『丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部』

アートドキュメンタリー

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絵の中で 戦死者はかたりつづける

藝術は 記憶を未来へ手渡していく

水墨画で風景画家の丸木位里(1901‐1995)と人間画家の丸木俊(1912‐2000)夫妻。
二人は「日本人側から見た記憶を残しておかなければいけない」と、1982年から1987年に沖縄戦を取材し、「沖縄戦の図」14部を描き上げた。
沖縄戦の図
本ドキュメンタリーは、個々の絵についての説明や批評があった「沖縄戦の図」全14部を全て紹介する初めての試みである。

二人が最晩年、6年かけて取り組んだ「沖縄戦の図」の制作の軌跡を辿ることで、「反戦反核の画家」と一言では語り切れない、二人の命に対する眼差しを丁寧に紹介していく。

アートドキュメンタリー『丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部』は、沖縄にて先行公開中の本作は、7月15日(土)〜7月28日(金)にポレポレ東中野、8月1日(火)〜8月6日(日)に東京都写真美術館ホールほかにて全国順次公開となります。

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河邑厚徳監督オフィシャルインタビュー

そして、東京での公開を前に、監督・撮影を担当した河邑厚徳のオフィシャルインタビューが到着しましたので、ご紹介。
河邑厚徳監督_丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図

Q.本ドキュメンタリーは、個々の絵についての説明や批評はあった「沖縄戦の図」全14部を全て紹介する初めての試みとのことですが、全14部全てに関する説明や批評がなかったのはなぜだと思いますか?

それはわからないです。普通に考えるとどれかいいもの、代表作を選ぶからだと思います。
並列だと羅列に過ぎなくなる可能性があったのだけれど、丸木さんたちが最晩年にあれだけエネルギーを費やして14部まで描き上げたことには、二人の描いていく上での情熱や思惑や願いが全て入っていると思って、本作では、1番目から順番に見ていくという手法で構成してみました。

Q.「沖縄戦の図」全作品は、戦後米軍基地として接収されていた佐喜眞道夫館長の先祖の土地を、交渉の末に返還させた特別な土地に建つ佐喜眞美術館に収められていますが、佐喜眞美術館で全14部の原画展を開催するのは現在2年ぶりで、2024年1月29日(月)までだそうですね。監督が最初に見た時は、14部全部一度に見られましたか?実際の「沖縄戦の図」を初めて見たときの感想をお教えください。

佐喜眞美術館では普段は多い時に5〜6作品で、全14部は出ていないんです。数年に1回、全14部が展示されます。当時は、「沖縄戦の図」を見て衝撃を受けました。14部あるというのは知っていたので(取材中倉庫で)見せていただき、「これはすごい」と確信しました。

Q.佐喜眞美術館では、描かれた順番に並んでいるわけではないんですよね?

絵の大きさの問題があるので、順番には並んでいないです。第三展示室という一番大きい部屋の正面に一番大きい「沖縄戦の図」が常設展示されています。一度ばーっと見てから、1から順番に見るという方法論もありますね。

Q.「沖縄戦の図」についてのドキュメンタリーを作るにあたり、どう作ることにしましたか?

基本丸木さんたちの「沖縄戦の図」からはみ出さないで、あの絵に描かれていることを伝えようとしています。絵の解釈はしないということ。美術番組ではないから、こちら側で絵の見方のリードはしない。絵に描かれているのは何かという事実を伝える作品です。

Q.佐喜眞美術館からは撮影にあたり、リクエストがありましたか?監督からは美術館側に何かリクエストはしましたか?

美術館側の意向は、照明をすごく明るくできないという以外は自由にやらせていただけました。僕からのリクエストは、美術館は(人の目の高さで見るため)大きな絵は上の方を見るとどうしても歪んで見えるので、正面から見たいと思って、大きな絵は脚立みたいなイントレを組んでもらって、正面から撮りました。

Q.撮影時は14部全部が展示されていたわけではないんですよね?

撮影のために佐喜眞美術館に全面協力してもらい、(展示されていない作品は、倉庫から)出していただきました。時間の制約がなくて何度も通えたので、思う存分撮れました。

Q.本作では、若い沖縄民謡唄者の新垣成世さんの唄と「沖縄戦の図」のコラボレーションが見られますが、新垣成世さんや同級生で平和ガイドでもある平仲稚菜さんを本作で取り上げた理由をお教えください。

どんどん若い世代にこの絵を伝えていくということを体現しているというのと、絵だけでなく文化や芸能を含めて沖縄なので、民謡を使うことで、沖縄の匂いを出しました。

Q.俊さんの著作物からの朗読もありますが、引用した部分を選んだ理由はありますか?

