映画情報どっとこむ ralph アジア・フィルム・アワードで2冠(主演男優賞・新人監督賞)に輝くなど、アジアの各映画賞を席巻中の話題作『声もなく』が、2022年1月21日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開となります。

本作の公開に先駆け、1月13日(木)に、シネマート新宿にて森直人(映画評論家)によるトークイベント付き試写会を行いました。
声もなく_森直人トーク
日付:1月13日(木)
場所:シネマート新宿
登壇:森直人(映画評論家)

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こういう映画だと予想するのが難しい、独特の味の傑作!
コーエン兄弟と『万引き家族』が合体したような…

作品の感想を聞かれた森は「すごく面白かった。傑作だと思います。」と開口一番に大絶賛。本作の作風については「見る前にこういう映画だと予想するのが難しい、独特の味だと思いました。たとえば、韓国のクライム映画というジャンルで捉えると、濃厚なものが多い。12月に公開された『ただ悪より救いたまえ』も典型的な韓国の犯罪ミステリーもののイメージがあるが、『声もなく』はそこからクールな距離というか、ある種のアイロニカルな距離をおいている作風だと思いました。一番大きいのは夏の映画であること。特に前半、緑が多くて明るく牧歌的な田園風景が続いて、セミの鳴き声、扇風機がまわってるなか誘拐された11歳の少女チョヒがやってくるわけですが、夏休み感すらあるというか、夏の描写が爽やかなんですよね。彼女が住むことになるバラック小屋のすぐ近くで日常的にヤクザが殺害されていたり、実際に起こっていることはもちろんエグいんですけど。でもその殺害現場もとぼけていて(笑)。最初、男が吊るされてて、死ぬのかこいつは?っていう雰囲気が漂うなか主人公の二人が淡々と作業していく。シュールでありクールでもあり、ある種のブラックコメディ性を考えると、レファレンスが難しいんですけど、あえて言うならコーエン兄弟っぽいと思いました。」と分析する。さらに「社会的マイノリティ、疎外された者たちが、はからずも社会の片隅に平穏なコミュニテイを築く展開があって、そこに甘い時間が流れるんですよね。是枝裕和監督の『万引き家族』を連想される方も多いのではないかなと思います。ただ、コーエン兄弟と『万引き家族』が合体している映画っていうイメージを、韓国の犯罪ミステリーであるところから連想するのは難しいと思います。」と作風の独自性を語った。
声もなく_森直人トーク

『はちどり』と共通する根深い家父長制の描かれた方
『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』につながる韓国社会の歪み

社会から疎外された者たちを鋭く描いた、他の韓国映画との共通点については次のように語った。「チョヒがさりげなく「お父さんは弟がいれば十分だから」とつぶやく。これはさりげないディテールですが、たとえばキム・ボラ監督の『はちどり』でも似たシーンがあるんです。『はちどり』でも家父長制や男尊女卑の根深い慣習の問題が見え隠れしている。チョヒの弟が次の家長としてお父さんの期待を背負っている事情が透けているじゃないですか。チョヒは期待を受けていないから阻害感を感じているんだけど、逆に、弟は過酷な受験勉強だとかエリートコースを過度に期待されて抑圧されているのかもしれないとも想像できる。僕はこういう細かい部分で想像が働く映画がすごく好きなんですね。韓国社会のザラザラした実相とか現実の歪みを反映したドラマでいうと、ユ・アインが出演したイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』ともつながりますね。ポン・ジュノでいえば『殺人の追憶』のイメージをもたれる方も多いかもしれない。田園風景だったり、まさかこんな場所でというところで犯罪が起こるところとか。」

韓国における80~90年代生まれの女性監督の活躍

本作のホン・ウィジョン監督は1982年生まれの女性監督だ。韓国では女性監督たちの活躍が目覚ましいが、それについて森は日本でも公開された作品をいくつか引き合いに出した。「ホン監督は、まさに「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著/筑摩書房)世代になりますが、『はちどり』のキム・ボラ監督は81年生まれで、この世代が一つのムーブメントになっている印象があります。『夏時間』のユン・ダンビ監督は90年生まれで、少し若いですが、似たような感覚がありますね。あと犯罪ミステリー的なヒューマン・ドラマで、僕が一番近いと思った韓国映画は、イ・チャンドン監督がプロデュースし、ペ・ドゥナが若い警察官を演じた『私の少女』ですが、監督のチョン・ジュリは80年生まれの女性なんです。『私の少女』は田舎を舞台に少女のネグレクトの問題が絡んでくる映画です。」

「聖なる愚者」を体現するユ・アインの存在感

口の利けない誘拐犯テインを熱演したユ・アインについては「セリフが全然ないわけですが、すごいですよね。不自然じゃないんですよね。故意にセリフをなくすようなあざとさはなくて、彼の場合は意外に理由がわからない、というか、そこぼかしてますよね?今回も、“聖なる愚者”というか、アメリカ文学でも良く使われる言い方ですが、テインはそういうイメージがあって。イノセントな役ですよね。図らずも悪の側、裏社会の側で死体遺棄というダーティな仕事を請け負っているわけですが、彼はどこまでもイノセントであるっていうのが、喋らない、言葉を言語化しないところも含めてすごく出来上がっている。」と称賛。最後に「観たことがない構造の犯罪映画。半分ジャンル映画のようなところもあり、とにかくいろんな類似作を挙げましたが、結果見当たらないという(笑)」と、やはり他に類を見ない作品であることを再確認してトークは締めくくられた。

映画情報どっとこむ ralph

『声もなく』

原題:소리도없이 
英題:Voice of Silence

1月21日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開。

公式サイト:koemonaku.com
声もなく
ストーリー
犯罪組織から命令され死体処理などの裏稼業で生計を立てる、口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と相棒のチャンボク(ユ・ジェミョン)。ある日、犯罪組織のボス、ヨンソクからの無茶な命令で、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。ところが、依頼をしたヨンソクが組織に始末され、ふたりは予期せず誘拐事件に巻き込まれていくことに…。
声もなく

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監督・脚本:ホン・ウィジョン/製作:キム・テワン『Okja/オクジャ』/撮影:パク・ジョンフン『悪女/AKUJO』/音楽: チャン・ヒョクジン&チャン・ヨンジン『鬼手(キシュ)』/編集: ハン・ミヨン『藁にもすがる獣たち』
出演:ユ・アイン『バーニング 劇場版』/ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」/ムン・スンア
2020年/韓国/韓国語/99分/ビスタサイズ/G
配給:アット エンタテインメント  
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