初日舞台挨拶昨年2月の第73回ベルリン国際映画祭を皮切りに、次々に海外映画祭で上映され、9月には北米での公開も果たした、清原惟監督による第26回PFFスカラシップ作品『すべての夜を思いだす』が、渋谷ユーロスペースにて公開となりました。 公開初日の3月2日(土)上映後に、監督とキャストが登壇し、初日舞台挨拶を行いました。本作の公開を待ち望んでくださった観客の皆様でほぼ満席のなか、清原惟監督に加え、青年団のメンバーとして数々の演劇に出演してきた兵藤公美、ロロや贅沢貧乏など演劇を中心に演出家から多大な信頼をあつめる大場みなみ、俳優であり文筆家としても活躍する内田紅甘、主演作『火だるま槐多よ』(佐藤寿保監督)が公開中の遊屋慎太郎が、撮影以来久しぶりに集結。トークでは、PFFディレクターの荒木啓子が司会を務めました。 |
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キャスト&監督
清原:はい、とても嬉しいです。 兵藤:私のシーンはだいたい一人のシーンが多かったので、今日スクリーンで初めて映画を観て、皆さんはこういうふうに入っていて一緒に作品になっていたんだと、まさにそう思って、改めてここで皆さんと出会ったなという感じで嬉しく思いました。 大場:バラバラのシーンでしたので、完成した映画を観て、ああ道に迷っているなあとか、すごい踊っているなあとか、自分が参加した映画とはいえ見て初めて知るという新鮮さがありました。音も暮らしの中の音がすごく鮮やかに、映画全体をとおして鳴っていて、驚きました。音響の黄(コウ)さんが職人でしたね。 清原:本当に黄さんの力がとても大きかったと思っています。その場で鳴っていた音も鳴っていなかった音も、街の音がたくさん映画の中に入っていて、街を音で捉えようとしてくれていたとことに驚きました。 内田:兵藤さんは花火のシーンで遠目にいらっしゃったのですが、現場でも全然会わなかったので、本当に知らない人が遠くから見ている・・・という感じでした。完成した映画を観て、知らない人の一日はこんな一日だったんだと知ることができて、嬉しかったです。 司会:写真屋さんを演じられた遊屋さんは? 遊屋:大場さんと見上さんとはシーンがありましたが、兵藤さんとはほとんどお会いしなかったですね。原夜(げんや)という役名だったのですが、役名も出てこないんですよね。 清原:兵藤さんが演じられた知珠(ちず)という名前も実は作中では出てこないです。映画は、だいたい最初の方で名前を出したり、説明を入れることが定石だと思うのですが、日常で名前を知らないで接して、その人の名前を知ることなかったということは、全然あることなので。そのような距離感で知珠さんのことを観客の皆さんが観てくれることを想像して、敢えて名前を出さなくても良いのではないかと思いました。 兵藤:この映画の中で、ホームビデオのお誕生日のシーンでは、本当に名前が判らない人がたくさん登場していて、私もそのうちの一人だと映画を観て思いました。 司会:大学生の夏(見上愛)と、内田さんが演じられた文、そして亡くなった旧友の大の3人の関係は、現場で話し合って決めていったのですか? 内田:衣装合わせの時にミーティングのような時間があり、この3人はどういう関係で、何歳で出会ったのか、中学、高校、大学のいつまで一緒だったのかというようなことを話し合ってだんだん作り上げていきました。あまり、はっきりさせなかった気がします。夏が大に対して恋愛感情を持っていたのかもわからないままにしました。 清原:夏と大の関係性は、敢えてあまりはっきりさせないようにしました。夏と文の関係性については、二人の衣装の話からイメージがはっきりしていった部分もありましたので、そういったお話をできたのは良かったです。 内田:楽しかったですね。文の衣装は、衣装さんが手作りしたシャツだったんです。夏はフラフラしているけど、フミは終活してこれから働くという段階にいる人なので、そういう人が何を着るのか、というような話をしましたよね。 清原 あのくらいの世代の人は、着ている服でどういう日常を送っているかが直結して出て来る感じもあるので、そういった部分で内田さんに意見を聞いたりしました。 司会:現場で生み出されることが多かったんですね? 清原 そうですね。本当に皆さんがそれぞれにアイディアを出してくださって、一緒に話しながら作っている感覚が心強かったです。 司会:兵藤さん演じる知珠が、誕生日祝いの白い靴を部屋の中で履いてみるシーンはどのように生み出されたのですか? 兵藤:あのシーンの白い靴は、脚本に書いてあったと思います。