映画情報どっとこむ ralph 長年連れ添った夫婦の絆が揺らぐ姿を描き、数々の賞を受賞した『さざなみ』など、深く繊細な人間ドラマを魅せるアンドリュー・ヘイ監督最新作『荒野にて』を、4月12日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷 他にて全国順次公開となります。

母に捨てられ、父を亡くし、愛してくれる人を全て失った15歳の少年チャーリーが、自分の居場所を探し求める姿を繊細に描きあげる本作。主演のチャーリー役を演じるのはチャーリー・プラマー。孤独、やるせない心の痛みを瑞々しく演じ、第74回ヴェネチア国際映画祭にてマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した若き期待の新星だ。更にスティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニーら個性派俳優が脇を固め、ヘイ監督の世界を創り上げていく。

現在ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて開催中の世界各国、あらゆるジャンルから選出された未体験映画を一挙上映する企画「未体験ゾーンの映画たち2019」の特別上映作品に選出されている本作にてこの度、橋口亮輔監督(『ぐるりのこと。』『恋人たち』)×尾崎世界観さん(クリープハイプ)をお呼びしたスペシャルトークショーを実施しました!これまでもアンドリュー・ヘイ監督の創り上げる作品世界に共鳴し、自身ファンを公言する橋口監督と、ロックバンド、クリープハイプのヴォーカル・ギターを担当する傍ら2016年には小説も発表し、文壇でも多くのファンを持つ尾崎世界観さん。本作に深く感銘を受けたというお二人に、本作の魅力やここでしか聞けないお話を熱く語っていただきました。

『荒野にて』スペシャルトークショー付き特別先行上映イベント
日時:2019年4月2日(火)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷
登壇:橋口亮輔監督、尾崎世界観(クリープハイプ)

映画情報どっとこむ ralph 映画を上映終了後の観客の元にMCの呼び込みで橋口亮輔監督とクリープハイプ尾崎世界観さんが登場。

映画を観た感想を尋ねられると

橋口監督:濃い映画だな、美しい映画だな、というのが端的な感想でした。みなさん不思議な映画だと思いませんでしたか?観ながらストーリーを追っているんですけど、観ている間自分のことを考えていたんですよね。

と、独特な鑑賞後感を話すと、

尾崎さん:自分のこと考えてしまう、というのはよく分かります。僕も他の人のライブを観ていても、いいライブだと、自分のライブのこと考えてしまうんです。この映画にはそういう隙間がいい意味であったなと思います。

と賛同。

橋口監督:少年の話なんだけど、“世界に踏み出す”“大人になる”っていう時って、僕もこの少年のようだったなと思った。心細いし、頼りないし、何か色々うまくできないんだよね。大人ってクソばっかり、大人って何でこんなことも分からないんだろうって思っていたけれど、実際世の中に踏み出してみると、そこは荒野のようだった。自分に照らして言うと、16〜7歳で作るということを始めて、作るって“自分とにらめっこすること”だと思うんだけど、そうなると自ずと逃げられないよね。自分を受け入れなければならない。もう一回世界を作り直すというか、世界に対して自分なりの意味を付け直していく。自分で意味を付け直さないと生きていけなくなってしまうんだよね。

と自身の経験に絡めて作品を振り返った。

映画情報どっとこむ ralph その後、少年が天涯孤独となってしまうストーリーに関して

尾崎さん:ここは突然でしたよね。よく観る物語では、ちょっとずつその登場人物が死に向かっていくのが定番だと思うんですけど、今回のような一瞬で死に直面するっていう方がリアルに近いのかな、と思います。

と話し、橋口監督は印象的なシーンに関して

橋口監督:チャーリーがデブな女の子に出会うシーンが好きで、僕はそういうシーンに心が惹きつけられるんだよね。彼女はスポットライト当たらない人生、報われることのない人生を生きている。でもそんな女の子でも、もし神様がいるとしたら、一生に一回神に祝福されるような瞬間を迎えることがあるんだろうな、と思うんです。変な宗教の話じゃないですよ(笑)この映画全体もそうですが、監督が意識していたスタインベックの小説もそうなんだけど、”永遠の中の一瞬”みたいな、世界からしたら砂つぶみたいなものが輝く瞬間がある。僕も自分の映画の中でそういう人にスポットライトを当てるんです。

