与党の激しい対立を臨場感をもって映し出し、サンダンス国際映画祭でワールドシネマ・ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞した。
 
独裁者ムガベから政権を奪取した際、ジンバブエの軍事指導者たちは、自分たちが支配権を握るのではなく、国民選挙で民主化を確保すると口では約束。独立以来ジンバブエを支配してきた与党を倒すべく、40歳の弁護士であるカリスマ、ネルソン・チャミサは、リチウム、プラチナ、金、ダイヤモンドなど60種類もの鉱物資源があるにもかかわらず、国民は貧困に喘いでいるジンバブエの国を変えようと動く。
 
何十年もの間、腐敗した政治があらゆる手段を用いて権力にしがみついてきた中、自由で公正、かつ透明な選挙は本当に行われるのか。殺害予告に、銃声と、国内外が注目した選挙戦はさながらサスペンス映画の様相を見せる。民衆が真の民主主義を勝ちとることはできるのか。カミラ・ニールセン監督が前作に引き続き、権力闘争の核心に迫る。
『プレジデント』
<あらすじ>
1980年の独立以来、37年間にわたりジンバブエ共和国の政権を支配していたムガベ大統領がクーデターにより失脚。後継者として同国第3代大統領に就任した与党、ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF党)の代表ムナンガグワは翌2018年に行われる大統領選において「平和で信用できる公正な選挙を行う」と口では公言する。対する野党、民主変革運動(MDC連合)はモーガン・ツァンギライ党首のもと選挙に備えるが、大統領選の4ヶ月前にツァンギライ党首が癌で死去、MDC連合の新党首として若きカリスマと呼ばれるネルソン・チャミサが任命される。変わらぬ支配を目論む与党と、長年の腐敗に疲弊し、国内政治体制の変革を求める民衆に後押しされる野党。多くの国内外のマスコミや国民が注目するなか、国の未来を決める投票が始まるが……。

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ネルソン・チャミサ、エマソン・ダンブゾ・ムナンガグワ、ロバート・ガブリエル・ムガベ、ジャスティス・プリシラ・チグンバ、モーガン・ツァンギライ
監督:カミラ・ニールセン 製作:シーネ・ビュレ・ソーレンセン、ジョスリン・バーンズ 製作総指揮:ファンディウェ・ニュートン、ダニー・グラバー 撮影監督:ヘンリック・ボーン・イプセン 編集:イェッペ・ボッドスコフ2021年/デンマーク・ノルウェー・アメリカ・イギリス/115分/カラー/シネマスコープ/英語、ショナ語/配給:NEGA
2021 © Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant
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