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五輪ファーストの陰で・・・

強制退去させられた都営霞ヶ丘アパート住民の最後の生活の記録から、五輪ファーストの陰で繰り返される排除の歴史を描くドキュメンタリー『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』が、東京ドキュメンタリー映画祭 特別賞受賞を経て、2021年8月13日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国ロードショーとなります。

この度、2014年から2017年の住民たちを追った青山真也監督のオフィシャルインタビューと川瀬慈(映像人類学者)とジェーン・スー(コラムニスト/ラジオパーソナリティ)の推薦コメントが到着しました。

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青山真也監督のオフィシャルインタビュー

・本作の制作の理由をお教えください。
2013年にオリンピックの東京開催が決まった直後にドキュメンタリー映画『オリンピア52についての新しい視点』(監督:ジュリアン・ファロー)を見ました。フランス人の映画監督のクリス・マルケルが若い頃に制作した、1952年のヘルシンキオリンピックの記録映画『オリンピア52』を検証するというユニークな映画です。
この映画内で、『オリンピア52』の撮影秘話が語られるのですが、マルケルの撮影チームは競技場のメディア席に入ることができず、観客席からの撮影を強いられます。競技者の力強い姿をカメラに収めることができなくなったマルケルは、客席から一番良く撮影できる観客たちの姿を豊かに描きます。
オリンピック大会そのものや、スポーツ自体を撮らなくとも、オリンピック映画は作れるのではないかということを学びました。
この映画を観た後に、今度の東京オリンピックで2度目の立ち退きに遭う人がいるという噂を耳にして、霞ヶ丘アパートに足を運びました。

・撮影は、手持ちカメラで人物を追ったり、インタビュアーがインタビューして誘導したりする形ではなく、固定カメラで実際に起こることを淡々と記憶していく形ですが、そのようにした意図をお教えください。
この映画の目的の一つは、オリンピックによって無くなってしまう「生活」をカメラに収めることでした。高齢単身者が多いこの住宅では、テレビを見て1日を過ごすという人が多くいました。ご飯の時だけ立ち上がって、それ以外は1日中、ベッドの上でテレビを見るという人もいました。それはある種、この団地(霞ヶ丘アパート)のリアルだったと思います。そんな生活を撮影するのに、手持ちカメラだったり、クレーンなどの大きな機材だったりは必要ありません。それよりも、三脚をしっかり据えて、静かに撮影をするべきだと思いました。また、団地というのは様々な人々が身を寄せる、様々な意見を持つ人たちの集まりです。そんな様々な人々の生活を記憶に収めるということをこの映画では行っているのですが、関わりあう際に適切な距離感を保つ必要がありました。手持ちのカメラで私の関心が向かうままに記録をしていては成せない距離の保ち方が、この映画ではできているのではないかと思います。

・タイトル『東京オリンピック2017都営霞ヶ丘アパート』に込めた想いをお教えください。
移転後に元住民と話していると、「私たちは国策に協力したんだ」「私たちがどいたからオリンピックが開催できるんだ」と話してくれる人たちが何人もいました。撮影していた当時、彼らが重い荷物を持って、心も体も限界まで追い込まれ引越しする姿を見て、“悲しいオリンピックへの参加”のように感じる場面が多くありました。
霞ヶ丘アパートの立ち退きは、通常の公営住宅の移転と捉えてはいけません。オリンピック開催のためとそれに関連した開発のために、立ち退きとなったのです。ですので、この作品を“オリンピックの映画”として見てほしいという想いがあります。“東京オリンピックの霞ヶ丘会場”というイメージでタイトルを決めました。2017というのは、アパートの取り壊しが完了した年です。

