瀧内公美(『火口のふたり』、『裏アカ』)を主演に迎えた春本雄二郎監督(『かぞくへ』)最新作『由宇子の天秤』を、9月17日(金)より渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開となります。 その公開を記念して、昨日9月6日(月)に本作で描かれる《不寛容な社会をなくすため、私たちができること》をテーマに識者を招いてシンポジウムを開催いたしました。 ゲストは、本作の春本雄二郎監督をはじめ、NPO法⼈ Dialogue for People副代表でフォトジャーナリストの安⽥菜津紀⽒、元⽂部科学省事務次官の前川喜平⽒、司会をchoose life project代表の佐治洋⽒が務めた。ジャーナリスト、表現者、報道の対象者、それぞれの立場の経験から生まれる白熱の議論に、ジャーナリズムを学ぶ大学生らが耳を傾けました。 |
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安田「メディアの中からメディアを批判しなければ誰が批判するのか?」 自分自身もテレビ業界にいた佐治は本作について「非常にリアリティがあると感じた。魂を削って考えたナレーション原稿をプロデューサーから削られてしまうというのは自分も経験があり、共感した。個人の正しさが歪められてしまうことの恐怖を感じ、茫然としてしまった」と感想を述べた。安田は「メディアの自浄作用のなさに既視感がある。7年前科学技術の疑惑の渦中にいた女性の一連の報道について、朝の番組でメディアの報じ方に問題があるとコメントしたら、他局の方から「メディアの中にいてメディア批判するってどうなの?と周りが言ってるよ」と遠回しに牽制され、この業界で生きていきたいなら忖度しなさいという警告に感じた。メディアの中からメディアを批判しなければ誰が批判するのか?自浄作用をもたせるにはどうしたらいいのか?映画を観て改めて考えた」と自身の経験と重ね合わせた。文科省の初等中等教育局にいた前川は「いじめ問題などが起きたとき、学校側は責任がないと主張し、事実を隠ぺいしようとする。文書の改竄もよく行われている。パワハラ、体罰問題が起きても、教師をかばう」と、映画で描かれる教育業界の隠ぺい体質に触れた。 春本「観客に、当事者になることを体感してほしい」 |
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一個人を徹底的に攻撃してつるし上げる「正義の暴徒化」 「さきほど超情報化社会の話があったが、個人が発信できる時代で、個人の正義が暴走していくことがある。例えば、旭川いじめ事件のネットリンチ。悪意がないゆえに暴走していく」という佐治に、春本は「何のために誰かを叩くのか?人や行為を責めて、なぜ起こったのかを掘り下げようとしない。メディアも掘り下げる方に目を向けるような情報発信をせず、叩くように仕向けている」とネットリンチの問題はマスメディアの報じ方にも原因があることを示唆した。さらに、安田は過激派組織「イスラム国」の事案を例に挙げながら、わかりやすさを求める発信側と受け手側の姿勢を問うた。「わかりやすくするには、何かを悪魔化するのが簡単な方法。例えば、イスラム国は残酷な集団として知れ渡っている。シリアでの取材で、イスラム国の兵士にインドネシアから嫁いだ大学生に、なぜ宗教に傾倒したのか?と聞いたら、そのきっかけは失恋だった。心の穴をふさいでくれたのは宗教だったと。後悔しているか?と聞いたら「YESでありNO」。社会が「前に進め、進め」と鼓舞する先に、宗教があったら…。なぜイスラム国は生まれたのか?どのように求心力を持ってしまったのか?そこに切り込まない限り、同じような構図が再生産されていくかもしれない」 前川「何が正義で何が事実なのか、冷静に追求するのはなかなか難しい」 佐治「受け手側はどうすればメディアリテラシーを高められるか?」 シンポジウム後の質疑応答では、学生たちから「報道が間違って伝わったときの責任は誰にあるのか?」「わかりやすくしないと見てもらえないという風潮があり、取材対象が「ネタ」として消費される。そんな中で報道する意義はどこにあるのか?」など、熱心な質問が飛び交った。 |
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『由宇子の天秤』“正しさ”とは何なのか? 三年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ“衝撃的な事実”を聞かされる。大切なものを守りたい、しかしそれは同時に自分の「正義」を揺るがすことになる――。果たして「“正しさ”とは何なのか?」常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…。 |
瀧内公美 河合優実 梅田誠弘
松浦祐也 和田光沙 池田良 木村知貴
前原滉 永瀬未留 河野宏紀 根矢涼香
川瀬陽太 丘みつ子 光石研
脚本・監督・編集:春本雄二郎
プロデューサー:春本雄二郎、松島哲也、片渕須直
キャスティング:藤村駿 ラインプロデューサー:深澤知
撮影:野口健司 照明:根本伸一 録音・整音:小黒健太郎 音響効果:松浦大樹
美術:相馬直樹 装飾:中島明日香 小道具:福田弥生 衣裳:星野和美 ヘアメイク:原田ゆかり
製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会 製作協力:高崎フィルム・コミッション
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
配給:ビターズ・エンド
2020/日本/152分/カラー/5.1ch/1:2.35/DCP
©️2020 映画工房春組 合同会社