私も初めて脚本を読んだ時に、靴を部屋で履くのかと思ったのですが、新しい靴を履いてみたいというワクワクしている知珠さんなのかなということを、清原監督と話した記憶があります。知珠さんは、けっこう大変な状況にある人だと思うのですが、それはあまり表には出さずに、今日は誕生日だから何か出来る気がするというポジティブさもあって。部屋の中で靴を試し履きしちゃえという、なにかやってはいけないことをしている楽しさというか、知珠さんの性格やキャラクターが出るところでしたので、あのシーンは楽しかったです。 清原:畳と畳の間にある畳縁の上を歩くのを兵藤さんがやってくださって、実際に古い団地の一室で撮影していたので、あの部分を歩くとギシギシ音が鳴るのが良いですね、という感じになった記憶があります。 司会:色々なことが現場で話し合われて出来ていったというわけですが、清原監督がこれは絶対やって欲しかったことはありましたか?また、多摩という場所が非常に重要な映画ですが、皆さん実際にたくさん歩かされたのではと想像しました。 大場:見上さんは、果ての方まで自転車で遠ざかっていましたよね(笑)何回もテイクがあったのかな?と気になりますね。 清原:あれは何回かやったと思いますね。ワンテイクじゃなかった気がします(笑) 内田:撮影の前に多摩をめぐる機会があったんですよね。自転車で集合場所まで行ってくださいということで、見上さんがマップを見ながら、二人で団地を彷徨ったということがありました。なぜか、監督たちの方が先に集合場所に着いていました(笑) 司会:撮影と準備は同線上にあった感じですか? 内田:そうですね。準備の段階から団地の世界の中に溶け込んでいくような感じでした。見上さんと団地を彷徨っていた時も、ぜんぶ風景が同じなんです。今どこに自分たちがいるのかわからないし、どこに向かっているのかもわからない。ニュータウンに住んでいるおばちゃんが、「どこ行きたいの?」と聞いてくれたりしました。そういった体験が、撮影前にあったことは個人的にはとても良かったと思っています。 清原:撮影が始まる前に、皆で散歩するみたいに撮影できたらいいねと話していました。撮影なので、そんなに身軽に移動は出来ないのですが、マインドとしてはそういう気持ちでやりたいねと。散歩の時のような視点を持って撮影できたんじゃないかなと思います。 司会:撮影中に歩きながら、良い演技のインスピレーションなどはありましたか? 兵藤:インスピレーションになったかはわからないのですが、多摩の地域は、エリアによって建てた時期が違うということがあり、歩いて進んで行くと風景が変わっているというのが面白いなと思いました。70年代に建てられた古き良き雰囲気の場所と、80年代に建てられた場所はまた違う雰囲気で、歩いて行くと景色が変わり、タイムトラベルじゃないですけど、むかし子供のころ遊んだような気がしたり、と思うと急に現代的な公民館があったり。 大場:住人のおじいちゃんおばあちゃんが設置したベンチや憩いの場所がありましたよね。住人の暮らしぶりを垣間見たというか。 兵藤:住んでいる人が心地よく住めるように発展し、変わっていった場所なのかなと思います。 司会:自分たちの空間という意識が流れているのかもしれないですね。 清原:多摩は計画されて作られた都市というイメージが強いので、とても綺麗で、トップダウンで作られているという印象があると思いますが、実際に行くと街の人たちが、自分の手で街を良くしようという活動が歴史的にも盛んだった街で、その空気感が良いと思っていました。撮影中に出会った焼き鳥屋で飲んでいた住人の方々が、興味を持ってくれて、エキストラを快諾してくれたこともあり、温かさを感じました。大変な部分はもちろんありましたが、楽しかったです。 遊屋:僕は写真屋さんから出てないので歩いていないのですが、映画で多摩ニュータウンという場所を楽しみました。移動するというのが良いですよね。バスでも徒歩でも自転車でも回れるところって意外とないと思います。 司会:遊屋さんが演じられた写真屋さんは、誕生日の映像を見るのが趣味なんですか(笑)? 清原:古いビデオテープをデジタルデータに変換する仕事をしている人です。 遊屋:実際に撮影中もあのホームビデオが流れていて、他人のどこの誰かもわからない家庭のハッピーバースデーをずっと観ていると、なんか不思議な感覚になりました。確かにちょっと趣味みたいな部分もちょっとあるかもしれないです。観ていて楽しかったので。 司会:ホームビデオや写真を使うという設定は、最初から考えていたのですか? 清原:実際に私の両親が、私や弟の幼少期のビデオをちょうどデジタルに変換していたので、昔のビデオを見返したということがありました。