映画情報どっとこむ ralph

シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」開館記念イベント

第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)に輝き、ナント三大陸映画祭最高賞では〈金の気球賞、観客賞〉のW受賞、第17回CineFestミシュコルツ国際映画祭では最高賞にあたる〈エメリック・プレスバーガー賞を〉受賞するなど現在も世界の映画祭からオファーを受け続け、昨年日本で公開されるやBunkamuraル・シネマで連日満席が続出、傑作と称賛する反響も続々と出ている『偶然と想像』。

今月20日に下北沢に新たにオープンするミニシアター<シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」>での柿落とし作品にもなり、開館記念イベントとして本作の監督である濱口竜介と美術家の奈良美智との特別対談を実施いたしました!

下北沢らしい、多種多様な文化が好きな人達が集う、結節点のような映画館を目指す「K2」ならではの特別なラインナップ。国内に留まらず世界でその評価を獲得してきたご両名。活躍する分野が違いながらも、独自の世界感で人々を魅了し続ける世代の違うお二人の表現者に、「創造」や「想像」、インスピレーションの掴み方、今までの「経験」と「学び」、これからの「課題」などについてお話いただきます。その対話から、スポットライトの当たる「成果」ではなく、「制作過程」に注目することで見えてくるお二人が作ってきた独自の道について伺い、「学びの場」を提供することをミッションのひとつとして掲げる「K2」が企画する本トークの最後には、会場の方々とのQAも実施いたしました。
偶然と想像
シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」開館記念イベント
日時:1月14日(金)
場所:ADRIFT
登壇:奈良美智、濱口竜介

映画情報どっとこむ ralph

奈良美智、濱口竜介登壇@ADRIF

<シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」>の記念すべき柿落とし作品となった映画『偶然と想像』。

集まったお客さんを前に、濱口監督は冒頭で「柿落としとして本作を選んでいただきました。また今日、奈良さんとお話する機会をいただいて有難く思っています」と挨拶。偶然と想像この日が初対面となった2人、早速お互いの印象を聞かれると濱口監督は「ここにいる奈良さんファンに刺されるんじゃないかというほど、奈良さんの事をほとんど知らない状態で今回この対談のご提案いただいて。もちろん10代、20代から奈良さんの絵は見ていて存在も知っている。出会い方として、ポップアイコンやサブカルチャーという文脈でどちらかというと出会っていて、どう付き合ったらいいのかというのが見えづらかったというのが正直なところで。それでこのトークイベントを前に森美術館の奈良さんのお話されている映像を見た時に、映像に映った人というのが、こんなにそのまま映っている映像ってあんまり見たことがないなと。『この人こういう人なんだな』と語りを聞くと分かる人。生意気な言い方ですけど、信じられる人なんだなと思いました」と率直な印象を明かし、またその映像の中で奈良が「鉛筆で絵を描くようにドローイングで描くように描けばいいのではとドイツで先生に言われてやってみたところ、自分の中ですごく抜ける所があったというお話をされていて。その時に、自分が見ていたすごくシンプルな絵の奥に、色々描かれなかった線というものがあるんだなと、ようやく分かったんです。それで奈良さんの絵を見た時に、バカなんじゃと思われるかもしれないですけど、なんていい絵なんだろうと思うようになったんですよ(笑)」と話すと、それを聞いていた奈良は偶然と想像「光栄です」と笑顔を見せ「今回一緒にお話するという事で、どんな人が作っているんだろうともう一度濱口監督の作品を観ていたんですけど、自分とはまったく違うタイプの人なんだろうと思っていたのが“モノをつくる”ということにおいて、その手法は異なるもののすごく似ているという所に辿り着いたんです。色や線やタッチだったりが、映画の中でいう演じる役者みたいなものなのではと…。頭の中で脚本を作りながらその役者を動かしていき、ある程度みんなが自由に動き回った所で急に何かが変わる瞬間があって、その瞬間を逃さなければゴールが見えて、そこから割と時間がかからず完成する。演技する役者さんが映画の中で見てて変わっていく。特に『ドライブ・マイ・カー』(濱口監督作品)でも化学変化が起こったような瞬間がありますけど、絵を制作している時もそういう瞬間がある」と、モノづくりにおいての共通点を語った。