短くて一番響くところです。絵に描かれているものにナレーションをあてるのではなく、俊さんの生の言葉で紹介したいと思いました。俊さんが生きていれば俊さんのモノローグがよかったんですけれど。NHKのアナウンサーだった山根基世さんとはNHKで同期だったんです。なので朗読をお願いしたら、やっぱり上手かったです。言葉の意味が伝わってくる。朗読家としてもナレーターとしても超一級の、技術とハートを持っている方です。

Q.丸木夫婦の写真や映像が使われていますが、提供してくださった方々は、皆さん協力的だったんですか?

すごく協力的でした。皆さん絵についてのドキュメンタリーをぜひ作ってほしいという想いでした。写真家の本橋成一さんはお二人の読谷の制作のプロセスを撮影しに通い詰めているんです。本橋さんはネガも全部提供してくださって、「自由に使ってください」と言ってくださいました。

Q.本作の見どころはどこだと思いますか?

最後の3部です。平和を描いています。二人は戦争で悲劇や悲惨なことを描いているんじゃなくて、明るい希望や未来に向かってメッセージを送りたいというのが、最後まで丁寧に見てよくわかります。

Q.沖縄では、東京に先駆け先行公開をしていますが、沖縄の観客の反応はいかがでしたか?

「知らなかった」という声もありました。美術館に行っても、そこに描かれているものってどこかで通り過ぎちゃうけれど、立ち止まって音楽を含めて背景を見ていくと没入できるので、「改めて絵を見た」という感想と、「もう一回美術館に行きたい」という方がたくさんいました。

Q.読者へのメッセージをお願いします。

今、多くの方がスマホやパソコンなどネットで映画を見ますが、「沖縄戦の図」は4mx8.5mの作品なので、映画館の大きなスクリーンで見ることは、すごく馴染む作品だと思います。小さい画面で見るよりも、映画館であの絵の大きさに匹敵するような空間で見ることで、小さい画面だとなかなか見れないディテールや表情のニュアンスや絵が持っている力が映像として迫ってくるので、TV番組やネット番組でなく、映画にしたいと思って作りました。

普通は「本物を見なさい」と言いますが、本物を見るのが唯一の方法じゃないような気もするんです。本物を見た後に(映画館でも販売する)図録で見て確認して、またその上で本物を見に行ったり、絵は何回も見て見えてくるものがある。この映画は、まず本作を見て、全体像が頭に入ってから、本物を見て、また映画を見るだとか、何度も見ていただきたい映画です。

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河邑 厚徳(かわむら あつのり)Profile

 
映画監督。元NHKディレクター
1971年にNHK入局以来、40年以上、ETV特集・NHKスペシャルを中心に現代史、芸術、科学、宗教、環境などを切り口にドキュメンタリーを制作。現代の課題に独創的な方法論で斬り込み、テレビならではの画期的な問題提起をするスタイルが特徴。これまで制作してきた番組は、国内外の賞で入賞するなど、その独自の手法は評価を得ている。定年後はフリーで映像制作を続ける。
 

<映画>

「天のしずく 辰巳芳子 “いのちのスープ”」(2012)
「3D大津波 3.11未来への記憶」(2015)
「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」(2017)
「天地悠々 兜太・俳句の一本道」(2019)
「丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図全14部」(2022)
「鉛筆と銃 長倉洋海の眸」(2023)
 

<放送番組>

特集ドキュメンタリー「がん宣告」「私の太平洋戦争~昭和万葉集より~」、NHK特集「シルクロード」、NHKスペシャル「アインシュタイン・ロマン」「チベット死者の書」「長崎の子・映像の記憶」、BSスペシャル「エンデの遺言~根源からお金を問う~」、ETV特集「一枚のハガキ・新藤兼人」「霊魂を撮る眼・江成常夫」、日曜美術館「無言館の扉 語り続ける戦没画学生」「丸木位里・俊『沖縄戦の図』戦争を描いてここまで来た・佐喜眞美術館」など多数。

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『丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部』

公式サイト:https://okinawasennozu.com/  
公式ツイッター: @OKNWsen14movie

沖縄にて先行公開中
7月15日(土)〜7月28日(金)ポレポレ東中野
8月1日(火)〜8月6日(日)東京都写真美術館ホールほかにて公開

ノーベル平和賞候補(1995年)になり、朝日賞や埼玉県民栄誉賞などを受賞した水墨画で風景画家の丸木位里(1901‐1995)と人間画家の丸木俊(1912‐2000)夫妻。二人は、「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と40年に渡り、戦後一貫して戦争の地獄図絵を描いてきた。

