阪本順治監督が早稲田大学ゲスト講師主演・黒木華、共演・寛一郎、池松壮亮で送る最新作『せかいのおきく』、よいよ今週末4月28日(金)全国公開となる。『顔』『亡国のイージス』『大鹿村騒動記』『北のカナリアたち』『半世界』『冬薔薇(ふゆそうび)』など数々の名作を生み出してきた阪本順治監督の記念すべき30本目の長編映画にしてオリジナル脚本による初のモノクロ映画に挑戦した作品だ。1週間後に公開を控える4月22日(土)、早稲田大学の「マスターズ・オブ・シネマ」に阪本順治監督がゲスト講師として登場。 これまでに、山田洋次、大林宣彦、押井守、濱口竜介など、多彩な映像制作者たちを招き、創造の秘訣や制作秘話を学生との対話を通して紐解く人気講義に、阪本監督は2018年に続いて2回目の講義となった。 |
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阪本順治監督早稲田大学の大教室を埋め尽くした約300名の学生たちを前に登場した阪本監督。早稲田大学・藤井仁子教授が聞き手を務め、阪本監督のこれまでのキャリアを振り返りつつ、最新作『せかいのおきく』にかけた想いや撮影秘話をたっぷりと披露。質疑応答では多くの手が挙がり、阪本監督はひとりひとりの質問に、時にユーモアを加えながら真摯に答え、学生たちは大満足の様子をみせていた。 阪本:恒例なんです。マネージャーさんなしで、主演俳優と2人きりでサシで話しあうのが。自分の人生で、生まれてこのかたどんなことがあったのか、人には言えない事も含めて語ってもらう。相手に吐露してもらうからには自分も全部吐露する。お互いにフェアな関係を作る。そうすると撮影現場で何か起きた時も、「察してもらえる」んです。相手が僕のことをどんな人間かわかってくれているから。大事なのは自分のことを全部ばらすこと。 藤井:阪本監督の作品では、登場人物が仕事、労働をしている所を丹念に見せて、そのしぐさからその人自身の人生が浮かび上がってくる撮り方をしていますね。短い撮影期間で、ひとりの人間の人生の積み重ねを見せるのは実際大変なことだと思います。 阪本:最初に主人公の人物相関図を描くんです。家族はいるのかいないのか、結婚、離婚歴はあるのか。職業は何なのか。職業が決まると物語が立ち上がってくるんです。昔観て印象的だったのが、ロバート・レッドフォードの『ナチュラル』。レッドフォードは体格的には小柄な人だけれども、映画の中ではちゃんと大リーガーに見える。映画の中では“登場人物そのもの”に見えるように導くし、本人も努力するし、衣装やメイクのスタッフも一丸になって人物像の完成形まで持っていく。そうすることでスタートラインが決まってくるんです。 藤井:阪本監督の映画にはよく「世界」という言葉が出てきますね。最新作『せかいのおきく』ではタイトルにもなっていますが、僕は映画の中に出てくる「世界」という言葉の示す意味が、ある時点から変化していったように思うんです。当初は「必死に手を伸ばすけど届かないもの」という印象だったが、『半世界』以降は決定的な変化が見られる。遠くにあるものから、自分の身近にあるものになっているように思います。 阪本:『半世界』の前に『エルネスト』という映画を撮ったんですが、この映画を撮った後からですかね。もう少し自分の身の丈にあった映画を作りたい、間口は狭いけど奥の深い映画を作りたいと思うようになった気がします。日韓合作の『KT』、タイでロケした『闇の子供たち』、『人類資金』ではニューヨークやハバロフスクのロケもやってみましたが、日本ではないところに行って初めてわかることがある。海外での経験を重ねていくうちに「世界」というワードは自然に自分のなかで自然に生まれてきたんです。以前よりこじんまりした風に見えるかもしれませんが、自分の身のまわりの世界は、広い世界と地続きなのだという意識に変わっていったように思います。今の自分たちの回りのことと、スーダンやミャンマーで起きていること。全部地続きだと思わなければ。今世界で何が起きているかを意識する、時代と添い寝する感覚がなければ物語がスカスカになる。「世界」を意識することで完成形が変わるんです。 藤井:『せかいのおきく』は作品自体が非常に自由で、リラックスした若々しい印象を受けます。黒木華さん、池松壮亮さんと組んだのも初めてですよね。 阪本:「淡い恋の物語」も初めて書きました。今まではねじれた恋愛関係ならありましたが (笑)。もう恋愛の話で照れている年齢じゃないし、映画にとってベストなものをやろうと。現代が舞台だったら、この3人で青春ものを撮ろうとは思わなかったのですが、時代劇だったら、お互い(その時代を)知らないから自由に想像できる。携帯やSNSが存在しない世界の話ならば彼ら若者よりも僕らのようなオジさんのほうが得意ですし(笑)。彼らと同等な、フェアな立場でやれたのが良かったですね。 藤井:阪本監督作品の特徴として、役者さんに無駄な動きをわざとやらせるというのがあると思います。『せかいのおきく』で佐藤浩市さんが落ちている桶を拾って元の場所に戻すシーン、池松壮亮さんが道端でお地蔵さんを見かけると必ず手を合わせるシーン。話の本筋とは直接関係ないけれど、その人自身の人柄がにじみでる、画面が活気づく。 阪本:そうした「足す演技」についてはものすごく考えますね。川がさらさらと流れるよりも、途中に流木みたいなもの、何か行く手を遮るものがあったほうが面白い。なのでちょっと余計な動きを入れるんです。でも役者が演技を意識しすぎていると「意識しないで」と言いますね。役者は何か演技しないと不安になるけど、「何もしない」という芝居もあるよ、と。 |
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◆学生との質疑応答Q. 映画『半世界』のラストシーンは、クランクアップ直前に思い付いたことを取り入れた、というエピソードを面白く拝聴しました。偶然に生まれたアイデアを現場ではどのように取り入れているのでしょうか? 阪本監督: Q.阪本監督が、キャスティングで一番大事にしていること、信念がありましたら教えてください。 阪本監督: ※早稲田大学「マスターズ・オブ・シネマ」 |
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映画『せかいのおきく』4月28日(金)GW全国公開 おきく、22歳。 |
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア 第52回 ロッテルダム国際映画祭ビッグスクリーンコンペティション正式出品
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