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『母影』x『すばらしき世界』
尾崎世界観、西川美和監督 初対談@六本木蔦屋書店

クリープハイプの尾崎世界観が、第164回芥川賞候補としてノミネートされた『母影』を刊行。時を同じくして西川美和監督の最新作『すばらしき世界』の公開を記念して、二人の初対談が行われました。

「世界へのまなざし、言葉と言葉以外の何か」

というテーマが設けられ、実現した本企画。

このイベントの模様はオンラインイベントとして配信され、イベント主催公式サイトで二人への質問も事前募集され、対談と合わせて質疑応答コーナーも設けられた。
尾崎世界観、西川美和監督と初対談『母影』x『すばらしき世界』
日付:2月11日(木)
会場:六本木 蔦屋書店
登壇:尾崎世界観(クリープハイプ) 西川美和監督

映画情報どっとこむ ralph 尾崎が上梓した第 164 回芥川賞候補作『母影』は、小学校の女の子の視点から見た世界を描いた原稿用紙 150 枚に及ぶ自身最長作品。少女の眼のうごきや耳で捉えたものを丁寧に描くことによって、友達のいない学校生活や、母親の働くマッサージ店で過ごす放課後の時間に立ち上がる「変」をあぶりだしていく。

この日、公開初日を迎えた西川の最新作『すばらしき世界』は、直木賞作家・佐木隆三によるノンフィクション小説「身分帳」の舞台を現代に置き換えて、13 年ぶりに刑務所から出所した人生のほとんどを刑務所で過ごした実在の男をモデルに、「社会」と「人間」の今をえぐる問題作。それぞれ音楽、映画という軸を持ちながらも「ものを書く」作家の顔を持つことについて、とり組み方、創作への道筋を語り合うこととなった。

「ころころと変わる主人公三上の表情が、季節みたいだった。それを観てる自分も、脱いだり着込んだり傘をさしたり、忙しくて楽しかった。終盤、走っている三上を見て、笑いながら泣いた。こんな風に、祈るような気持ちで映画を観たのは初めてだった。」尾崎が『すばらしき世界』に寄せたコメントが読み上げられて対談がスタート。

「(尾崎)面と向かっては恥ずかしいですね…昔から監督の作品がすごく好きなのでお話してみたいと思っていました。」「(西川)大変素敵なコメントを寄せていただいてありがとうございます。今回のお話をいただいて、ぜひという気持ちで!」
尾崎は、西川作品が寡作であることをまるでオリンピックのようだと言い、そういう気持ちで待っていることが楽しい、と顔をほころばせる。

映画情報どっとこむ ralph 今までオリジナル脚本で作品を発表してきた中で初の″原作もの“に取り組んだことについて「(西川)すごく安心感がありますね。『身分帳』は手に取った時は絶版だった小説なのですが、この作品を元に脚本を書くにあたって、ある意味大船に乗ったような、自分が書いた以上に頼れる大樹があるという気持ちになりました。でも小説を2時間の映画にするのは大変な作業で…。小説は内的な葛藤が描けるのが魅力的ですよね。映画はまた違うから。そうは言っても小説が自由だなと感じるのは、たまに書くから思うことなのかもしれません(笑)」

「(尾崎)音楽をやっていて、体がうまく動かなくなる時期があったんです。そういう時に文章を書いていました。見様見真似でやっていく中で、たまたま編集者の方に声を掛けて頂いたのが小説を書き始めたきっかけです。音楽雑誌でコラムの連載をしていた時は『自分は結構書けるんじゃないか?』とちょっと調子に乗っていたのですが、小説になるとやっぱり厳しかったですね…」筋トレのように、たえず何かを書いていたという尾崎は、書く行為を通して作詞にも良い影響があったという。「難しいものがにあると、他の大変だと思っていたことが平気になる。だから、できないことをちゃんと持っていたい。それを小説にぶつけたいという気持ちがありました」と振り返る。

映画監督は、バンドでいうとボーカルですか?と水を向けられると「(西川)ボーカルは多分俳優だと思います、なんだろう…。バンドではないけどコンダクターなのかな?オーケストラで例えれば。指揮者がかわっても演奏者がよければ基本的には映画は出来ます」と持論を展開。

さらには編集作業について話が及ぶ。「作業工程によって脳みそを使う部分が全然違うんです。脚本を書いている時と現場で撮影をしている時とそれをフラットに繋いでいる時。人格が変わっているかも。変えざるを得ないほど異なる作業。音楽もそうじゃないですか?」「(尾崎)人にあてて跳ね返している感覚です。周りの人で自分が変わっていく瞬間もあって、以前より、そういう作業で出会う人を大事にしていくようになったと思います」

映画情報どっとこむ ralph 『母影』は、尾崎自身が通っていた整体院で出会った光景がアイディアとなり、少女の一人称語りで綴られている。約1年という時間をかけて取り組んだというが、少女の語彙で過剰に子供らしさや大人びた様子を描くその塩梅に苦労した、と明かす。

「(西川)カーテンの向こうに小学生がいるという設定は特殊だと思いつつ、その特殊性にリアリティを感じました。時代が現代なのかいつなのか、少女の年齢もほとんど分からないし、いびつなほどピュアとも思いました。同級生の女の子たちの会話の生々しさで推測するもうちょっと年齢は上かと想像していました。私、この小説を読んで小学生なんかに二度と戻りたくないと思った(笑)。少しずつの情報から読み進めていくのがスリリングでしたね」

視聴者から寄せられたお互いの作品の共通点は?好きな人に本を勧めるなら?などの質問に軽妙に答えてゆく二人。尾崎の子供の頃の町をイメージして描かれたという表紙デザインを手掛けた寄藤文平さんのイラストに「書体もきれいでさすがだなあ」とじつは知り合いでもあり過去西川監督の自著(『映画にまつわるⅹについて』)も手掛けられていた、という共通点も発覚。

尾崎は、本来の自分の文体ではない表現、自分なりに制限がある中で挑戦した作品、と自著を振り返りながら、「(西川の)『スクリーンが待っている』は”映画の攻略本″です!ぜひ映画『すばらしき世界』と本のセットで読んでみてください」と高らかにアピールし、約2時間に及ぶ対談を穏やかに締めくくった。

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『すばらしき世界』

全国絶賛公開中!
すばらしき世界すばらしき世界すばらしき世界
物語・・・
下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、優しくて真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)がすり寄りネタにしようと目論むが…。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく。
『すばらしき世界』新ビジュアル①

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出演:役所広司 仲野太賀 橋爪功 梶芽衣子 六角精児 北村有起哉 白竜 キムラ緑子 長澤まさみ 安田成美
脚本・監督:西川美和
原案:佐木隆三著「身分帳」(講談社文庫刊)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
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