1945年の沖縄戦の写真は、アメリカ側が撮影した写真しか存在していない。二人は「日本人側から見た記憶を残しておかなければいけない」と、1982年から1987年に沖縄戦を取材し、「沖縄戦の図」14部(「久米島の虐殺1」「久米島の虐殺2」「暁の実弾射撃」「亀甲墓」「喜屋武岬」「ひめゆりの塔」「沖縄戦―自然壕」「集団自決」「沖縄戦の図」「ガマ」「沖縄戦―きやん岬」「チビチリガマ」「シムクガマ」「残波大獅子」)を制作した。今までは二人で進めてきた共同制作だが、沖縄に来て、体験者の証言を聞き、生々しく残る戦地を歩き、村人も参加する開かれたものになっていった。完成した「沖縄戦の図」は、平和を願い描いた二人の作品群の中でも、余すことなく戦争の悪を描き、日本軍の愚かさを伝えてその記憶を未来へ継承しようとする怒り溢れる作品となった。

沖縄戦の図の前で唄う新垣成世
本ドキュメンタリーは、個々の絵についての説明や批評はあった「沖縄戦の図」全14部を全て紹介する初めての試みである。二人が最晩年、6年かけて取り組んだ「沖縄戦の図」の制作の軌跡を辿ることで、「反戦反核の画家」と一言では語り切れない、二人の命に対する眼差しを丁寧に紹介していく。

同時に、二人が証言を聞いた人々にインタビューすることで、二人が「戦争悪が凝縮している」と驚いた、家族同士が手をかけた集団自決など、「空爆」や「空襲」とは全く違う様相を見せた「地上戦」である沖縄戦の色々な側面を見せる。存命の直接戦争を語れる体験者が数少なくなっている中、貴重な映像資料となっている。

「沖縄戦の図」全作品は、戦後米軍基地として接収されていた館長:佐喜眞道夫の先祖の土地を、交渉の末に返還させた特別な土地に建つ佐喜眞美術館に収められている。「どぅ宝(命こそ宝)」という概念コンセプトが来場者に伝わる空間とするための工夫も紹介されている。

また、深い心の傷を負い、戦争の出来事を語ることができない戦争体験者は多いが、沖縄民謡のなかには、その悲しみと二度と戦争を起こしてはならないという切実な思いが歌詞に込められた歌も残されている。若い沖縄民謡唄者の新垣成世と同級生で平和ガイドでもある平仲稚菜が「沖縄戦の図」などから戦争について学び、民謡でも戦争体験を継承していく姿も織り込まれている。

【あらすじ】

ノーベル平和賞候補(1995年)になり、朝日賞や埼玉県民栄誉賞などを受賞した水墨画家の丸木位里(1901‐1995)と洋画家の丸木俊(1912‐2000)夫妻は、「日本人側から見た記憶を残しておかなければいけない」と、1982年から沖縄戦の取材を始める。

夫妻が最初に描いたのは、日本兵によって行われ敗戦後まで続いた、あらぬスパイ容疑をかけての久米島住民虐殺。しかし、「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と40年に渡り、戦後一貫して戦争の地獄図絵を描いてきた二人は、いつかは希望を描きたいと願っていた。二人が最後に描いたものとは?

1987年までの6年間で描かれた「沖縄戦の図」14部の制作の軌跡を辿ることで、二人の思考を明らかにし、二人が出会った人たちを通して、沖縄戦以降の沖縄の歴史を振り返る。

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ナレーション:ジョン・カビラ
朗読:山根基世

出演:新垣成世 平仲稚菜 島袋由美子 平良修 平良悦美 真喜志好一 佐喜眞道夫 山城博明 吉川嘉勝 丸木ひさ子 岡村幸宣 知花昌一 山内徳信 金城実 本橋成一 石川文洋

資料提供:沖縄県公文書館、ひめゆり平和祈念資料館、久米島博物館、読谷村教育委員会、原爆の図 丸木美術館、琉球新報社

映像提供:NHK 1984年「日曜美術館 戦世の画譜」、シグロ/パラブラ 1983年「水俣の図 物語」1987年「ゆんたんざ 沖縄」

リサーチャー:上間かな恵

イラスト:黒田征太郎  ポスターデザイン:ぎすじみち  タイトルCG:中村照雄 中村博子
技術:丸山俊 鈴木絢子 赤川淳  編集:荊尾明子  主題曲:川田俊介
音楽監督・音響デザイナー:尾上政幸  助監督:佐喜眞淳

監督:撮影:河邑厚徳

配給宣伝:海燕社、アルミード

2023 /JAPAN/カラー/16:9/ステレオ/88min
©2023 佐喜眞美術館 ルミエール・プラス

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