また制作について奈良は、「絵と関係しない所での経験、そういう事が自分の予期せぬ化学変化を起こさせてくれる。ほぼ美術と関係のない人と接した時の経験などが、自分の作品に生きてくる。人々に何か感じとれるものが専門的な教育じゃない所から作品が放ってくれているという事はありますね」と語ると、濱口監督も「分かる気がするというか、作る時に助けてくれるのは、そういう生きてきた時間という感覚は分かる。いっぽうで奈良さんとお話して思ったのは、自分は勉強するのが結構好きで、芸術全体の事は分からないですけど映画史も好き。周りに才能ある人々がたくさんいた時に、支えてくれたのが勉強だった。それに助けられつつ作っているというのもあったんですけど、ただそれが自分を閉じ込めているというのも感じて…。自分でも技術は上がったという実感はあったんでしょうけど、精魂込めて作った作品がちょっと何かが欠けているような。これではなかなか映画を撮れないなと、結局映画以外の経験が必要なんだなと思った時に、自分の場合は東日本大震災が起きた」と述懐。そこで濱口監督は東北へ行く事となり、現地で同じく映画監督の酒井耕と共に東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を撮った。濱口監督自身の変わり目となった東日本大震災。「インタビューしていて本当に恐ろしいなと思ったのが、みんな3月11日っていつもと同じ様な日だと思っていたと。でもそういう事がある日突然起きるんだという事も思いましたし、それが奪われるという事がどういう事なのかというのもすごく学んだ気がします。作っていた期間が自分の回復期にもなり、また劇映画に戻っていけるようにもなりました」とも語る。いっぽうの奈良も、当時は絵をまったく描けなかったと言い「描く事が罪みたいな。道具がないと描けないし、余裕があってできるもの。そういう時になんて無力なんだと。音楽をやっている人がすごく羨ましくて、俺はなにも出来ないと。災害が起きる事をまったく気にせず、のほほんと生きてきた自分が罰当たりな気がして何も出来なくなった。それでボランティアをしに行ったりしたんですけど、作品作りにはしたくないと思っていた。でもそれが結果、作品作りにバックしてきた」と、奈良にとっても大きな制作の変わり目となった当時の状況を明かした。

続いて自身の作品が世に出た時の人々の感想について話が及ぶと、奈良は「すべて計画して理詰めで作ったものだと、手が離れても理詰めでしか生きられないんだけど、自分の中の滲み出たものが作品にあった時に、そういう気づきを色んな人の感想から受けるというのはあるんです。それが次の作品のヒントというか、次また違う霊感がやってくるかもなとか…。まさに“偶然と想像”(笑)?。それって密に計画されたものには起こり得ない事」だとも。さらに『偶然と想像』のまさにテーマ「偶然とは?」という問いに濱口監督は「ニュートラルなものというか、我々との出会い方によって極端に良くもなるし悪くもなるものだと思う。できればいいものだけを選びたいけど、なかなかそうはならない。本当に目指している事とかって、偶然でしか辿り着けないという感覚はあるんです。その偶然というものを受け入れなきゃいけない、それは自分を不安定な状況に置かなければならないという事なんですよね。そうするといい偶然も悪い偶然もやってきて、それは等しく受け入れなければいけない」と真剣に語った。

さらにイベント後半では、2人への質問コーナーに入り「最近どんな音楽を聴いていますか?」という問いに、濱口監督は「なんでも聞こうと思うんですけど、結局脚本が一番進んでしまうのは自分が20~30代に聞いていた曲。結局、俺はここなのかとなります(笑)」と苦笑いすると、それを聞いた奈良が「その時代の自分というのは可能性が無限大なんですよ。レベルが定まっていなくて、ただただ可能性がある状態。大人になった今はその可能性を引き出すことができるけど、若い時は引き出せない。今同じ音楽を聴いて気持ちだけ若い頃に戻ると、何を引き出せばいいのかが分かる」と語ると、これには濱口監督も「これはすごくいい話」と唸った。

