現在までに11の賞を受賞している映画『いつくしみふかき』が、4月17日(金)からテアトル新宿での公開を皮切りに、大阪・テアトル梅田、京都みなみ会館、名古屋シネマスコーレ、横浜シネマジャック&ベティ他で順次公開となります。
劇団チキンハート主宰の遠山雄の親しい知人とそのお父さんについての実話で、ひきこもりの知人が葬儀で父親をかばいながらも謝罪をした姿が衝撃的だったことが映画化のきっかけ。実際に知人が住んでいた長野県飯田市に、劇団員が実際に代わる代わる住み込んで、今回の映画化に漕ぎ着けた。 父親・広志役を、意外にも本作が映画初主演となる渡辺いっけいが、遠山の知人が基になったその息子・進一役を、遠山自身が演じ、W主演を飾っています。 今回、自身の知り合いの親子についての実話の映画化を企画し、渡辺いっけいとW主演を飾った遠山雄のオフィシャルインタビューが届きました。 |
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Q. 広志役のモデルになった方の葬儀に参加して衝撃を受けたことが本作の企画に繋がったとのことですが、そのエピソードについてお聞かせください。 僕は20歳前後の時、自分の父親とうまくいっていない時期があったんですけれど、広志役のモデルの方と息子さんとは交流があって、広志役のモデルの方にちょっと憧れていたんです。諸々の事実を全部は知らないんですが、自分の父親と比べると息子ともすごく友達のように接しているし、僕に対しても割とかっこよく接して下さっていたので、素敵な人だなと思っていました。葬儀で3枚位の手紙を息子さんが読んだんですけれど、その最初の半分以上が、自分の父親が今まで迷惑をかけた事柄で、「皆さんには本当にご迷惑をおかけしました」という謝罪のような文章だったんです。本人は途中で読めなくなってしまって、他の親族が代わりに読みに来たんですが、その人もなんやかんや読めなくなったからまたもう一人交代して、みたいな感じだったんですけれど、そこから一転、「自分自身ふさぎこんでいて引きこもりだった時間が長かったけれど、父親と会ってから活発になって自分の目的も見つけた」というような内容で、知らない側面だったので、すごく衝撃を受けて、葬儀が終わった時に、友人に「僕にもその手紙をコピーして下さい」と言って、それがこの映画に繋がりました。映画にしようということまでは考えていなかったんですけれど、直感で、残しておいたらいつか何かに役立てるのではと思っていました。 Q. 大山さんに監督をお願いした経緯を教えてください。 大山君とは、武蔵関のショットバーで知り合いました。僕はバーテンをやっていて、彼は助監督の駆け出しで、「ROOKIES」とかをやっていた時代です。お互い映画が好きだったので、映画の情報交換をしていました。会う度に「1本やりましょうよ」と言っていたんです。短編を撮ってもらったり、一緒に劇団を作ったりしました。出会った時は、お互い映画に対する夢がしっかりあったんですけれど、自分は劇団の興行主みたいになってしまったし、大山君も家族ができると安定した助監督の仕事ばかりやるようになりました。彼にも「このままじゃ君はずっとドラマの助監督で終わってしまうぞ」と発破をかけて、5年半前頃に、「劇団も自分たちの大きな目標はクリアしたので、ここらでちょっと映画をやってみませんか?」という話をしました。 売れない俳優は、俳優としての実感を保つために、演劇に出ることが多いんです。演劇ばかりやっていると、アルバイトもできない状況で、どんどん金に困っていきます。”3000人”という動員の数字が1つのメジャー劇団のボーダーラインだと演劇の小説や雑誌で読みました。調べると、各劇団、3000人達成に大体10年以上かかっているんです。大山君が「僕らは5年だね」という無謀な目標を立てたんですが、最終的に4年半でなんとかクリアして、僕の中ではこれで終わらせて映画に行きたいという想いがあったので、千秋楽で「2年位活動を休止します」言いました。