と自身の作品での表現に絡めた話をすると、

尾崎さん:僕も子供の頃ドラゴンボールを見て脇役のことを考えてました。

と話し、笑いが起こった会場は和やかな雰囲気に包まれた。

続いて、

尾崎さん:この映画は飛び飛びの印象があります。全部をしっかり描いていないから、考えさせられますよね。

と映画全体の印象に関して

が話すと、

橋口監督:誘導されないよね。トラン・アン・ユン監督が昔言ってたんだけど、映画には2種類あって、トラン・アン・ユン監督の作品のような、見ながら感じさせる余白のある映画と、スピルバーグ監督のような見方を強制させる作品があって、この作品は前者のものだよね。ヘイ監督の過去作で『ウィークエンド』って1組のゲイのカップルの一晩を描いた作品があって、僕はその作品はヘイ監督の“習作”だと感じたんです。自分を確認し直すような作品に思えた。商業性とは別に、自分の中の根拠を元に作品を作る人なんだな、っていう印象があるんだよね。

と他監督も引き合いに出しながら話した。
その流れで監督から尾崎さんにミュージシャンとして観客数をどれくらい意識するかという話になると、

尾崎さん:1万人の前でやるときも100人の前で演奏するときもあるんですけど、難しいですね。どちらも対応できなければならないと思います。(音楽は)映画よりも、人にその場で聞いてもらって対応してもらえるような印象があります。大きいホールでやるのも、狭いところで肌が触れ合う感覚で聞いてもらうのも、どちらのよさもありますね。ただ、1万人の前でも100人の前でも同じ気持ちでいなきゃいけないっていうのは嘘だと思います。不機嫌な時は不機嫌なライブはしたらいいと思いますし、もちろん最低限のものはあると思いますけど(笑)。でもその時の気持ちは出した方がいいのではと思います。僕は自分で作って自分で歌っているので、そこが(映画との)大きな違いだと思いますね。

と映画と音楽の違いを踏まえ話した。

そんな尾崎さんに

橋口監督:さっき尾崎くん演技やらないのって聞いたら“できない”って言うんだよね。絶対できると思うのに!

と太鼓判を押した。

ヘイ監督の話になると、

橋口監督:『さざなみ』であれだけ評価されると、普通はハリウッドに行くのに、その次の作品がこの『荒野にて』なんだよね。いくらでもハリウッドに魂売れるのに、この作品なんだよね。自分の中に伝えたいものがあるんだと思います。自分の中に根拠がある人だからこそ、習作である『ウィークエンド』から『さざなみ』までの、ものすごいジャンプができるんだよね。巨匠の域に入った人でしょう。その『さざなみ』の後にこの作品というので、ここでも感動しました。

と大絶賛。

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最後に・・・
印象的なラストシーンに関しての話になると、

尾崎さん:最後のチャーリーの眼差しにずっと思うところがあって、その印象で終わるのはすごく正しいな、と思いました。

と話すと、

橋口監督:前半でヘイ監督は少年の表情を割と丹念に立体的に撮っていたと思うんですけど、馬と一緒に荒野に出てからはほとんど寄りのカットを撮らないんです。普通、新人を映画に使う時は、この新人いいでしょ、って顔を寄りで撮りたいはずなのに。チャーリーが馬相手に語るシーンも、カメラ絶対寄らないよね。少年の手前に馬を置くんだよね。普通あんなの怖くて撮れないよ。馬って動物だからどう動くか分からないじゃん。大切な場面なのに、あんなに怖いことするなって思った。涙もほとんど映さない。人情として、普通は涙を撮りたがるのに。僕が作った映画でも淡々としていると批評を受けるんですけど、そんな僕でも涙を寄りで映しますよ。それで最後のあのパート。あのシーンは素晴らしいですね。世の中ってクソだな、でもそんな中でも砂つぶのような美しいものがある。世界の中で美しいものも、クソもある中で、それが世界で、僕は生きていく、そんな印象を受けました。

とここでもヘイ監督の手腕を評価した。

そんな監督の意見に対し、

尾崎さん:僕はもう少しきつい視線に感じました。映画という物語自体も疑っている目線だな、と思いました。

と、語り、会場からも「なるほど」と言った声が上がった。

こうして尾崎さんと橋口監督は、橋口監督の『恋人たち』トークショー以来の再会を喜び合い、大盛況のままイベントは幕を閉じた。

物語・・・
小さい頃に母が家出し、その日暮らしの父と二人暮らしのチャーリー。家計を助けるために老いた競走馬リーン・オン・ピートの世話を始めるが、ある日父が愛人の夫に殺されてしまう。15歳で天涯孤独になってしまった彼の元に、追い打ちをかけるように届いたのは、試合に勝てなくなったピートの殺処分の決定通知だった。誰にも必要とされないピートの姿に自分を重ねたチャーリーは、一人馬を連れ、アメリカ北西部の広大な荒野に一歩を踏み出すが。

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監督:アンドリュー・ヘイ『さざなみ』
出演:チャーリー・プラマー 『ゲティ家の身代金』、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー、トラヴィス・フィメル
配給:ギャガ
原題:LEAN ON PETE
2017/イギリス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分
字幕翻訳:栗原とみ子   
© The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

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