また「こんな世の中ですが、最近一番楽しいと感じる瞬間は?」という質問に、「わりといつも楽しいです(笑)」と答える奈良に対し、濱口監督は「いつも楽しいという人間ではないんですけど、楽しいのは、正直になっている時ですよね。なので奈良さんが楽しいのは、正直だからなのかなと思う」と話すと、突然、奈良が「なぜ僕が今半袖のTシャツを着ているのかというと、ここへ入ってきた時に濱口監督と同じようなセーターを着ていて、脱ぎました(笑)」と舞台裏を明かし、そんな奈良に濱口監督が「ちなみに奈良さんはユナイテッドアローズで、私は無印です(笑)」とツッコみ、会場を笑わせる場面も。

最後には「今の20代の方達へのメッセージを」という質問が飛ぶと、「僕はもうおじいさんの域に達しているからありますよ」と奈良が口火を切り、「パソコンで言う“ショートカット”で目的地にはすぐに行けるんだけど、回り道したことで別の風景が見えてくる。ただショートカットしていく予定だった目的地ではないものに、ショートカットしていく。偶然を自分で誘発していく。全然違う道にそれていくんだけど、それで急にもっと違う大きなゴールが見えちゃったりする。そういう作業をして欲しいという事。それと学生だったら、自分らしくない事もやっていい。やってみたい事を恥ずかしがらずに悔いなく試す、実験する。無差別にやってもいい。責任はとらなくていい、学生だから。20代の人は見えてるものに行く前に、見えていないところを通ってくると違うものが見える」と、自身を振り強く返り呼びかけた。続いて濱口監督は「僕は今も結構そうなんですけど、イヤな事から逃げる事は頻繁にしていまして…自分が運が良かっただけかもしれないんですけど、大事な事だと思うんです。でも、踏みとどまらなければいけない、そこから逃げたら終わりだという事もあって、踏みとどまって、ある種悪い偶然や失敗みたいなものに耐えないと、良い偶然みたいなものを掴む事もできないし、自分自身が本当に望んでる方向に開かれていく事もない。自分で自分自身の力も信じてみるというのが大切だと思っています」と、終始貴重な話を繰り広げた。

映画情報どっとこむ ralph

『偶然と想像』

Bunkamuraル・シネマほか全国公開中!

■第一話 『魔法(よりもっと不確か)』
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。

■第二話 『扉は開けたままで』
作家で大学教授の瀬川(渋川清彦)は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木(甲斐翔真)の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒(森郁月)に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。

■第三話 『もう一度』
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子(占部房子)は、仙台駅のエスカレーターであや(河井青葉)とすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
『偶然と想像』

***********************************

監督・脚本:濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』(監督) / 『スパイの妻』(共同脚本)
古川琴音 中島歩 玄理 渋川清彦 森郁月 甲斐翔真 占部房子 河井青葉
プロデューサー:高田聡
撮影:飯岡幸子 / 整音:鈴木昭彦 / 助監督:高野徹 深田隆之 / 制作:大美賀均 / カラリスト:田巻源太 / 録音:城野直樹 黄永昌 / 美術:布部雅人 徐賢先 / スタイリスト:碓井章訓 / メイク:須見有樹子
エグゼクティブプロデューサー:原田将 徳山勝巳 / 製作:NEOPA fictive / 配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム(2021年/121分/日本/カラー/1.85:1/5.1ch )
©2021 NEOPA / fictive

関連記事:




良かったらランキングUPにご協力ください。
  にほんブログ村 映画ブログ 映画情報へ    にほんブログ村 アニメブログ アニメ情報へ