結局6〜7年かかってしまっていますけれど。仲間からも反感を買って、劇団が仲間割れしたりもしたし、僕から離れたお客さんもいるかもしれません。僕の場合は、主宰している劇団の興行で食えるようになっても、俳優として食えているわけではないので、葛藤がずっとありました。僕と浩二役の榎本(桜)がとにかく映画で売れたい人間で、目的が合致していたのは彼くらいです。 脚本は、どの程度モデルになった親子の事実に基づいているんですか? 起こった出来事は、ほとんど事実です。共同生活はしていませんが、2人はお互いの家を行き来して毎日のように会っていました。モデルの親子は実際はめちゃくちゃ仲がよかったです。牧師さんにもモデルがいます。 僕に関しては、演じる上で自分の父親に対する想いを意識はしなかったですけれど、自分の父親には自分の思っていることをちゃんと話せなくて、一緒にいるのが負担だったんです。友達のように会話をしている親子を見て羨ましいなと思っていました。今回の役も似たような感じで、親子で会話をするシーンは少ないですけれど、父親に対して緊張しちゃうというか、「何を言っても伝わらないだろうな」という想いは共通しています。大山君に関しては、脚本執筆時に、自分の父親とのエピソードを入れていると思います。 長野県飯田で撮影することにこだわりがあったと聞きましたが、どのようなこだわりがあったんですか? 幼い頃、3年周期で引っ越していたんですが、やっと友達ができて馴染んできたのに、次の所に行かなくてはいけないというのは、子供にとって負担なんです。他の学校だとちょっとからかいに来たりだとかがありましたが、長野の大鹿村に転校した時は、皆がすごくフレンドリーで、1日で打ち解け、温かいと感じました。また、おじいちゃんとおばあちゃんの家に預けられていて、冬は寒いので飯田の長男の家に住んでいたのですが、すごく優しかったんです。僕を不憫に思って特別扱いをしてくれていたのかもしれません。嫌なことがあったり、これから何かチャレンジをしなくてはいけなくて不安がある時は、大人になってからも、何かあるとおじいちゃんとおばあちゃんのお墓に報告しに行く位温かい思い出しかない場所なので、どれだけ大変なチャレンジをしても、この場所だと最終的に誰かが助けてくれてなんとかなるのではないかという気持ちがありました。実際にモデルの方たちが住んでいた場所というのもあります。 Q.撮影準備のエピソードをお教えください。 “映画「いつくしみふかき」を応援する会“ですが、皆さんご自分の仕事もあるので、応援する会の代表が決まらなかったんです。「この人だったら、誰も文句を言わない」という方がいらっしゃったんですが、「ここだけの話だけれど、俺は末期ガンだから、この町の団体の議長などもほとんど降りている。この映画が大事な時に自分はもういないかもしれない」と言われました。それでも僕はその方が助けてくれたら、この映画に疑問を持っている人たちも味方になるのではないかと思って、「何でもします」と言ったら、色々注文されたんですけれど、一番きつかったのが、ゴールデンウィークに、「お前を応援する奴らを3日後に連れてこい」と言われたことです。誰でもいいという訳ではないと思ったので、説明してお話ししたら、十何人集まって下さいました。それが今の応援する会の中心メンバーです。その方は、「これだけ集まったのは大したもんだ」と言って下さり、「代表はできないけれど、顧問という形で」となりました。とは言っても動きはトップの動きで、全然話が進まない時もその方がズバズバ言って下さり、クランクイン1ヶ月前に準備が整っていない時に、彼が動き出したら、あっと言う前に物資が集まり、環境が整ったんです。映画が完成するのに時間がかかっている間に、ある時から返事が来なくなっていて。映画の音の最後の調整を飯田の映画館でやって完成させたんですが、帰り道に映画館から電話が来て、「亡くなったぞ」と言われて。その方の言っていた通り、ご本人は完成した映画を見れていないんです。DVDを棺桶の中に入れさせて頂きました。