岩井志麻子ｘ出井康博　ベトナム映画「走れロム」先行上映＆トーク

劇中で描かれる“闇くじ”について、ジャーナリスト出井さんからは、「ベトナムでは、日本よりもずっと宝くじが盛んなんです。地域や省ごとに当選番号の発表が毎日夕方にあり、6桁の番号を当てるギャンブルです。でも、こうした政府公認の正規くじを購入する人は多くなく、正規くじなど足元に及ばないほど、“闇くじ”が人気なんです。“闇くじ”でも、正規くじの当選番号が採用されていて、当てるのは下2桁だけなので、オッズは70倍と、正規くじよりずっと高い。しかも、2桁の数字であれば100分の1の確率で当たる。「100分の1」なら当てられるかもと安易に考え、多くの人が闇くじにハマっていくんです」と庶民のあいだで蔓延っている“闇くじ”の背景について解説した。

また、チャン・タン・フイ監督について、「ベトナムには、日本のような表現の自由はなく、政府にとって不都合な実態は、たとえフィクションの映画であっても描くことは許されない。当局の検閲で修正を余儀なくなれながら、まさに命がけで“闇くじ”をテーマにベトナム社会の暗部を描き切ったフイ監督の勇気に拍手を送りたい」とチャン・タン・フイ監督の功績をたたえた。

岩井さんからは、「ベトナムは呑気な南国かと思ったら、やはり社会主義国か、と何でも袖の下という感じで、厳しいのか緩いのかわからない国です」などと話し、「ホーチミンは少し見ない間にもの凄く発展し、都会の街並みになりました。昔はストリートチルドレンも多く、私も映画に出てくるような闇くじを売りに来る子供に遭遇したことがあります。まぁでも、私の愛人のベトナム人は、私と言う日本の大当たりくじを引き当てた！ってことですよね（笑）」と会場を笑いに包んだ。

最後に本作の見どころについて、「ベトナムのリアルな、剥き出しの街並みが感じられる映画。社会問題も描かれていますが、この映画のエネルギッシュな凄さを感じて、ああ、ベトナムに行きたい！楽しそう！と思ったり、私のように下世話でミーハーな目で見ることは、そんなに悪いことではないとも思います」と語り、「私も、コロナが明けたらベトナムに行きたい！ですね。愛人に会いたいです！」と岩井ワールド全開の密度の濃いトークイベントとなりました。

『走れロム』

７月９日（金）より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

公式サイト:
www.rom-movie.jp

映画『走れロム』は賑わうサイゴンの裏町を舞台に、孤児の少年ロムが夢を叶えるため、巨額の当選金が手に入る“闇くじ”に挑む姿を、疾走感溢れるスタイリッシュな映像とリアリズムを追求したタッチで描く問題作。監督は、本作が長編デビュー作にして第24回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門最優秀作品賞受賞ほか多くの映画祭で高い評価を受け、熱い視線が注がれる期待の新鋭チャン・タン・フイ。『青いパパイヤの香り』『ノルウェイの森』で知られる名匠トラン・アン・ユンがプロデューサーとして参加している。世界で輝かしいデビューを飾った本作だが、社会主義国家のベトナムにおいて顕在化させたくない社会問題を描いたことで、当局の検閲が入り修正を余儀なくされる。そうした苦境を経て迎えた本国ベトナムでの公開は、ロングランヒット中だったクリストファー・ノーラン監督の超大作『TENET テネット』を興行成績で上回る驚くべきヒットを記録！ミニシアター文化のないベトナムで、インディペンデント映画が商業的にも成功をおさめる一大センセーションを巻き起こした。