この度、セザール賞長編アニメーション賞受賞をはじめ、世界中で喝采を浴び、日本でも絶賛されたオーレル監督長編アニメーションデビュー作『ジュゼップ 戦場の画家』を、8月13日(金) 、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開となります。
その劇場公開に先駆け、東京アニメアワードフェスティバル2021で審査員のひとりをつとめた、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の片渕須直監督と、映画評論家の森直人をゲストに迎えてトークイベントが行われました。 『ジュゼップ 戦場の画家』公開記念トークイベント概要日時:8/3(火) |
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まず本作の舞台である1930年代のスペイン内戦について、小説家のアーネスト・ヘミングウェイ、ジョージ・オーウェル、写真家のロバート・キャパなど関連する人物について名を挙げ、時代背景について解説。 続けてこの映画を見た感想について片渕監督は、「スペイン内戦の史実はよく知られていることなのだが、この映画で描かれた当時のフランスの態度がこれまで抱いていた認識と大きく違っていた。フランコに味方したナチス・ドイツとやがて戦うことになるフランスは、ジュゼップもいた共和国側を応援していたのだろうという意識がこれまであったが、ジュゼップ含めスペインを逃れた人々はフランスの強制収容所に入れられ、かなり差別的な待遇をとられていた。驚きだった。」とコメント。 森さんも、「他にもスペイン内戦を描いた映画は多いが、スペイン内戦の末期、人民戦線側の人々が避難先であるはずのフランスの強制収容所に入れられた事実は、本作で初めて知った。」と語る。 |
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劇中では、一人の老人が孫に向けて戦争の悲惨さを語りながら物語が展開されていく。老人の視点から描いたパートと孫の視点から描いたパートでそれぞれ異なった画風を見せる本作について片渕監督は、「孫の視点で描かれたパートの画風はまさに『タンタン』のようだ。」とベルギーのアニメーションと重ねた。続けて、老人視点のパートの画風について、「老人の記憶らしく時間の感覚が曖昧になってきている感じがする。記憶の中にはその経験がしっかりあるのだけど、呼び戻そうとするとどうしても時間が途切れ、曖昧になっていく。それがそのまま画面に現れており、それが絵が動いていない表現と一致している。日本のアニメでは手を抜いたと思われかねない手法を大胆に使って、時の流れの不思議さが動かない絵を滲み出させている。」とオーレル監督の演出を絶賛。 第二次世界大戦末期の広島を舞台に、市井の人々の生活を描いた片渕監督の『この世界の片隅に』を踏まえ、歴史の史実をアニメーションで描くことについて尋ねられると、「写真や一次資料から実際の世界の片隅を復元するように作ることを、心がけている。オーレル監督は“記憶”を描いており、『この世界の片隅に』とはまた違ったアプローチの仕方をしている。」と二作品を比較してコメント。森さんは、「史実を描きながら、個人的な視座の中で強弱が事実につけられている。体験としても面白い。」と語る。 さらに“記憶”をポイントとしたアニメーションにクメール・ルージュの虐殺を描いた『FUNAN フナン』を挙げた片渕監督は、「『FUNAN フナン』は、虐殺の時代を体験していない監督が、親世代の体験の記憶を受け継いで描き、やはり“記憶”を大切にしている。その“記憶”を薄れさせてはいけない。」と次世代へ語り継ぐことの重要性を述べ、『ジュゼップ 戦場の画家』との共通性を語った。 数々の映画祭で審査員をつとめてきた片渕監督が見る、海外のアニメーションについては「短編のアニメーションが長編化してきている。その要因に、従来のアニメーション制作とは違い、工程がデジタル化してきていることが挙げられる。イラストレーターなどの個人作家が長編アニメーションを作れる時代になってきている。」と現代のアニメーションの傾向について分析。最後に、「実写を作ろうと思ったことはありますか?」と森さんの質問に対し、片渕監督は「長く携わっている自分にとっては、実写よりアニメーションの方が表現したいものを直接伝えられるものになっている。でも、今年で、アニメーションの仕事をはじめて40年。実写映画のプロデュースなどにも挑み、映像や映画の新しい楽しみをみつけ続けていく。」と語り、トークを締めくくった。 |
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『ジュゼップ 戦場の画家』STORY |
監督:オーレル
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ (『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』)
2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:JOSEP/日本語字幕:橋本 裕充
配給:ロングライド