この間も、台本や記念品を印刷して下さった印刷屋さんの社員さんも亡くなって。自分達が完成までに時間をかけてしまったばかりに間に合わなかった方が多いんです。 Q.遠山さんの知り合いの実話がベースとなっていますが、知り合いを演じるというのはいかがでしたか? その知り合いに寄せようとは思っていなかったです。ご本人と進一は全然違う人間だと思います。逆に僕は、広志みたいなタイプの人間だったので、若干不安でした。 Q. 撮影中は、どのような点を心がけましたか? 劇団をやっている時は、お芝居をやりたいのに、運営で頭が一杯になって、「出番を少なくしてくれ」と頼んでいました。1時間半の内5分しか出ないでいいように無理やり削っていたんですが、本来は芝居をしたいので、今回の映画は、撮影中は演技に集中できる環境にして頂きました。 Q. 大山さんが現場で監督としてこだわっていたのはどのような部分ですか? 大山君は「普段見たことがないいっけいさんを引き出したい」というのがあって、闘っていたと思います。 大山君がすごいのは、現場で急に演出や台本を変えたり、その場のひらめきが多いんです。僕はずっと一緒にやっていたからそれに対応できるんですけれど、台本通りに想定してきた普通の俳優からすると、しんどいことだと思うんです。それでも彼はめげなくやって、今回のスタッフは、それに柔軟に対応する方たちだからすごいなと思いました。似たようなタイプの監督の他の現場では、スタッフが翻弄されていたのを見たことがあります。舞台でも、「あと10分後に出るんだよ?」という時に改訂の台本を渡してきたこともあるんですが、僕はそれが楽しいなと思っています。 Q. 親子だと知らずに共同生活をするシーンは一転コミカルでしたが、撮影していかがでしたか? 僕はそういうお芝居の方が得意なんです。逆に冒頭のシリアスな部分の撮影はきつかったです。いっけいさんもお芝居が上手だし、金田さんもすごいので、楽しい撮影でした。 Q. 父親役の渡辺いっけいさんとの関係についてお教え下さい。 僕はできるだけいっけいさんと喋らないようにしていたのに、金田さんは合間に「ねぇ、いっけい君」「ねぇ、遠山君」とずっと喋っているんですよ。牧師役そのものだったかもしれません。お芝居は面白いし、楽しかったです。 Q. こいけけいこさんとの共演はいかがでしたか? 全く存じ上げない方だったんですけれど、オーディションの時に彼女の友人が僕に会いに来て、「彼女の地元で撮影が行われると聞いたんですが、彼女はガンの闘病中でオーディションに参加できないので、プロフィールを持って来ました」とのことでした。いきなり「余命を知っているので、間に合えば最後に生きた証を残してあげたいんです」と言われたんです。自分の知らない方だけれど、飯田出身の方なので、何かしら出るシーンがあればと監督と確認して、1回東京のご自宅の近くでお会いさせてもらいました。ご本人は明るい方で、余命の話はしなかったんですけれど、「役者活動はできていないけれど、出れるのなら精一杯やりたい」とのことだったので、出て頂きました。去年の9月に亡くなられ、本作が遺作になってしまいました。183cmのものすごくパワフルな方で、自分もお芝居に乗れました。すごくいい空気を作る方でした。 Q. 完成した作品を見た感想はいかがでしたか? 遥かに見積もりをオーバーして請求書が来た時に、監督を殺してやりたいと思ったんですけれど、完成した作品を見たら、カラコレなど想像の範疇を超えていたので、「えっこんなことやったの?」とびっくりしたし、音楽も「どうしたの、これ?」と思いました。自分が出ている映画なんですけれど、純粋に「すげえな」と圧倒されました。 Q. ご自身にとってどのような作品になりましたか? 本当にフルパワーでやったので、自分の俳優業の壮大なプロフィール資料になりました。とは言っても、普段の芝居とは全然違うんですけれど。 Q.ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で(観客賞である)「ゆうばりファンタランド大賞」を受賞した感想はいかがですか? 