幼少期に多摩ニュータウンに住んでいたので、ビデオの中でニュータウンが出てきて、ちょうどこの映画の制作で歩いている時に、昔の映像と今の景色が重なって来る瞬間があり、使いたいと思いました。 司会:映画を撮りながら同時に考えていたのですね。作りながら考えるというのは、すごく贅沢でいいなと思います。 清原:常に考え続ける必要があると思います。 司会:もっともっとお話しを伺っていたいのですが、そろそろ終わりとなります。『すべての夜を思いだす』は、劇場公開を迎えるまでに、海外の映画祭をまわり、北米でも劇場公開され、今日ようやく初日を迎えることができました。超ロングランをめざし、思い出した時にまた観たいと思ってもらえるような映画にしたいです。静かに長く続けて行きたいと思います。最後に、皆様から一言づつお願いします。 清原:嬉しさと、どのように皆様に受け取られるかドキドキしています。感想などあればぜひ聞かせて欲しいです。 司会:また、今回のパンフレットは普通のパンフレットではなく、清原さんの手作りパンフレットです。今日まで作っていました? 清原:今日も作っていました。リソグラフという昔の印刷機で手動で作っています。いまアートブックとかで使われていて注目されている印刷機ですが、それを使い自分で製本しました。編集やデザインも自分で行い、映画だけではなく建築や音楽のジャンルの方々が素晴らしい文章を書いてくださり、地図、散歩マップも作りました。オリジナルサウンドトラックもCDが出来ました。映画に使われてない曲も収録した可愛いCDになったので、ぜひよろしくお願いします。 兵藤:景色、リアルな生活、団地がなくなった場所や土偶の時代、そして今現在が映っていて、一見すると日常のようなゆるりとした映画なのかと思いますが、太古のことと繋がっていたり、あったものがなくなってしまったり、いた人がいなくなったり、人との関係が微妙だったり、会いたい人を探したのに全然会えないとか、今日また映画を観て、すごくダイナミックな体験をしたと思いました。肩の力を抜いて、この映画を楽しんでもらえたらと思います。 大場:今日は本当にありがとうございました。個人的なことですが、ここの1階にあったカフェで大学生の頃にアルバイトをしていました。もう今はないカフェですが、俳優を志すようになる前でした。月日が経ち、このユーロスペースのスクリーンで自分の出演した作品を観ているというのが、街の記憶や土地の記憶を描いている作品なので、なにかリンクするものがあり、皆さんにとってこの映画が、今日観たことを忘れてしまっても、いつかどこかでふと思いだしたりとか、また別の機会に観ていただけたら嬉しいなと思います。 内田:2022年の5月から始まり、撮影自体もタイトなスケジュールでした。3か月で映画が出来上がり、完成披露をして、すごいスピードで進んでいくなと思ったら、1年間が経ち、北米にも行っちゃって。今日こうやって日本で無事初日を迎えられて皆さんが観に来てくださって良かったなと、嬉しく思っています。今日は本当にありがとうございました。 遊屋:今日はありがとうございます。僕自身、今日は2度目の鑑賞だったのですが、先ほど皆さんがおっしゃったように、やはり音が本当に凄く良いといいますか、色々なことに気づかせてくれる音で、映像に映っていないけど、そこにあるはずのものが出している音のようなものが沢山あり、ゆっくりした映像が相まって、そこにあるはずだろうなというものをゆっくり想像していく時間がすごく豊かで、劇場でしか味わえないことだと思いますので、皆さんが今日来ていただいて本当に嬉しいですし、お近くの方に劇場でぜひ観てくださいと進めていただければ嬉しいなと思います。今日は本当にありがとうございました。 清原 今日は皆様、本当に来てくださってありがとうございます。こうやって、皆でもう一度集まれて沢山の方に観ていただけて本当に嬉しいです。ありがとうございました。 |
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第26回PFFスカラシップ作品『すべての夜を思いだす』2024年3月2日(土)より、ユーロスペースにて公開(全国順次) 公式サイト Twitter Instagram 物語・・・ |
監督・脚本:清原 惟
出演:兵藤公美、大場みなみ、見上 愛、内田紅甘、遊屋慎太郎、奥野 匡
プロデューサー:天野真弓
ラインプロデューサー:仙田麻子
撮影:飯岡幸子/照明:秋山恵二郎/音響:黄 永昌/美術:井上心平/編集:山崎 梓/音楽:ジョンのサン&ASUNA
配給:一般社団法人PFF
2022年/カラー/116分
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