2013~2014年、398日間にわたってIS(イスラム国)の人質となり奇跡的に生還した若き写真家が体験した地獄と、救出のために奔走した家族の398日間を追った衝撃の実話の映画化『ある人質 生還までの398日』が、いよいよ2月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほかにて公開となります。 この度、公開に先駆けて2月7日(日)にユーロライブ(渋谷)にて一般試写会を開催。その上映後に、ジャーナリストの安田純平さん、そして映画評論家の森直人さん登壇のトークイベントが行われました。 『ある人質 生還までの398日』トークイベント 日時:2月7日(日) 会場:ユーロライブ 登壇:安田純平(ジャーナリスト)聞き手:森直人(映画評論家) |
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今もシリア内戦は続いている。これは終わった話ではない
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■森直人さん:そのあたりのことが僕も含めてよく理解できないところがあります。そもそも安田さんを拘束していた武装勢力の正体はまだはっきりとわかっていないのですよね?
●安田純平:シリアの反政府側の組織は小さいものも含めると何百もあって、大きく分けていえるのはイスラム国とその他。この時期イスラム国は資金はあるし武器はあるし圧倒的に強かった。それでもイスラム国が嫌だという者が他の組織を作っていた。その組織からすると、イスラム国と同じと思われるのだけは嫌だ、世界中のイスラム教徒がイスラム国を批判している中で、我々がそうではない、ということをアピールすることが重要だった。 ■森直人:例えば、見せしめ動画というメッセージ性も、イスラム国に至るまでに意味合いは変わってきているのでしょうか ●安田純平:イスラム国の場合は、あの映像を流した段階でアピールの要素が強く、交渉は終わっている。この映画のダニエルも写真は少し公に流れたみたいだけど、映像は流れていない、流した段階で大騒ぎになるから。つまりこういった取引というのはこっそりやるんです。どこの国も表向きには交渉しないと言っているので、騒ぎになったら交渉ができなくなる。だから映画の中でも公表するな、と強く言われていますよね。最初は秘密裏にやる。だから映像になった段階では(交渉が)厳しくなっている、ということも言えるのです。 ■森直人:安田さんの状況はまたちょっと違ったのでしょうか。 ●安田純平:私の場合は何で流したのか、正直わからないのですが、たぶん商売だと思います。初期のころ流れたときは、日本政府が完全に無視していましたので、何とかして交渉の場に引っ張り出したいということだった。一度私の家族にもメールが来たんです。2016年に連絡がきたのですが「日本政府に連絡を取っているのだけれど、全然相手にしてくれない、どうなっているんだ。連絡先ここだから連絡して」と。だから家族が外務省に伝えたけれど、絶対に交渉はしない、身代金は払わないというのが日本政府の絶対のルールでしたから。それを無視したら死ぬかもしれない、ということがわかっていてもそういう感じでした。後半のほうでは商売でした。日本政府が乗ってこないのがわかっているのでメディアに売りに来る奴がいるんです。5000ドルくらいの話で持ち掛けてくるらしいです。 ■森直人:こういった話は報道されていない部分ですよね。安田さんが拘束されたとき、なんとなくアル=ヌスラ勢力ではないかと報道でも言われていましたが、それを受けて彼らもごまかす、というところもあったのでしょうか。 ●安田純平:現地のブローカーのネットワークのようなものがあって、私の映像を持ち出した人間が、以前にヌスラにいた人間だったからでしょう。でもシリア人でもたくさん誘拐されているし、アルカイダというと皆怖がるし、その看板をつけるメリットは相手が怖がるということだったり。 |
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■森直人:言い方ですがヤクザ映画みたいに、勢力図が色々あって、小さな一派があって。 あとこの映画で僕が初めて知ったのは、(人質交渉の専門家)アートゥアの存在ですね。実際こういう方がいらっしゃるんですよね。 ●安田純平:はい。私の家族にも実際売り込みがきました。私の家族は交渉金も払えないし、無理だと伝えると外務省に紹介してくれよ、と。値段を聞くと、見積書を送ってきた。毎月2万ドルだったか20万ドルだったか、言ってきました。 ■森直人:この映画でも描かれている、国によっての政府の対応の違い、そして自己責任論についてはどうお考えですか? ●安田純平:本人が行動した結果起こることは自己責任に決まっている。皆が負うもの。でも「自己責任論」というのは、政府や周りは関係ないですよ、という意味なんです。だから自己責任論ということを本人がよく聞かれるんですけれど、本人に聞く話ではない、と思います。政府がどう対応するかというのは本人には決められないわけで、本人が何を言おうと政府は同じように対応しなければいけない。そこは本人が選択しようがない。本来は政府は何かしなくちゃいけないとか、社会としてダニエルのように救出できるかもしれない、でもそれをやるかやらないかは政府や社会が決めること。それは自己責任ではない。それをなぜわざわざ言うかというと、政府も社会も何もする必要がない、それは本人の責任ですよ、というための論、だと思います。 ■森直人:こういったお話から、国によって態度が違うということが、国が抱えるメンタリティとかルール規範意識が浮かび上がってきますね。 ●安田純平: |
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ここでサプライズとして、この映画のモデルであるダニエル・リューさんご本人から日本の観客へのメッセージ映像が披露されました!
ダニエル:ポップコーンを楽しみつつ、現実をちょっぴり体験してほしいです。それが僕にとっては一番大切かもしれません。つまり、映画を観ることができる喜びと、紛争地域で多くの人が直面している現実との対比を感じてもらえればと思っているのです。そしてそれぞれに映画館を出る時に何かを考えるきっかけになれば嬉しいです。もしこの映画を見ても心が動かなかったら自分をチェックすべきかもしれません。それくらい色々な感情が詰まっていて現実に起きたことから生まれた物語だからです。 (このダニエルのメッセージを観て) ●安田純平:(森さんから、安田さんとダニエルさんはご自身の体験に対する距離感が似ているように感じました、と言われ) そうですね、本人たちしかわからないものもやはりあって、原作とかも読んでいて、皆さんが反応していないところでもおそらく(僕は)反応していたかと。例えば生存証明の件も、ダニエルさんには実際には2回質問がきていて、一つは恋人とどこで初めて会ったか、でした。その答えが合っているかどうかを恋人に聞く、それは、まだ自分のことを恋人は待っていてくれているんだ、ということで彼は喜ぶんですね。私の場合も質問されたことによって、家族が待っていてくれるんだと思った。そんなところに感激して読んだのは自分くらいですよね。 |
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上映後のトークということで、安田さんの貴重な話に熱心に耳を傾けている来場者の姿が多くみられ、多岐にわたった内容に時間が足りなくなるくらい、有意義なトークイベントとなりました。 2011年のシリア内戦勃発から3月で10年を迎え、ますます混沌としていく世界情勢において、私たち日本人も知っておくべき事実を描いた本作。 『ある人質 生還までの398日』2月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて公開! 公式サイト: 公式twitter: 【STORY】 |
監督:ニールス・アルデン・オプレヴ( 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』)、アナス・W・ベアテルセン
出演:エスベン・スメド、トビー・ケベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ
原作:プク・ダムスゴー「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)
原題:SER DU MÅNEN, DANIEL/2019/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー/デンマーク語・英語・アラビア語/138分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:小路真由子
後援:デンマーク王国大使館
配給:ハピネット
配給協力:ギグリーボックス
宣伝:サルーテ
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