見た観客の方や記者の方が「グランプリだ、グランプリだ」とおっしゃって、グランプリを目指していたので、正直めっちゃ悔しかったです。後からツイッターの感想を見ていると、『いつくしみふかき』に関する感想が圧倒的に多かったし、「グランプリだと思っていた」という感想が多かったので、観客賞の意味や価値を実感していきました。僕らが劇団をやっていた時は、一般のお客さんたちをすごく大事にしていたので、演劇のファンはほとんどいなかたんです。なぜそこにこだわっていたかというと、どんどん演劇のお客さんが少なくなっている時に、劇団を大きくするために、演劇に苦手意識があったり、普段見ない人に無理やり見せて、「面白いじゃん」と思わせていかないと、絶対にダメだなと思ったんです。ゆうばりに関しては、映画が好きな人が集まるんでしょうけれど、映画監督とか同業の方達よりも一般の方が評価して下さいました。本来そこにこだわっていたので、3日後位に「俺らに一番合っている賞じゃないか。観客賞でよかったな」と思い始めました。 Q.モントリオールのファンタジア国際映画祭での上映はいかがですか? ファンタジアでもハリウッドでも、お客さんの反応がすごいんです。日本と違って横の人とかに遠慮しないで、リアクションをしてくれるんです。笑うところはものすごく笑うし、驚く時は”Wow!”とか”Jesus!”とか本当に言うんです。ため息もついたり体も動くし、感動しました。英語字幕は神経を使って作ったんですけれど、「伝わるのかな?」と半信半疑のところがあったんですが、台本通りの「これを狙ってたんだよ!」というリアクションをしてくれるんです。上映後、長時間感想を伝えに来る方が多かったです。 Q.本作の見どころを教えてください。 まずはもちろん、普段見れない渡辺いっけいさんが見れます! Q. インタビューの読者の方にメッセージをお願いします。 多分皆さんの俳優のイメージって、「事務所があって、マネージャーさんが営業してお仕事を取ってくる。下積みが大事で、有名になると仕事のオファーがくようになる」だと思うんですけれど、実際は98%位の人がそうならずに俳優という夢を諦めていると思います。そんな中で、自分みたいな無名な俳優が、映画作りだとかはわからないながら、自分の1番大切な土地の人たちを巻き込んで、たくさん仲間や家族に迷惑をかけて、そこまでしてでも「映画俳優として生きていきたい」と思って、一世一代の勝負で仕掛けた作品です。最近は俳優の仕事が増えてきたので、喜んで出ますけれど、この映画が完成してたくさんの人に見てもらうための行動しかこれから1〜2年はしないつもりです。そんな俳優もいるんだということをぜひ知って頂けたらなと思います。ぜひ劇場で見て下さい。 |
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映画『いつくしみふかき』
020年4月17日(金)よりテアトル新宿にてレイトショー 公式サイト: 公式Twitter:
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渡辺いっけい 遠山雄
平栗あつみ 榎本桜 小林英樹 こいけけいこ のーでぃ 黒田勇樹
三浦浩一 眞島秀和 塚本高史
金田明夫
監督:大山晃一郎
企画:遠山雄 プロデューサー:清弘樹/榎本桜 脚本:安本史哉/大山晃一郎 撮影:谷康生 照明:阿部良平 編集:菊地史子 録音:高松愛里沙 美術:榊さくら 音楽プロデュース:吉川清之 整音・効果:渡辺寛志 記録:松村愛香 衣装:深野明美 メイク:長縄希穂 制作担当:津崎雄大 助監督:安養寺工/松村卓
演技事務:清水亜紀 ラインプロデューサー:福田智穂 タイトル題字:高田菜月
主題歌:タテタカコ「いつくしみふかき」
後援:長野県飯田市 特別協力:映画「いつくしみふかき」を応援する会 遠山郷 天龍村
配給・宣伝:渋谷プロダクション 2019/5.1ch/JAPAN/DCP/109min