・冒頭、テレビの取材班が、「オリンピック反対ということはテレビでは放送できない」と言っているところから始まりますが、あの映像はどうして撮れたんですか?
2016年5月に行われた『SAYONARA 国立競技場 FINAL “FOR THE FUTURE”』というイベント内で、1964年のオリンピックをフィーチャーするようにブルーインパルスが飛びました。イベントの前日、私が霞ヶ丘アパートで住民を撮影していた際に、あるテレビ局のスタッフが「ブルーインパルスについて、競技場の近隣に住む人の視点でコメントが欲しい」と取材の依頼するために話しかけてきました。その際の様子です。

・『SAYONARA 国立競技場 FINAL “FOR THE FUTURE”』が開催された際、青山さんは、ブルーインパルスというよりは、観客の取材に国立競技場に行ったのだと思いますが、感じたことはありますか?
イベントに霞ヶ丘アパートの住民たちが招待されていたのです。イベントを楽しむ霞ヶ丘アパートの方々を撮影しようと足を運びました。
そもそも招待がされているという点を注意してみないといけないと思います。これから国立競技場の建て替えのための立ち退きをするという団地に招待状が来ているのです。以前から国立競技場や明治神宮野球場などでスポーツの試合がある際は、騒音問題や観客が流れ込んで住宅に迷惑をかけるということで、招待状が送られてきていて、それはあそこの地域のコミュニケーションの一つだったのですが、国立競技場最後のイベントにも住民が招待されているというのは、ただならぬ皮肉に感じていました。
本編中のブルーインパルスが飛ぶシーンでは、その上空に飛行する様子を見上げている人たちを撮影したのですが、カメラに映っている客席は、霞ヶ丘アパートの住民たちが招待されたエリアです。彼らが、みんなが同じ方向を見ているというところに注目してほしいです。
2020年5月29日、そして今回の五輪の開会式の日(2021年7月23日)にも、行き届かない政府のコロナ対策から目を逸らすかのように、ブルーインパルスは飛んでいます。マスメディアでは、嬉々として空を見上げる人々の様子が取り上げられました。
またこのシーンは映画最後のシーンと対になるように編集しています。

・私は東京のマンションに40年住んでいますが、アパートの住民たちが一緒に掃除をしたりする映像を見て、現代の東京の希薄なご近所関係にはないコミュニティがあったように感じました。取材していてどう思われましたか?
団地ごとに、コミュニティの行事やボランティアの清掃活動が行われていたり、いなかったりだと思います。霞ヶ丘アパートは、アパートが建つ前から長年一緒に住んでいる人が多いという特徴がありました。清掃活動や年中行事を繰り返すことによって、この団地(霞ヶ丘アパート)のコミュニティは形成されていきました。他の団地よりも結びつきが強く見えるかもしれません。しかし、若い世代が住宅に入ってこないまま高齢化を迎えているので、その脆さも垣間見えます。

・アパートの下に青果店があって、「後で上に持って行っておいて」というのも新鮮でした。歩くのも大変な高齢者の方々が移転先で、同じようなサービスを受けられるか心配になりましたが、取材していて、どう感じましたか?
このサービスは、このアパートのコミュニティが、長年一緒に暮らし、そのまま高齢化していく中で作り上げた素晴らしいサービスです。衣食住の“食”という大切な要素だけでなく、皆さん高齢者なので、“安否の確認”という二つが同時に提供されるかけがえのないサービスだったと思います。移転先には商店を作ることができず、ああいったサービスを受けられないことが、アパート移転に不安を持つ要素にもなっていたのではないかと思います。

・読者の方にメッセージをお願いします。
オリンピックが優先された結果、政府の新型コロナウィルスの対応の一環で様々な人々の生活に影響を及ぼしているわけですが、映画館は大きく影響を受けた一つだと思います。営業時間や席を減らしたり、または営業休止したりしました。
この映画はオリンピックが奪った人々の生活を映しています。この状況下で、映画館で鑑賞することに意味がある作品となりました。マスク等、コロナ対策をした上で、ぜひ映画館でご覧ください。
青山真也監督

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川瀬慈とジェーン・スーの推薦コメント到着

川瀬慈 (映像人類学者)

