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新潟国際アニメーション映画祭4日目

開催4日目を迎えた第1回新潟国際アニメーション映画祭。
第1回新潟国際アニメーション映画祭海外ビジュアルniaf
3月20日(月)新潟市民プラザで、りんたろう監督作『山中貞雄に捧げる漫画映画 「鼠小僧次郎吉」』のワールドプレミア上映が行われ、上映後にりんたろう監督、企画のスタジオM2の丸山正雄、弁士の声を務めた声優の小山茉美、キャラクターデザインを担当した大友克洋らがトークに登壇。28歳で夭逝した映画監督、山中貞雄が残したシナリオをもとに再構築した本作を制作するに至った思いをそれぞれに語りました。

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「鼠小僧次郎吉」』のワールドプレミア

新潟国際アニメーション映画祭
りんたろう監督は「久しぶりにアニメの現場を感じた時に、完璧に日本のアニメーションが変わったなと思ったんですよ、作り方とか全てが」と振り返る。「それで自分なりにどうするか丸山と相談して、僕らに『鬼滅の刃』の続編は作れないけど、自分達のスタイルでやろう、日本の映画の大元に戻ろうと。

そして山中貞雄でどうか?という話になって、手探り状態から絵コンテまで作ろうと思って始めたのがこの作品です」と制作の経緯を明かす。

「今の若い人たちにとってサイレント映画は、お呼びでないのかもしれないですけど、ヒッチコックも“映画はサイレントから全てが始まった”と言っていて、僕もサイレントを見ると、ほとんどあの時代に頑張った監督たちの作品がそのあと進化しながら変わっていったように思います」
「(この映画を)完璧にサイレントにしようと思い、鼠小僧次郎吉の江戸の巻を山中貞雄の脚本を使いながら、ドラマを今風に変えるのではなく、むしろ山中貞雄の気分になって作ろうと思って、「山中貞雄に捧ぐ」というのがメインタイトルで、中身が「鼠小僧次郎吉」という構成になりました」と言う。

「浦島太郎みたいに、久しぶりに何かやろうとした時に、どうせなら反時代的アニメをやろうということで、僕的にも満足のいく形ができました。こうやって丸山と2人でサイレント映画を作れて、山中貞雄は“ちと寂しい”と言ったけど、こっちは 作れて“ちと嬉しい”ですね。紙風船のところだけパートカラーにしたんですが、自分でも流れてくる映像を観て泣きました」

と感慨もひとしおだった。

企画を担当したスタジオM2の丸山正雄は「僕自身非常に残念なことに、我々は日本の文化をちゃんと丁寧に拾っていないという自覚がありまして。山中さんのすごさ、この人のことを残していきたい」と語る。そして「アニメーションで何ができるか、何を残せるかを考えると、僕やりんたろうがやるしかないという発想がありました」「山中貞雄はハートウォーミングで、小市民を丁寧に優しく描いていている。彼はまだ28歳で戦争の中で死んでいって、遺作となったのは『人情紙風船』で、“ちと寂しい”という言葉を残して亡くなったんです」と述べ「僕はこの言葉がすごく好きで、この言葉を文化的にわかってくれる世代という意味でも、りんたろうが一番。なんとかりんたろうのアニメを見たい。何を言えばわかってくれるだろう、“よし、山中貞雄だ”って。いま僕らが山中貞雄をやらないとずっとできないかもしれない。無理してでもやろうよと、これまででも一番大変な血の出るような思いで、無理難題の中で、やっとできあがった映画です。山中貞雄をいろいろな意味で日本文化の大事なものとして、僕らの心の中でちゃんと残していきたいという思いをみなさんにわかっていただけるといいなと思います」
とその心中を語った。

本作では弁士役として出演、「Dr.スランプ」アラレちゃん役としても知られる声優の小山茉美は、<ドラえもん>しずかちゃん、<サザエさん>磯野ワカメの声優などの日本の国民的キャラクターの声優を長く務めた野村道子さんに頂いたという美しい着物姿で登壇。

「無声映画(の弁士役)ですから普通の芝居とは違うので、悩みました」と告白。
しかし「今回は冒険というか実験というか、新しい試みをさせていただきました」
「普通は、台詞を録った後に音楽や効果音をつけるんですが、今回は本多俊之さんに先に音楽を作っていただいてそれとの掛け合いという初めての経験をしました。音楽だけを聴きながら絵に併せて台詞を入れるのですが、最初に絵コンテを送ってくださったので安心しました」
「江戸弁のニュアンスが一番難しかったのですが、監督が送って下さった志ん生の落語のテープで勉強しました」と裏話を語った。

本作ではキャラクターデザインを担当、サプライズ登壇した大友克洋。
「りんさんなんで、やるしかないんですよ」「山中貞雄は好きですから良かったです。なかなかこんな仕事はないですからね。“山中貞雄を描いてくれ”なんてないですから」「楽しかったです」と笑顔を見せた。

元々「江戸物は好き」だという大友。
「夜寝る前は『半七捕物帳』を読んでますから。やってみたいなと思ってるんですけど、難しいんですよ。当時の感じがわからない。昔の無声映画の頃のセット、あれが一番ね、当時の美術の人間が江戸時代を知っているんですよ。なので、あれを見ると江戸ってこんな感じだったんだろうなっていうのがわかるんですよね。『人情紙風船』もすごい江戸っぽいですよね。今ああいう江戸は作れない」。

