映画の王国・ジョージア(グルジア)の伝説的女性監督、現在93歳となるラナ・ゴゴベリゼの到達点と言える傑作『金の糸』。現在、東京・岩波ホールで公開中だが、本日3月3日、歌手の加藤登紀子さんが上映後のトークショーに登壇した。 映画の舞台はジョージアの古都・トビリシ。 79歳の誕生日を迎えた作家エレネが「誰も私の誕生日を覚えていない」と独白するところから始まるが、「実は私は主人公エレネと同い年。私の家族にこの映画を見せておけば、誕生日を覚えておいてくれるわね」と観客を和ませると自身とジョージアを結ぶ縁として、ジョージアの画家ピロスマニの悲恋を歌った歌詞で知られ、加藤さんの歌唱で日本でも有名になった名曲「百万本のバラ」に秘められたエピソードを紹介。「この曲を書いたのはラトビアのライモンズ・パウルスという人なんです。1990年にラトビアがソ連から独立するとき、ゴルバチョフはもう独立は時間の問題とわかっていたのに戦車を出しました。たくさんの市民が集まった広場で先頭に立って戦車の行手を阻もうとしたのがライモンズ・パウルスでした。私はそのニュースを知って“なぜ戦車なの?”と、とても辛い気持ちになりました」。元は歌詞もラトビア語だった。それをプラハの春のソ連侵攻を厳しく非難したことでも知られるロシアの詩人アンドレイ・ヴォズネセンスキーが、モスクワを追放されてたどり着いたジョージアでピロスマニを知り、彼が書いたロシア語版の歌詞を加藤さんが日本語訳して発表したのが、今、日本で愛されている「百万本のバラ」。加藤さんが語るこの曲のエピソードには、映画にも重なるソ連と旧ソ連構成国の複雑な歴史を感じさせ、今も続くロシア軍によるウクライナ侵攻についても「どんな国家間の問題であろうとも、武力で解決してはいけないと思ってます。ウクライナとロシアが一日でも早く停戦することを願うばかり」と祈るように力を込めた。 また映画については「日本の“金継ぎ”を着想にしていることにとても感心しました。よくぞゴゴベリゼ監督が映画にしてくれたと思います。映画にはとても示唆に富んだ言葉がいっぱいあって、沢山ノートに言葉を書き込みながら観たんですよ」と絶賛し、特に劇中の“我々は常に後進性と周縁性の意識にとらわれていた”という言葉が印象に残ったという。「長い歴史をもち、周辺の国の影響を受けながら、自分たちの文化を大切に守ってきた日本ともすごく通ずる部分があるのではないか」。 そして最後には、今年7月末の岩波ホールの閉館についても触れ、「閉館してもホールがすぐなくなるわけではないのだから、ぜひ岩波ホール作品のベストセレクションのような上映会をやってほしい」と、思い出のつまった岩波ホールの閉館を惜しんだ。 「沢山の“ひび割れた過去”を、忘れるのではなく宝物として守っていくのよ、というジョージア人の「生きる」ことを見つめる姿勢が美しい作品。ぜひ皆さんと一緒にこの映画を愛していけたら」と締めくくると、会場からは大きな拍手が起こった。 |
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毎週木曜は豪華ゲスト登壇の上映後トーク開催!岩波ホールでは今後も毎週木曜日13:00の回上映後に豪華ゲストによる上映後トークを予定している。日替わりのゲストは、SNSでのジョージアツイートが大人気な駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバさん、コーカサス地域を中心に研究する政治学者で慶應義塾大学教授の廣瀬陽子さん、「ジョージア映画祭2022」の主宰で画家のはらだたけひでさん、ジョージア文学・批評理論研究者の五月女颯さん。ジョージアに深い関わりのあるゲストから、『金の糸』のことやジョージアの現在を語っていただく。ここでしか聞けない貴重なトークを、映画とあわせてぜひお楽しみください。 『金の糸』上映後トークスケジュール:※すべて13:00の回上映後 |
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『金の糸』原題:OKROS DZAPI 岩波ホールほか全国順次公開中 公式サイト: ストーリー |
監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ
撮影:ゴガ・デヴダリアニ
音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ
2019年 ジョージア=フランス 91分 字幕:児島康宏
配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019