映画情報どっとこむ ralph 珠玉の人間ドラマを生み出してきた帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)の山本周五郎賞受賞作『閉鎖病棟』(新潮文庫刊)が、『愛を乞うひと』『エヴェレスト 神々の山嶺』の平山秀幸監督・脚本により映画化。『閉鎖病棟―それぞれの朝―』のタイトルで、2019年11月1日(金)に全国ロードショーとなります。

この度、本作の原作者:帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)がイベントに登場。現役の医者であり、作家と二足の草鞋の帚木先生が映画化された思いを告白。また、本作は主人公の自己犠牲の優しさを描いていることから、”若草プロジェクト”を立ち上げる等、活躍する元厚生労働事務次官:村木厚子が登壇。監督も駆けつけ本作の魅力とは何なのか、読み解いて頂きました!
平山秀幸監督、帚木蓬生(原作者)、村木厚子『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』座談会

日程:10月19日(土)
場所:秋葉原UDXホール
登壇:平山秀幸監督、帚木蓬生(原作者)、村木厚子(元厚生労働事務次官)

映画情報どっとこむ ralph 映画化された感想を聞かれ、原作者の帚木先生は
『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』<座談会>帚木蓬生先生
帚木先生:25年前に書いた本が映画化されたのは嬉しいです。

と映画化された喜びに会場からは拍手が。 

監督:原作に出会って11年、映画がどういう形で皆さまに受け止めてもらえるか楽しみと不安が半々です。

と公開まであと少しという気持ちを語った。

映画の感想を問われ、

村木さん:私は、4年前まで厚生労働省で働き、本作のテーマが心にぐっと来ました。映画の途中からは、ずっと“生きて(欲しい)”と祈り続けながら観ていました。虐待・性虐待の理不尽さはなかなか言葉では伝えられないので、映画では希望に繋がるストーリーとなり、人の強さも描かれていて嬉しかったです。

と想いを語った。それを聞き、
『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』<座談会>平山秀幸
監督:原作の中のキャラクターに、一歩踏み出す強さがあったのと、今回、俳優陣が見事に演じてくれたので、描けました。

と映画のテーマ性には原作の魅力が深く結びついていたことを語った。
原作の魅力に触れられ、

帚木先生:(原作では、綾野が演じるチュウさんが主人公であることから)今回、映画では(鶴瓶演じる)秀丸を主人公にしてくれた点がとても良かったです。また、精神科病棟の患者一人一人のキャラクターがしっかり描かれていて、感服です。原作でも、その点は気にしていて、病状や症状・個性により、全員が本当に違うことを表現することが目的でした。だから、大きな声では言えませんが、映画は原作を超えてますね!

と映画を大絶賛され、監督は少し恥ずかしそうな様子。

なぜ今回、この原作を映画化しようと思ったのか問われ、

監督:原作を読んだのは、ずいぶん昔ですが、“閉鎖病棟”というタイトルからするとホラーとも思えてしまう。でも読んでみると、所々、こういう事は自分自身にもあてまるな、こういう人が周りにもいるなと思ったり、他人事とは思えない事が多くあり、凄い物を読んでしまったと、この小説が頭から離れなかった。いきなり映画化しよう、となった訳ではなく、自分自身が気になったことを調べて、独自でシナリオを書いていた。私の実家の近くに先生の病院があったので、もし映画化される事があったら、私に許可を下さいね、と挨拶に行った。

と、この映画の構想に10年以上かかっていた事を明かした。 

当時の事を聞かれ

帚木先生:なかなか10年近く音沙汰がなかったので、映画化の話はなくなったかと思いました(笑)映画の現場を生まれて初めて見て、役者さんの鬼気迫る演技と、それを見て監督は笑っててにこやかでした。監督は威張った人とばかり思っていたので驚きでした。映画は、実際の精神科病院で撮影しており、モデルとなった病院と構造が全く同じで、これは成功すると思っていましたが、まさか原作を超えるとは(笑)

