3月12日(火)、アンスティチュ・フランセ東京で行われているフランス映画の現在を紹介する特集上映【第一回映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~】のプログラム内にて、『パリ、18区、夜。』や『ガーゴイル』などで知られるフランス映画界の鬼才クレール・ドゥニ監督が来日し最新作『ハイ・ライフ』の特別上映会が開催された。 実に14年ぶりの来日ということもあり、当日のチケットは5分で完売となった。 映画『ハイ・ライフ』特別上映&トーク |
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イベントのゲストは、ドゥニ監督の大ファンを公言する映画監督の黒沢清監督。
上映後、満席の会場にクレール・ドゥニ監督、黒沢清監督が登壇すると大きな拍手が巻き起こった。まず黒沢監督がトークの口火を切った。 黒沢監督:この作品は一見ものすごくシンプルに見えますが、最初は男女の恋愛物語、もしくは精子や卵子の話だと思いきや、今度はブラックホールの内部に入っていく。このようなSFは、見たことがないです。クレール・ドゥニ監督とSFが出会うことで、このような美しい物語になったのですね。 続けて、『ハイ・ライフ』というタイトルの意味を質問すると、 と答えた。 黒沢監督:彼らの生活は完全に拘束されているわけではないが、絶えずジュリエット・ビノシュ演じる科学者ディブスに監視され、コントロールされている。それはどこか我々の生活に似ているような気がしました。 という黒沢監督に、 ドゥニ監督:本作で描かれる宇宙船での暮らしを地球で例えるならば、潜水艦の中を想像して下さい。そして、ある女性受刑者が拘束されているのは人工授精を拒んだからなのです。反面、男性受刑者には自由があります。スティーヴン・ホーキングの説にあるように、太陽系から離れれば離れるほど、人間の一生はすぐに過ぎてしまう。だから彼らは宇宙で生命を作り出す必要があるのです。 と返答。次に 黒沢監督:僕はモンテ(ロバート・パティンソン)の絶望の果てを見つめているような、独特の冷たい眼差しが好きです。これはあなたが過去に描いてきた『ネネットとボニ』や『ガーゴイル』の主人公達に共通しているように感じました。 と指摘すると、 ドゥニ監督:確かにそうです。私が描く登場人物達は少し絶望していると思います。モンテは自分の人生に絶望し、自殺を考えるのですが、自分の幼子を見捨てることが出来ない。彼は責任を感じます。それにより彼は地球では得ることが出来なかった愛の生活を手に入れるのです。 と同意する。 |
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さらに
黒沢監督:モンテが娘から“私はお母さんに似ているの?”と言われた時の彼の表情がとても印象的でした。 と述べると、 ドゥニ監督:はい。モンテは娘に“母親には似ていない。まったく違う。おまえは特別だ”と愛情を示します。 と答えた。 また 黒沢監督:主人公のモンテは、非常に禁欲的ですね。彼は欲望とは無関係のところで、図らずも子供を授かります。僕の映画に登場するキャラクター達もとても禁欲的だと言われているので、彼のような登場人物が出てくれて非常にうれしかったです。 と共感すると、 ドゥニ監督:私が純潔を発明した訳ではないですが、例えば修道士、騎士などは純潔からパワーを与えてられていますね。女性はこの例には当てはまりません。それが正しいか、正しくないか私は判断をしませんが、本作のテーマの一つでもあります。純潔は人間の脆い部分をパワーとして内に留めるという役割があるのです。 と答えた。 |
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最後に・・・
MCから二人に「愛の可能性について、お聞かせ下さい」と質問されると、 黒沢監督:僕の新作『旅のおわり世界のはじまり』では、ある女性がたった独りでウズベキスタンに行くのですが、その孤独の中で、1つの感情のための生きて行こうとする。それは、恋人への愛です。僕はこの作品の中で“愛”を人が生きていくための唯一の心の支えとして描いています。 と答え、 ドゥニ監督:群衆の中でも、人は孤独になります。それは自分の中に愛がないときです。愛は自分自身がより人間的になるためのつながりだと思います。愛は人生を生きる意味です。実は『ハイ・ライフ』の撮影中に私は母を亡くしました。週末ごとに病院に面会に行って、だんだんと彼女が消えていくのを見ていました。彼女の生命と同時に、その愛が消えていくのを目の当たりにするような気がしました。年老いた女性がそうであるように、まるで少女のような状態でした。 と結んだ。 監督プロフィール |
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ドゥニ監督の『ハイ・ライフ』 原題:High-Life は4月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ユナイテッド・シネマ豊洲ほかで全国順次公開される。 公式HP: 【あらすじ】 |
監督・脚本:クレール・ドゥニ『ショコラ』『パリ、18区、夜。』
共同脚本:ジャン=ポール・ファルジョー『ポーラX』
出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』シリーズ、『コズモポリス』)、ジュリエット・ビノシュ(『アクトレス~女たちの舞台~』)、ミア・ゴス(『ニンフォマニアックVol.2』、『サスペリア』)、ほか
2018年 /ドイツ、フランス、イギリス、ポーランド、アメリカ合作 / 英語 / 113分/ カラー / 5.1ch / PG-12 /日本語
字幕:岩辺いずみ
配給:トランスフォーマー
© 2018 PANDORA FILM – ALCATRAZ FILMS
■主な監督作品
2017『レット・ザ・サンシャイン・イン<未>』カンヌ国際映画祭 監督週間SACD 賞
2013『バスターズ ―悪い奴ほどよく眠る― <未>』カンヌ国際映画祭 ある視点部門出品
2010『White Material(原題)』ヴェネツィア国際映画祭 コンペティション部門出品
2009『35杯のラムショット<未>』ヴェネツィア国際映画祭 アウト・オブ・コンペティション部門出品
2005『The Intruder(原題)』
2002『Vendredi soir(原題)』
2001『ガーゴイル』カンヌ国際映画祭 アウト・オブ・コンペティション部門出品
1999『美しき仕事<未>』セザール賞 最優秀撮影賞
1996『ネネットとボニ』ロカルノ国際映画祭 金豹賞
1995『A PROPOS DE NICE(原題)』
1994『U.S. GO HOME(英題)』
1994『パリ、18区、夜。』カンヌ国際映画祭 ある視点部門出品
1990『死んだってへっちゃらさ<未>』
1989『MAN NO RUN (原題)』
1988『ショコラ<未>』カンヌ国際映画祭 コンペティション部門出品、セザール賞 新人監督賞ノミネート