ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか絶賛公開中のサミュエル・マオズ監督最新作『運命は踊る』。
この度、本作のヒットを記念し10月6日㈯に新宿武蔵野館にて町山広美さん(放送作家)&高橋ヨシキさん(デザイナー/ライター)登壇のトークイベントが行われました。
『運命は踊る』では、夫婦に告げられる息子の〈死の誤報〉をきっかけに、思いもよらない方向に掛け違っていく3人の〈運命〉が描かれる――。 |
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本作について、雑誌「In Red」で取り上げた町山広美氏と、「週刊プレイボーイ」で紹介した高橋ヨシキ氏が、観終えた直後の観客を前に、新宿武蔵野館にて映画の魅力を徹底解剖するトークイベントを行った。
日付:10月6日㈯ 本作の感想について問われると、 町山さん:始まって2、3カットを見ただけで、精度があまりにもすさまじいので《凄い映画が始まったぞ》と思いましたね。兵士が来る、妻が倒れる、背後に絵がある…それだけなのに、誰かの死の知らせだと分かるし、背後の絵の混沌とした感じは彼女たちの心境を表しているし、手慣れた様子で対応する兵士からは、死や戦争が彼らの身近にあるのだということが読み取れる…すごいですよね。あと、息子のヨナタンにフォーカスを当てた2部のパート。戦地なんだけど、どこか現実ではないような、宇宙みたいな雰囲気があって。キューブリックを彷彿とさせる映像だなと思いました。 高橋さん:最初は、真面目な話なのかなと思ったけれど、観進めるうちに《これは相当なブラックコメディだな》と気づきました。もちろんテーマもおいそれとは笑えるものではありませんが、随所に辛辣なギャグが散りばめられている。運命の偶然、そこから起きる残酷さ。コメディというジャンルは、実はそういうテーマが描けるんですよね。そういう意味でも面白い。壮大な前振りがオチに繋がっていく構造も近いかもしれません。 と、初っ端からテンション高め。客席からも「なるほど」と二人の解説に聞き入った。 話は、映画の舞台イスラエルについて広がる。 高橋さん:劇中描かれる父ミハエルを掘り下げていくと、ホロコーストサバイバーである母のもとで育った背景がある。これは、監督のサミュエル・マオズも同世代という設定です。何かと失敗をする度に「こんなことをするために生き残ったんじゃない」と言われ、プレッシャーを抱えながら生きてきた。そうしたなかで芽生えてきた、歴史の負の連鎖を断ち切りたいという気持ちが、ミハエルの《今までとは違うものを生み出す》という建築家という職業設定にも表れているように感じました。 続けて、 高橋さん:この作品は、そうしたイスラエルの実情を描いたとも見えるけど、一方、寓意に満ちている。ちょっとしたことで変わってしまう日常を戯画化しているように感じましたね。 |
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町山さん:『戦場でワルツを』という作品がありますが、この監督も、サミュエル・マオズ監督と同世代。二人とも、レバノン侵攻を戦争に行った側として経験している。そうした複雑さから生まれてくるものもあるのかも知れないなと。戯画化というところでいうと、父ミハエルに度々犬が寄り添うんだけど、それを彼は強く拒絶する。この《犬》は《悲しみ》のメタファーなんだと思います。後半で、彼はそれを受け入れますよね。また、映画のキーでもある《ラクダ》。悠々と検問所を通るラクダは、まさしく人間が止めることができない《運命》を表していると思いました。
イスラエルという国から生まれた作品の背景や、興味深いメタファーの解説まで・・・何度見直しても発見がある『運命は踊る』について語る大盛り上がりのトークイベントとなった。 『運命は踊る』 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか大ヒット上映中! |
監督・脚本:サミュエル・マオズ
出演:リオール・アシュケナージー、サラ・アドラー(『アワーミュージック』)、ヨナタン・シライ
2017年/イスラエル=ドイツ=フランス=スイス/113分/カラー/シネスコ
後援:イスラエル大使館
配給:ビターズ・エンド
© Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinéma – 2017