そして、“次は監督として新潟国際アニメーション映画祭に来たい”とも語った大友克洋は、発売される自身の全集のステッカーを会場のファンに手配りし、詰めかけた観客たちが大いに沸く一幕もありました。

最後には共同制作者としてフランスから来たMiyuプロダクションのエマニュエル=アラン・レナール、ピエール・ボサロンが登場し、山中貞雄の3作品とともに本作がフランスで上映されることを報告。制作スタッフの兼森義則、野口征恒、丸山真太郎らも登壇し、丸山は「去年9月に制作がスタートし完成までの6ケ月間は、毎日ジェットコースターだったが、現場が大変になると監督が元気になり、強いリーダーシップで現場を引っ張ってくれた。充実した6ヶ月が映像になっていると思う」と語りました。

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スカイ・クロラ 上映

夜には本映画祭の第1回審査委員長も努める押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』も上映され、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎と、アニメ特撮研究家の氷川竜介とともにトークに登壇。
新潟国際アニメーション映画祭
「自分の映画を公開しつつ審査もやるのは、やりにくいなというのはあるんですが『スカイ・クロラ』がスクリーンにかかる機会があるということに感謝しております。自分で選んだわけではないですが、僕がやってきた仕事の中ではちょっと異色というか、ちょっと感じが違う、一番気に入っている作品です。“やっとつかんだぞ!”って、60過ぎて監督としての成熟を自分で感じた最初の作品です」と述べる。

そして「(今新潟では)アニメ業界の連中があちこちうろついてるから、毎晩違うプロデューサーと酒を飲んでる。東京にいるとこういう機会が無かったりして、つくづく思ったけど、この業界は狭いな」と笑い「こういう所、人と人が出会う場は、仕事を掴むチャンスでもある。そういった意味では、若い人にとっては、訳の分からないジジィに喧嘩を売るチャンスでもあるから、そういう風になったらいいなとも思ったけどね」とエールを送った。

コンペティション部門に出品された作品にも触れ「(第1回目の本映画祭に)意外にもいい作品が集まった」と喜ぶ。

「審査をしていていい作品が集まると嬉しいんですよ。どうしよう、困ったぞ、逃げちゃおうかな?<何をどうしたらいいのか手も足も出ません>というコンテストもあるけど、今回は、(ほかの審査員の)お二方がどう考えるか予想がつかないけど、僕の頭の中ではもう固まってるんです。観た瞬間“これしかない”、と思ったから。だけど(自分以外の審査員の)お二方がどう判断するかで、審査会が夕方に終わるか夜までかかるのか、予測がつかない。ただ僕の頭の中では、もうほぼ決まっている」と明かす。

「コンテストは映画祭のコア(核)として必要なんですよ、誰がグランプリを獲るかというのは、お祭りだから。だけど映画に1等賞、2等賞つけることはないんですよ、当たり前の話だけど。ある人にとっての1等賞がゴミだなってことになりかねないので、もともとグランプリやナントカ賞はそういうものだと思っていただきたい」「監督だって、自分が頑張って作った作品というのは世界のどこに出しても恥ずかしくないんだという思いで作ってる。あくまで1等賞、2等賞は言ってみれば参考程度。(順位を)つけないと盛り上がらないからつけるだけだと思っていただければいいと思います。選ばれる人にとったら大事かも知れないけど、実際にはひとつの景気づけみたいな。その証拠に私は大きな賞をもらったことは1回もないですから(笑)」と押井監督らしい言葉で締めくくりました。

コンペティションに参加している監督たちのサロン会見には『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』からアマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル監督2人が登壇。フランスでは小学校の教科書にも載っている国民的キャラクター、プチ・ニコラの誕生秘話。

この作品を観た人が、ポジティブで元気な気持ちになってくれるようにとタイトルに込めた思いを語りました。日本のアニメーションに多大な影響を受けたという2人は、コロナ禍で、誰にも会えなかった時期に2年かけて制作した本作を、本映画祭で多くの人に観てもらえること、日本の観客のリアクションが直接感じられる喜びも語りました。

シネ・ウインドでは、新海誠監督の初期の3作品を集めたオールナイト上映が開催され、アニメ特撮研究家氷川竜介と本映画祭のプログラム・ディレクターの数土直志による“新海誠談義”の対談も組まれました。

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【第1回新潟国際アニメーション映画祭】

英語表記:Niigata International Animation Film Festival

主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
特別協力:新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、燕商工会議所
後援:経済産業省、文化庁、新発田市、外国映画輸入配給協会、新潟県商工会連合会
協力:新潟大学、開志専門職大学、JAM日本アニメ・マンガ専門学校
協賛:NSGグループ
会期:3月17日(金)~22日(水)    
上映会場:新潟市民プラザ、T・ジョイ新潟万代、シネ・ウインド 、クロスパル新潟 
イベント会場:新潟日報メディアシップ、古町ルフル広場、開志専門職大学、新潟大学駅南キャンパスときめいと

公式サイト:
https://niaff.net

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