映画情報どっとこむ ralph “映画を語る”配信番組「活弁シネマ倶楽部」の最新回は、「篠田正浩監督特集」だ。MCは当番組お馴染みの森直人が務め、映画評論家にして映画監督でもある樋口尚文をゲストとしてお迎え。番組後半では映画ジャーナリストの徐昊辰も加わり、映画ファン垂涎のコアなトークを展開している。
篠田正浩監督特集/活弁シネマ倶楽部
現在、東京都内では、渋谷・ユーロスペースにて同監督の特集上映「篠田正浩監督生誕90年祭 『夜叉ヶ池』への道」が開催中だ。本特集は、目玉である『夜叉ヶ池 4Kデジタルリマスター』を中心に、『私たちの結婚』『涙を、獅子のたて髪に』『乾いた花』『暗殺』『心中天網島』『無頼漢』『沈黙 SILENCE』『化石の森』『はなれ瞽女おりん』といったラインナップ。また『夜叉ヶ池 4Kデジタルリマスター』はBlu-rayがリリースされたばかりでもある。

同作は、作家・泉鏡花による同名作品を原作に1979年に篠田監督が映画化したもの。当時の歌舞伎界で女方として一世を風靡していた坂東玉三郎が、映画初出演を果たしたことも話題となった作品だ。そんな本作は巨額の資金を投じて製作された、いわば“大作映画”だが、長らく“幻の映画”とされてきた。なぜ本作が、なかなか映画界の表舞台に顔を出さなかったのかについての森の質問に、樋口は答えている。「松竹の看板である坂東玉三郎さん主演の“文芸大作”ですよね。篠田監督は独自の製作スタイルで、『心中天網島』なんかが大好きだった僕は公開を楽しみにしていました。でもこの当時の封切り状況がすごくて。大島さんが降板したという『日本の黒幕』や神代さんの『遠い明日』、野村芳太郎の『配達されない三通の手紙』に、村野鐵太郎の『月山』が並んでいたんです」と樋口が語るのに対して森は、「“79年”という感じがすごく出ていますね」と反応。たしかに非常に濃いラインナップだ。

樋口は、1979年当時の『夜叉ヶ池』封切り日のことを「劇場内はちょっと異様な感じでしたね。歌舞伎ファンや、玉三郎さんのファンが押しかけてきているわけでもないようでした」と回顧。その中でも“歌舞伎ファン”と思しき観客が上映後に口にした、「なんか『ゴジラ』みたいな映画だったね……」という言葉が印象に残っているらしい。「たしかにこの映画は、完成度の高い傑作・名作といった類の映画ではないです。けれども、ものすごい実験作であり、挑戦作。文化的なものたちをボーダーレスに、ごった煮的に一つのエネルギッシュな作品に仕上げようという試みが素晴らしいなと僕は思ったんです」と樋口は続けている。しかし、当時の映画論壇からは“黙殺”や“酷評”に近い扱いを受けたようだ。この1979年は、『太陽を盗んだ男』『復讐するは我にあり』『Keiko』『もう頬づえはつかない』といった、高い評価を得た傑作が公開された年でもある。この並びの中で『夜叉ヶ池』の存在は、良くも悪くも“浮いた”映画だったよう。本作がいわば“封印”となっていた理由について、丁寧に考察し、明かしている。

「『心中天網島』との出会いが衝撃的なものだった」と話す徐は、「私にとって好きな日本像とかなり近いように思った」と続ける。そんな彼の趣味の一つが、旅。中国出身である徐にとって旅とは、歴史や自然に触れることであり、篠田作品はそれに通じるものがあるのだという。「個人的に篠田作品で一番印象深いのは、『桜の森の満開の下』です。舞台となっている吉野山に何度も行っているのですが、実はあそこで桜を見られる機会ってほとんどありません。そんな中でも一度だけ、“満開の桜の下”を歩いたことがあります。そのときに、桜の美しさや、『桜とは何か?』ということを考えるようになりました」と語っている。徐いわく篠田作品の特徴として、“日本を知る”きっかけを与えてくれる側面が強くあることを挙げている。いろいろな面から注目を浴びる日本。しかし、日本を旅したくても、そうもいかないこのご時世。だからこそ、映像作品を通して、日本を知る。『日本とは何か?』ということを考える。「篠田作品がもっとも求められる時代がやってきたのではないか」と徐は持論を展開している。

もちろんこの収録回では、篠田正浩作品が体系的に語られているほか、『夜叉ヶ池』を起点に、「1979年という時代」や、“松竹ヌーヴェルヴァーグ”などについても話は及んでいる。いま改めて篠田正浩作品の魅力に触れる、貴重なアーカイブ資料となりそうだ。

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『夜叉ヶ池』

あらすじ
三国嶽のふもとの琴弾谷に、夜叉ヶ池の伝説の調査に来た学者の山沢(山﨑努)は、迷いこんだ池のほとりで、息を呑むほど美しい女性と出会う。百合(坂東玉三郎)というその女性は、夫と二人で鐘楼守をしているという。家に招かれた山沢は、かつての親友で、夜叉ヶ池の調査に出たまま帰らぬ晃(加藤剛)が百合の夫であることを知り驚愕する。夜叉ヶ池には竜神が封じ込められていて、一日に三度鐘を撞かなければ竜神が再び暴れて洪水を引き起こし、村が流されてしまうため、鐘楼守をすることになったのだという。しかし、ある出来事がきっかけとなり、平穏な日々が破られることになるのだった――。(本編約124分)
『夜叉ヶ池 4Kデジタルリマスター版』ジャケット写真

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出演:坂東玉三郎、加藤剛、山﨑努、丹阿弥谷津子
原作:泉鏡花
脚本:田村孟、三村晴彦
監督:篠田正浩
製作:杉崎重美、富沢幸男、中川完治
撮影:小杉正雄、坂本典隆
特撮監督:矢島信男
音楽監督:冨田勲美術:粟津潔、朝倉摂、横山豊
照明:飯島博録音:平松時夫
調音:西崎英雄
編集:池田禅、山地早智子
監督助手:熊谷勲
©1979/2021 松竹株式会社

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