と映画に大満足の様子で、会場からも笑いが。

映画の中で、小松菜奈演じる由紀が家族の問題や、DVに悩まされる女性という役柄について問われ、

村木さん:由紀のような問題で生きづらさを抱えてる若い女性は多いので、彼女たちの辛さが伝わってきました。こういう課題は、他人に言いにくく、偏見を持たれがち。その結果、本人を追い込んでいってしまう。原作でも映画でも、生きづらさ、居場所のなさが、リアルに描かれていましたね。それが苦しさの根源にありますよね。」とこの映画の描いている問題について言及し、帚木も「生きづらさは家族の中に原因があることが実は多い。ギャンブル狂やアルコール中毒等の親を持つ子が生きづらさを感じていますね。ただ、その後の出会いによって再組織化されていく、それが大切です。その子たちには、村木さんが活動しているような、ポジティブな出会いが必要。そして、その子たちは苦難を味わっているだけに、再組織化されて別の環境で自分の居場所を見つけたら、その人は強い。気分に左右されない、目的を持った生き方が良い出会いにつながり、強く生きていける。
『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』<座談会>村木厚子
また、「生きづらさを抱える少女・若い女性に寄り添う支援」を行う“若草プロジェクト”を立ち上げる等、活動を行っていることを聞かれ、

村木さん:本来、一番近い家庭・学校で上手くいかないと、本当に苦しい。そこから立ち直るためには、やっぱり人の存在が必要。(手を差し伸べてくれる)人がどこかにいることを教えることが大切です。支援する仕事の人だけでなく、友達や近所の人や本人の周りにいる人との繋がりが大切で、一番最良の薬となるのが人ですね。 映画の中で由紀は新たな道へ進むが、現実には、そのような子は自分を悪い子だと思いこみ、他人に助けを求めてはいけないと誤解している場合が多い。私が行っている“若草プロジェクト”は、その子たちに向けてシェルターや勉強会を行っている。そういう子たちこそ、この映画を観てもらいたいですね。

と、現実に抱える問題もしっかり表されていると語った。

監督:由紀が、『ご家族は(いるのか)?』と質問される場面で、由紀がはっきりと『いません。』と答える。それは、言い切った彼女の強さと悲惨さが表れている気がするし、色々とらえ方があるかと思う。

と言うと、村木は大きく頷き共感していた様子。

帚木先生:(それぞれの朝という)サブタイトルは本当にありがたい。原作のまま『閉鎖病棟』というタイトルでは、誰も観に行かないんじゃないかな(笑)また、英語のタイトル(Family of Strangers)も、素晴らしい。 見知らぬ人たちが家族という、ポジティブな現象が生まれる。

とタイトルにも映画のテーマが表れていたと絶賛。

原作は別タイトルも候補にあったそうで、

帚木先生:(原作を執筆した24年前の)当時、長期入院する患者さんが多く、彼らは病院で埋もれる方たちではないはずという想いで“休鳥たちの杜”が良いと自信を持っていたんですよね。でも編集担当に止められた。逆に編集から出てきた案が『閉鎖病棟』で、精神科医からみると、当たり前の言葉を題名にしていいのかと思ったけれど、(そのタイトルで)思ったより売れましたね(笑)

と、原作の秘話も明かした。

それを聞いて

監督:そのタイトルも非常に理解できる。映画の中で、チュウさん(綾野剛)が退院するときに『怖い?』と質問されるシーンがある。(病院にいることが)居心地が良いと思う患者さんも多い。

と言うと

村木さん:私も(大阪拘置所から出る時は)怖かったですね。(拘置所の)中では、職員さんが守ってくれていたことを、外に出たときに実感しました。なので、チュウさんの気持ちはよく分かりました。また、他の分野の問題でも、誰かのために、何かするというプロセスが大事。それも本当に映画に表れてましたね。

と、映画を観ると、リアルな表現が多い事を明かした。

帚木先生:私の専門はギャンブル依存症ですが、薬がないんですよね。なので、一番大事なのは患者同士の集まり。本当は医者は必要ないんです。お互い良く分かっている。(自助組織では)ディスカッションしても、他人を批判しないルールがあり、結論のない話合いとなることをよしとしている。そして、日々の生活で変えられない事と変えれる事を見分ける力は大事。生きづらさを抱えることは変えられないが、そこからどう生きるかで人は変わることが出来る。

