昨日『ティモール島アタンブア39℃』のゲストによる記者会見が行なわれましたので、ご報告いたします。 ■ 日時・場所 10月25日(火) 14:00~ @ムービーカフェ ■ 登壇者 リリ・リザ(監督/脚本) ミラ・レスマナ(プロデューサー) |
Q&A内容
リリ・リザ(監督): 数年ぶりに東京に戻って来ることができたことを大変光栄に思います。東京に来たのは2002年に『エリアナ、エリアナ』が上映されて以来ですが、今回、『ティモール島アタンブア39℃』をコンペティンション作品として上映することができ、とても嬉しく
思っております。昨晩の初めての上映会ではお客さんにとても温かい反応をいただきましたので、これからの上映でもお客様の反応を楽しみにしています。
Q: 今回の作品はドキュメンタリーを組み合わせていますが、それはなぜですか?
リリ・リザ(監督): この映画では特殊な状況の下で生きている人々の人生を忠実に、親密にお伝えするのが目標でした。アタンブアという
町は東ティモールとインドネシアの国境に位置しており、東ティモールは1999年の住民投票の後、2001年に独立しています。この地域はポルトガルから始まりその後オランダ、そして近年までインドネシア政府の支配下にあり、植民地としての長い歴史があります。この地域の人々は独自のカルチャーを持っていますが、それには長いこと植民地にされたことで人々が分断されてきたという背景があります。ドキュメンタリーの形をとっているのは作品の中でも一部ですが、そうした地域の方々をできるだけ近い距離で撮影し、彼らの心に近い形で表現したかったからです。また地理的にも、アタンブアは私たちが暮らすジャカルタの街から飛行機で3時間の後にさらに車で7時間移動した場所にあります。たくさんの機材や照明をもったクルーが撮影しに行くということは難しく、ゲリラスタイルで撮影しました。この映画には美術スタッフはいません。作られたセットではなく、本物の場所を背景として撮影をしました。できる限り現実を忠実に撮りたかったのです。
Q: 昨日のQ&A で3~4 月にロケをし、現地の実際のイースター祭を撮影したとおっしゃっていましたが、十字架に貼り付けにされるキリストがパレードに登場するシーンが挿入されています。ティモールの人たちの復活や希望を象徴するのでしょうか?
リリ・リザ(監督): パレードのあの場面は、キリストが復活する前の14の苦しみを再現しているのですが、そこにアタンブアの人々の状況
を重ねあわせようとしたわけではありません。アタンブアの人たちは毎年あの時期になるとパレードを開催し、キリストの人々への無償の愛について改めて思いを馳せ、感謝の気持ちを持つのです。宗教というのは深く信じる者にとってはそのような力があるのだと思います。ここでも表現したかったのはアタンブアの人たちの現実、リアリティです。アタンブアの人々が敬虔なカトリックであること、パレードが現地の人々にとって大切なセレモニーであること、それを私は映画監督としてたまたま記録する機会があったということで、私のメッセージを入れたわけではありません。
Q: アタンブアの人々は映画撮影に対してどのように反応していましたか?
ミラ・レスマナ(プロデューサー): アタンブアの人々には事前に撮影を行うと伝えてあったので、驚いた様子はありませんでした。復活祭のセレモニーを邪魔するつもりはないと伝え、撮影時には監督とカメラのディレクターがキャストと6キロの道のりを一緒に歩き撮影しました。2週間の撮影期間でしたが、アタンブアの人々の映画を作るということだったので、大変歓迎してくれました。
Q: 主演のジョアオを演じた俳優について教えてください。
監督: ジョアオ役のグディーノ・ソアレスは撮影当時17 歳でした。東ティモールで独立に向けた住民投票が行われた頃、彼の父親はインドネシアの警察官だったので、彼の家族はインドネシアの支持をすることを余儀なくされ、結果東ティモールからインドネシアへ逃れることになりったそうです。軍隊や警察、公務員は、インドネシア側にならざるをえない状況だったのです。このような家族は当時大勢いました。いつかは東ティモールに戻りたいかと尋ねると、友人や家族に会いたいけれど住みには戻りたくないと言っていました。グディーノの印象ですが、とてもファンキーでお洒落な、魅力的な青年です。いつも首からロザリオを大切そうにかけています。
ミラ・レスマナ(プロデューサー): グディーノは興味深い俳優でした。撮影時期がちょうど高校の期末試験の直前だったので、無理をしないようにと声を掛けたのですが、彼ははっきりと勉強と撮影は両立できると言っていました。そして確かに、試験もすべてパスして現在は東ジャワで大学生活を送っています。
Q: 最後にロナルドが「どんな国も俺たちの原点は奪えない」と強いメッセージを発しますが、これは監督のメッセージですか?
監督: 脚本を書いている間、インドネシアや東ティモールの方とたくさん話しました。その中で、このように故郷から引き離されてしまったけれど、心では東ティモールと繋がっていたいという声を多く聞きました。私は平和主義者なのでとして東ティモールの問題のみならず、インドネシアのいたるところで暴力が使われていることに胸を痛めています。インドネシア人であれ東ティモール人であれ、この自分が生きている土地は自分の土地だと多くの人たちに思ってほしい、それが平和を求める者の統一された意見であってほしいと思っています。実は昨夜
東ティモールの駐日大使が上映会に来てくださいましたが、悪い感触評価ではなかったとようで思いますので安心しています胸をなでおろしています。今夜大使とお食事の予定があるのですが、ご馳走してもらえるようそうですから大丈夫でしょう!
2002 年に独立した東ティモールから多くの難民が流入した、国境近くの街アタンブア。離れた母を想う青年のリアルな日常と、淡い詩情の中で語られる引き裂かれた家族の物語。現在のインドネシアを代表する作家のひとり、リリ・リザ監督が新境地に挑んだ美しい最新作。