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一般試写会イベント田中裕子を主演に迎えた久保田直監督最新作『千夜、一夜』が10月7日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開となります。 アジア最大級の国際映画祭である、第27回釜山国際映画祭のニューカレンツ・コンペティション部門に正式出品され、注目を集めている本作。 公開に先立ち、9月30日(金)都内にて、一般試写会を開催しました。上映後には、ドキュメンタリー撮影のため海外ロケ中の久保田直監督がリモート登壇。映画ジャーナリストの立田敦子を聞き手にイベントを行いました。 |
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久保田直監督リモート参加立田)失踪した夫を待つ二人の女性のそれぞれの姿を描いた『千夜、一夜』。この物語の背景に、日本では年間約8万人の失踪者がいる事実がありますが、久保田監督が、失踪者とその残された家族というテーマに興味を持ったのには、どのような経緯があったのですか? 久保田)約20年前に、拉致の可能性を排除できない失踪者の名前と顔写真が掲載されたポスターが全国に貼り出されたのですが、その「特定失踪者リスト」の印象が強烈で、ずっと記憶に残っていました。その後、リストに名前が掲載された人が、「自分は拉致されたのではなく、自分の意志で別の場所で暮らしている」と家族に連絡を入れた事例が複数あったと聞き、とても驚きました。どうして失踪しようと思ったのか。そして、待っていた家族はその知らせを聞いてどのような気持ちだったのだろうか。家族が拉致被害にあったのかもしれないと届け出を出すくらいですから、失踪する直前まで普通の日常を過ごしていたはず。「生きていて良かったけど、何がいけなかったのか」と考えるでしょうし、どのように受け止めればいいかわからないと思います。「待つ」側の人の気持ちを想像するなかで、「拉致問題」を掘り下げるというよりは、「ずっと待ち続ける人」を描いた作品を作りたいと考えるようになりました。 立田)本作は青木研次さんによるオリジナル脚本ですが、青木さんとは劇映画デビュー作『家路』(14)でもタッグを組まれていますね。どのように脚本を練り上げていったのでしょうか? 久保田)「失踪者リストを題材に、待つ側の物語を描いてみたい」と青木さんに伝え、設定についての話し合いを重ねるなかで、「舞台は島で、主人公は女性にしよう」ということになり、ほぼ見切り発車で、二人で佐渡島にシナリオハンティングに行きました。島にした理由のひとつは、ひとつしかない出入口を主人公が見つめている画が思い浮かんだから(正確には佐渡島には2つの出入り口がありますが)。佐渡島を見て回っていくなかで膨らんだイメージをもとに、青木さんとキャッチボールをしていきながら第一稿を仕上げていきました。 「待つことをやめられない」女と「新たな人生を踏み出したい」女。 久保田)登美子も奈美も、すごく芯が強く、「強い女性でありたい」と思っているキャラクターです。ですが、その「在り方」が二人は少し違います。登美子は、「待つことを止められない」女性。その一方で、奈美はある種一般的な選択なのかもしれませんが、「自分が思い描く人生設計をなんとか守りたい」と考え、それが出来なければ次のステップに進もうとする女性。 静かに待ち続ける主人公の一途さは、俳優・田中裕子が醸し出す空気感からイメージを拡げた 久保田)田中裕子さんには、『家路』に出演していただいた際にいろいろと教わることがたくさんあり、俳優としても人間としても素晴らしい方です。次回作の機会があればまた出演をお願いしたいとずっと思っていたので、青木さんと本作の脚本を練り上げるなかで自然と頭のなかで田中さんの姿を思い浮べていました。そして、仕上がった脚本をまず田中さんに読んでいただき、快諾してもらいました。静かに待ち続ける登美子の一途さは、田中さんが醸し出す空気感からイメージを拡げていった点が大きいです。 立田)田中裕子さんと尾野真千子さんが共演することによって、奇跡的な瞬間はあったのでしょうか? 久保田)尾野さん演じる奈美は、登美子に共感しながらも、どこかで「私は彼女とは違う」という気持ちもあり、ずっと揺れて動いています。登美子が持つ、ロマンチシズムな気持ちやプラトニックな愛に対して、奈美は徐々に苛立ちを感じ始めるのです。登美子が奈美の夫・洋司(安藤政信)を彼女のもとに連れてきた際に、「どうして連れてきたんですか!」と奈美が登美子に激昂する場面があります。洋司に対して発せられる罵倒のセリフが、だんだんと登美子に向かっていくように尾野さんも演じられていると思うのですが、その場面はとても迫力がありましたし、素晴らしいシーンが出来上がったと思います。 様々な国や地域の「家族」の撮影してきた経験が映画製作の引き出しに。 立田)久保田監督は、これまでに数多くのドキュメンタリー作品を手掛けられてきましたが、その経験はフィクション作品を作る上で、どのように活かされていたり、反映されていますか? 久保田)基本的に、ドキュメンタリーと劇映画を制作する際のスイッチは自分の中で切り替えています。ドキュメンタリーで培ったことを劇映画に活かしている点があるとすれば、約40年にわたり様々な国や地域の“家族”を撮り続けてきたことをストーリーや演出に落とし込んでいることでしょうか。家族がちょっとしたことですれ違ったり、喧嘩になったり、誰かが家を出ていったり。様々な家族の姿を近くで撮影してきたことが、私自身の映画製作の引き出しになっています。青木さんにそれらのエピソードを話すと、さらにひねって脚本にうまく落とし込んでくれるんです。 立田)現在、世界中で家族の形が見直されていますが、本作では「夫婦」という形態についてフォーカスされていますね。監督が考える夫婦の形はどのようなものだと考えますか? 久保田)「夫婦」というものは、家族とはいえ、血が繋がっているわけではなく、実は他人ともいえますね。ですが、「家族」という言葉にしてしまうと、何もしなくとも「家族」でいられると勘違いしてしまう部分もあると思います。ドキュメンタリーを撮っていて常々思うのは、やはり努力をしないと「家族」という形ではいられないということです。 |
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『千夜、一夜』10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開 |
田中裕子
尾野真千子 安藤政信 / ダンカン
白石加代子 長内美那子 田島令子
山中崇 阿部進之介 田中要次 平泉成 小倉久寛
監督・編集:久保田直
脚本:青木研次
音楽:清水靖晃
製作:映画『千夜、一夜』製作委員会
特別製作協力:(株)シャイン、(株)サンテクノ
協賛:サンフロンティア不動産(株)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会 制作プロダクション:ソリッドジャム
配給:ビターズ・エンド
2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/126分
(C)2022映画『千夜、一夜』製作委員会