我々は絶対に忘れてはなるまい、互いに支え合いつつましやかに
生きてきた人々が、オリンピックのために、慣れ親しんだ生活の場を
このように奪われ、移住させられたことを。深い観察と傾聴に支えられた
ドキュメンタリー映画の真骨頂。

ジェーン・スー (コラムニスト/ラジオパーソナリティ)

移り変わりの速い都会のど真ん中で、静かに佇む霞ヶ丘アパートが好きだった。東京は目のくらむような商業だけの街ではないことを体現するシンボルだと思っていた。外苑前を訪れることがあれば、青山通りから覗いてみたり、キラー通りから眺めたりした。「汚い住宅」だなんて思ったことは一度もない。年金受給者になったら、女だらけでここに住みたいと、ぼんやり夢見たこともあった。霞ヶ丘アパートには精神的に豊かな生活があることが、遠目からも分かったから。
それがどうだろう、これほど傲慢な、居住者には無関係な理由で豊かな生活が根こそぎ排除されてしまうとは。居住者と同世代の親を持つ身として、引っ越しが高齢者の精神と肉体の両方をどれだけ疲弊させるか私はよく知っている。この世代のおかげで、戦後の日本が復興したのではなかったのか。近頃とみに目にするようになった、責任者不明のまま話がどんどん進んでいく不条理は、十年、いやもっと前から存在していたと知った。映像はナレーションもなく淡々と進んでいくが、最後まで小さな商いをまっとうし、綺麗に掃除をして出ていく住民の気高さに圧倒された。これは紛れもなく、助け合いながらきちんと暮らしを営んできた人々の姿。

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『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』

7月29日(木)までアップリンク吉祥寺&アップリンク京都にて先行上映中
8月13日(金)より全国順次公開
 
公式サイト:tokyo2017film.com

公式ツイッター:https://twitter.com/TOKYO2017film

明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、10棟からなる都営住宅。1964年のオリンピック開発の一環で建てられ、東京2020オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊された。本ドキュメンタリーは、オリンピックに翻弄されたアパートの住民と、五輪によって繰り返される排除の歴史を追った。

平均年齢が65歳以上の高齢者団地であるこの住宅には、パートナーに先立たれて単身で暮らす人や身体障害を持つ人など様々な人たちが生活していた。団地内には小さな商店があり、足の悪い住民の部屋まで食料を届けるなど、何十年ものあいだ助け合いながら共生してきたコミュニティであったが、2012年7月、このアパートに東京都から一方的な移転の通達が来た。五輪ファーストの陰に焦点『東京オリンピック2017』
2014年から2017年の住民たちを追った本作では、五輪ファーストの政策によって奪われた住民たちの慎ましい生活の様子や団地のコミュニティの有り様が収められている。また移転住民有志による東京都や五輪担当大臣への要望書提出や記者会見の様子も記録されている。
五輪ファーストの陰に焦点『東京オリンピック2017』五輪ファーストの陰に焦点『東京オリンピック2017』
監督・撮影・編集は、本作が劇場作品初監督となる青山真也。音楽は、2013年「あまちゃん」の音楽でレコード大賞作曲賞を受賞した大友良英が務めた。

あらすじ
都営霞ヶ丘アパートは1964年のオリンピック開発の一環で建てられた。国立競技場に隣接し、住民の平均年齢65歳以上の高齢者団地であった。単身で暮らす者が多く、住民同士で支えあいながら生活していたが、2012年7月、東京都から「移転のお願い」が届く。2020東京オリンピックの開催、そして国立競技場の建て替えにより、移転を強いられた公営住宅の2014年から2017年の記録。
東京オリンピック2017_ポスタービジュアル

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監督・撮影・編集:青山真也
劇中8mmフィルム映写協力:AHA! [Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]
音楽:大友良英
整音:藤口諒太
配給:アルミード
2020 / 日本 / カラー / 16:9 / DCP / 80min ©Shinya Aoyama

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