現在大ヒット公開中の映画「海よりもまだ深く」。
第69回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門に出品され、公式上映後は拍手喝さいを浴び、高い評価を得た本作ですが、この度、カンヌより帰国したばかりの是枝裕和監督と団地が登場する映画・アニメ・マンガ・小説にやたら詳しい団地好きユニット“団地団”とのトークイベントが行われました! 『海よりもまだ深く』トークイベントレポート |
|
佐藤さん:団地出身の監督というのが僕らにとってのどよめきだったんです!これを語らずして誰が語るかということで参上いたしました。 大山さん:日本には団地が多くあり、その中でも団地といえば光が丘団地などが挙げられる中で、言葉は悪いですが、この作品の舞台となった旭が丘団地は非常に微妙なんです・・・しかし、この作品を観て、旭が丘こそがTHE・団地だったと感じました。最高の団地映画でした。 とべた褒め!速水さんからの実際のところ監督は団地を好きなのか?という質問に対し、 是枝監督:・・・・好きですよ。住んでいるときは愛着がなかったんですけど、母も亡くなり、もう帰れない場所としての愛惜というのかな?は感じます。この作品は、なくなっていくものを愛情をもって撮るということをやったつもりです。 と語り、今回舞台となった清瀬市旭が丘団地は、監督が実際に住んでいた場所。なぜここを舞台にしていたのかという速水さんの質問に対し、 是枝監督:脚本を書いている時点では、自分の住んでいた団地を思い起こしながら書いているんですけど、現実的に撮影するとなると距離もとり切れないし、私小説の中に閉じてしまいかねないなと思って、最初は候補から外していたんです。それで、撮影しやすそうな団地をあたったんですけどなかなか撮影許可が下りなくて、UR(都市機構)を通して、監督がここの団地出身だからといって、僕も熱い思い出を語って、一度断られたドアをなんとかこじ開けました。 と当時の苦労を明かしました。 |
|
それに対し、
大山さん:今年は団地映画の当たり年だと思っているんです。阪本順一監督の『団地』も近々公開されますし、ドキュメンタリーなどもあり。都内で撮影できる団地って許可が下りないので限られていて、実はみんな同じ場所で撮っているんですよ。だから監督がそうやってこじ開けられたのはブレイクスルーだなと思いましたね。 と感心した様子をみせた、速水さんから団地マニアとしてのツッコミポイントを問われると 大山さん:この映画が他の映画と一線を画しているのは安易な団地あるあるを描いていなということで、あざとさがひとつもなかった!団地で育った方ならではと思いましたね。 と独自の意見を展開。すると 佐藤さん:冷蔵庫を開けるとよけなくてはいけないとか、母親の姿そのものだった。 と激しく同意しました。また、劇中にジップロックが登場したことについて感動したと熱く語る大山さん。 大山さん:今まで団地映画を描く中でジップロックは一切出てきてない!なぜなら今まではそれは団地じゃないよねってことで団地を描く中で現代のものを登場させようとしなかった、ノスタルジーになってしまっていたんです。なので”今”の団地を初めて描いた映画だと思いました。団地映画史に残る大事件ですよ! と大興奮!それに対し 是枝監督:特にジップロックを提案していたわけじゃないけど、この団地の中には何十年前から今までの時間の積み重ねが、”今”見えないといけないので、いろんな時代のものが混じっているのが団地の特徴だから、その幅をつくってほしいと美術さんに伝えたんです。美術さんがさすが、ですね! と明かし、スタッフを称賛!続けて、速水さんからの本作が監督の自伝であるのかという質問に対し、 是枝監督:自伝といってしまうと様々な障害がでてくるんですが(苦笑)でも、遊歩道の場面は、僕が母親と実際に歩いた道ですし、そこで母に聞いた話も映画の中で取り入れたりはしています。なので、撮影しているとき、今自分がみているものが映画の中の風景なのか自分の記憶なのかがわからなくなってしまうことがあって、タイムスリップしているかのような不思議な体験をしましたね。これは初めての体験でした。 と振り返りました。主人公の名前が同じ”良多”ということも含め、『歩いても 歩いても』(08)との共通点を感じていたと話す佐藤さん。 是枝監督:『歩いても~』のときは、阿部さんも40代でまだ未来がある年齢、今回は僕も阿部さんも50になるし、主人公は人生の季節として秋を超えたくらいの設定にして、より陰影を強めにしました。でも嫁の旦那は高橋和也(『歩いても~』ではYOU演じる主人公の姉の旦那役)さん、そこだけは外せないなと思いましたね(笑) とこだわりを明かしました。 |
|
団地の狭さがよく感じられて、すごい感動したという大山さん。是枝監督から撮影の裏話を聞くと、
大山さん:僕たちが団地映画の最高峰と決めているのは、川島雄三監督の『しとやかな獣』(62)なんです。でも川島監督とはまた違うルールでやっていながら、その狭さを観る者に感じさせているのが、スゴイ!僕は阿部さんのお風呂シーンが大好きなんです!ローマ風呂の次は団地風呂かといった感じで、あの巨大きな体をもって団地のサイズを表現するのが素晴らしいと思いました。 と感想を述べました。 山内さん:私もしゃべらせてください!この作品は台詞が生き生きとしていて、観ている間ずっとクスクスと笑っていたんです。普通の映画よりも会話量が多く感じたのですが、それって団地という空間が狭い場所であることによって、会話が増えているんじゃないかって思ったんですが意識はされているんですか? という質問に対し、 是枝監督:特に意識していたわけじゃないけど、ああいった狭い空間だと、どの場所にいても音が漏れるからそう聞こえたのかもしれないですし、ああいう状況だと母親が常に動き続けるんですよね。だから、常に樹木さんに動いてもらおうと意識はしていて、その分、樹木さんの台詞量は多く感じさせないように気を付けていたりしましたね。 と明かし、 大山さん:樹木さんがすごい良いことを言った後に、自分でちゃかすと思うんですけど、ああいったところは自分の親にも当てはまるなぁと感じました。 という大山さん。これには佐藤さんも同意。 是枝監督:あのちゃかす感じは、樹木さんの品ですね。本質をつくことを言われるときはちゃかすんですよね。それが樹木さんの品なんだと思います。そこがかっこいいんですよね。」と樹木さんを絶賛。それに対し、大山さんは「樹木さんのこと、歩く団地に見えてきましたよ。 佐藤さん:最後のシーンなんて、森の中にいる団地の妖精のようですよ。 と表現し会場の笑いを誘いました。 |
|
この後もまだまだ白熱トークは繰り広げられるものの、終了時間が迫ってきたことにより強制終了。
山内さん:団地映画の傑作だと思う! 大山さん:日本中のあるゆる人にみんなに観てもらいたい。 佐藤さん:全国6000万の団地ファンは特にね! と続き、熱が冷めぬマニア~なイベントは終了しました。 物語・・・ 台風の夜に、偶然ひとつ屋根の下に集まった“元家族” ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真吾は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。 こうして、偶然取り戻した、一夜かぎりの家族の時間が始まるが―― 『海よりもまだ深く』 全国公開中! 公式サイト:gaga.ne.jp/umiyorimo |
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和 (『海街diary』『そして父になる』)
主題歌:ハナレグミ「深呼吸」
(Victor Entertainment / SPEEDSTAR RECORDS)
出演:阿部寛 真木よう子 小林聡美 リリー・フランキー 池松壮亮 吉澤太陽 / 橋爪功 樹木希林
(C)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ
配給:ギャガ