と専門家なりの視点でも映画が“生き辛い人々”へ寄り添っていることを語った。

これから出来ることとして、

監督:私は医者ではないので、出来ることは少ないかもしれない。が、映画制作にあたり、調べて、登場人物を自分で作り上げて脚本に書いたことで感じたのは、(彼らのことを)少し思ってあげる事が必要かと思いました。撮影時に、精神科病院で、『(病院内で)タブーな事は何ですか?』と聞くと、『“大丈夫、大丈夫”と言うこと』と言われ、大げさではなく、常に見守り続ける事が大事かと感じました。

とこの映画があったからこそ見えてきた視点を明かした。

帚木先生:精神科医になった時に、一番大切なことは親切と教えられた。親切さを頭において行動すれば、間違いない。もっともっと良くなるんじゃないかと思います。

村木さん:周りの冷たい目が少し優しく、温かくなるだけで、生きやすさが変わってくる。映画を観て、周りにもこういう人がいると知って温かい気持ちを持ってほしい。

と映画と繋がる“やさしさ”が大切だと語り、

最後に・・・

監督:ようやく映画が公開するので、もう少し頑張りたいと思います。よろしくお願い致します。

一言挨拶し、普段の舞台挨拶と違う、映画の裏側を知るイベントとなり、聞き入る観客の中締め括り、イベントは大盛況で終了した。

映画情報どっとこむ ralph 《帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい) プロフィール》
1947年、福岡県生れ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。2年で退職し、九州大学医学部に学び、精神科医を務める。1993年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、1995年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、1997年『逃亡』で柴田錬三郎賞、2010年『水神』で新田次郎文学賞、2011年『ソルハ』で小学館児童出版文化賞、2012年『蠅の帝国』『蛍の航跡』の2部作で日本医療小説大賞、2013年『日御子』で歴史時代作家クラブ賞作品賞をそれぞれ受賞。近作は2017年『守教』。
『国銅』『風花病棟』『天に星 地に花』『受難』などの小説のほか、新書、選書、児童書などにも多くの著作がある。福岡に開業して、本業は医師(精神科医)であり、作家は副業と2足のわらじで行っている。

《村木厚子(むらき・あつこ) プロフィール》
1955年生まれ。日本の労働官僚。2008年には、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に就任。2009年に自称障害者団体「凛(りん)の会」に偽の障害者団体証明書を発行し、不正に郵便料金を安くダイレクトメールを発送させたとして大阪地検特捜部に逮捕される。(郵便不正事件)その後、検察側のずさんな捜査が判明し一転、無罪となった冤罪事件となる。2010年には復職し、定年まで勤める。2016年、伊藤忠商事社外取締役に就任、2018年にも住友化学株式会社取締役就任。事件から10年経ち、厚労省を定年退職し、貧困やDVに苦しむ若い女性たちの支援「若草プロジェクト」に取り組む。

映画情報どっとこむ ralph 『閉鎖病棟―それぞれの朝―』 

【STORY】 
長野県のとある精神科病院。それぞれの過去を背負った患者たちがいる。母親や嫁を殺めた罪で死刑となりながら、死刑執行が失敗し生き永らえた梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。サラリーマンだったが幻聴が聴こえ暴れ出すようになり、妹夫婦から疎んじられているチュウさん(綾野剛)。不登校が原因で通院してくる女子高生、由紀(小松菜奈)。彼らは家族や世間から遠ざけられても、明るく生きようとしていた。そんな日常を一変させる殺人事件が院内で起こった。加害者は秀丸。彼を犯行に駆り立てた理由とは―――?

公開日:2019年11月1日(金)公開

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※PG-12
キャスト:笑福亭鶴瓶 綾野剛 小松菜奈
坂東龍汰 平岩紙 綾田俊樹 森下能幸 水澤紳吾 駒木根隆介 大窪人衛 北村早樹子
大方斐紗子 村木仁 / 片岡礼子 山中崇 根岸季衣 ベンガル
高橋和也 木野花 渋川清彦 小林聡美
原作:帚木蓬生『閉鎖病棟』(新潮文庫刊)
監督・脚本:平山秀幸
配給:東映
©2019「閉鎖病棟」製作委員会

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