第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)で最多5部門(作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞)を受賞したチェン・ユーシュン監督最新作『1秒先の彼女』がいよいよ6月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開となります。
本作は、人よりワンテンポ早い彼女と遅い彼による、“時間”をめぐる新たなラブストーリーの傑作として、すでに「今年ナンバー1!」「こんな時だからこそ、こういう映画が見たかった!」と一足先に本作を鑑賞した評論家たちが絶賛しており、映画ファンから大きな注目を集めています。 その公開に先駆け、6月16日(水)、渋谷ユーロライブにて試写会を開催。 『1秒先の彼女』トークイベント日時:6月16日(水) |
|
清田:今年みた映画の中で1番好きです!コミカルで可愛くて、でもジェンダーについて考えさせられる部分もある。本当に様々な魅力的がある作品です。 東:これは、“ゼロイチ”の物語ですよね。詳細は観てからのお楽しみですが、2人の物語がこれから動き出す瞬間をスクリーンで目撃することに。観終わって劇場を1歩出た瞬間が、また始まりになるような体感がありました。似た構造の映画は『君の名は。』(16)ですが、その“ゼロイチ”の物語に、不器用でワンテンポズレてしまう主人公たちが加わります。多様性を肯定する要素が組み込まれた、アップデートされた恋愛映画だと思います。 清田:お気に入りのシーンがたくさんあるんですが、なかでも登場人物たちの仕事や食事をしているシーンがぐっときました。仕事中でも適度に力が抜けていて、ランチ休憩を死守したり、路線バスを勝手に路肩に止めてしまったり。日本人はどうしても役割意識を優先しすぎてしまいますが、自分を大切にしながら働いている姿に心がふっと軽くなったし、食事シーンもとにかく美味しそうに食べるのが印象的でした。 東:本作は人物像の描き方がとても丁寧で、特に”恋をしている瞬間の男性”の切り取り方が素敵だと思いました。シャオチーが応対する郵便窓口に呼ばれたくて、グアタイが手慣れたように何枚も整理券を発券するシーンとか、些細なシーンにまでこだわっていますよね。 清田:シャオチーとハンサムなダンス講師が公園で出会うシーンは、先日最終回を迎えた坂元裕二さん脚本のドラマ「大豆田とわ子と3人の元夫」のラジオ体操のシーンとリンクしている気がしました。松たか子さん演じるとわ子も周囲とズレてしまうんですが、同じくズレてしまうオダギリジョーさん演じる小鳥遊と恋愛めいたものが始まっていき…。周囲とのズレを共有しあえるマイノリティ同士の偶然の出逢いであったり、彼女らのキャラクターの愛らしさがまさに一緒で。チェン・ユーシュン監督と坂元裕二さんとの共通するセンスや感性みたいなものを感じました。 東:「周囲とのズレ」をそっと肯定するようなメッセージ性は、現代のテーマでもあるかもしれませんね。 清田:現代性というと、本作には「男性の描かれ方」にも特徴があります。坂元裕二さん脚本のドラマでもそうですが、弱くて情けないけど、そういう部分を正直に吐露する男性キャラクターが登場します。グアタイは一歩間違えればストーカーになり兼ねないわけですが、常に葛藤している姿が描かれたりと、どのように表現したら加害や暴力にならないか、その部分を丁寧に考えている作品だと思いました。 東:この映画がほかの作品よりも圧勝しているのは、とにかくキャラクターの作りが秀逸なところ!シャオチーは可愛いけれど、ちょっと痛々しい部分もある。グアタイも優しいけど、恋愛との向き合い方に対して少し危うい側面も持っている。でも、この2人の唯一無二な人間像を絶妙なバランスで魅力的に描いていますよね。 清田:こういう人物像って、描こうとして描けるものじゃないので、もう監督のセンスとしかいいようがない。印象的なキャラクターは簡単に描けるかもしれないですが、なんともいえない様々な魅力が混ざっていて、最終的に彼女らを大好きになってしまう。この映画はストーリー構造的の面白さも抜群なのですが、それ以上にキャラクターの魅力が表に出ていて…。その魅力の多様さがこの映画が名作たるゆえんかなと思います。 「ラブコメ」という枠に収まらない、“自己肯定感”を上げてくれる系映画! 清田:視点の変化ではないですが、『ブルーバレンタイン』(11)も視点が交差していき、関係性の変化を体感していく映画で、面白い作りの映画でしたよね。 東:『イニシエーション・ラブ』(15)や『はじまりのうた』(15)も、前半と後半で見え方がまったく違う作品ですが、そのような作品は名作が多いなという印象です。本作はさらに、「世界に一つだけの花でいい」というメッセージ性も加わっているんですよね。 清田:本作は「時間」をテーマにした作品ですが、とある宛先にずっと「手紙」を出し続けたグアタイの姿を通して、堆積された膨大な時間を体感させられますよね。なので、ラストのとあるシーンの感動がすごすぎて(笑)。そこに封じ込められた感情が一気に流れ込んできて、到底言葉では追いつかないような感情になって、思わず涙を流してしまう。それこそが「感動」の正体なんじゃないかと思いました。ちなみにですが、チェン・ユーシュン監督の初期作『ラブ ゴーゴー』(97)でも「手紙」が「相手のことを考えている時間」が凝縮されているアイテムとして圧倒的存在感を放っています。 東:現代はSNSの普及で情報がたくさん入ってくる分、周囲の人とすぐ比べてしまって落ち込んでしまったり…。自己肯定感を保つのが難しい気がしているんです。でも、知らないところで「自分が誰かの人生の歯車になっている」ということが、こんなにも勇気をくれるんだということに気づかされます。「ラブコメ」という枠に収まらない、恋愛映画の皮をかぶった人生賛歌ですよね。 清田:いい映画やドラマの条件のひとつは、その世界に生きている人たちのことを好きになってしまって、この世界から出たくないなと思ってしまうことだと思います。観終わってすぐ「ロス」になってしまいました(笑)。今はなかなか人に会いづらい状況下で、感情が渋滞してしまうこともあると思うんです。映画や本に触れて感情を大いに動かしてもらいたいし、本作についてSNSで様々な人と語りあったりしてみてもらいたいなと思いました。 東:自分自身と対峙する時間が増えている中で、この映画の登場人物たちのように、自分の人生にも何か失くし物がないか振り返ってみたりとか、何か行動を変えるきっかけにもなり得る作品だと思います。本作は、『君の名は。』であり、「世界に一つだけの花」です!ぜひご覧ください。 |
|
映画『1秒先の彼女』英題:My Missing Valentine 6/25(金) 新宿ピカデリーほか全国公開 ストーリー |
監督・脚本:チェン・ユーシュン(『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』)
出演:リウ・グァンティン、リー・ペイユー、ダンカン・チョウ、ヘイ・ジャアジャア
エグゼクティブ・プロデューサー:イエ・ルーフェン、リー・リエ
2020年/台湾/カラー/119分/中国語/シネスコ
配給:ビターズ・エンド
©︎MandarinVision Co, Ltd