ナチス・ドイツ降伏後、1945 年のデンマークでは捕虜となった 10 代のドイツ人少年兵たちが、ドイツ軍が海岸線に埋めた地雷の撤去作業に従事させられた。
200 万個の地雷処理のためにデンマーク西海岸へと送られていったという、 歴史上の事実でありながらデンマーク国内でもほとんど知られていなかった悲劇を題材にした映画『ヒトラーの忘れもの』が 12 月 17 日(土)より全国順次公開となります。 この度の公開前イベントとして、昭和女子大学でナチを専門に 研究している2 年生から4 年生 17 名を対象に特別上映会とトークディスカッションを行いましたのでご報告致します。 <特別試写会+トークディスカッション> |
|
「加害国の国民=加害者」なのか? 戦争で生まれた憎しみはどこへ向けられるのか? 本作では、ドイツ人を憎ん でいたデンマーク人の軍曹が、少年たちの”個”を目の当たりにすることで心境に変化が生まれる様子が描かれてい ます。軍曹と少年たちの交流、葛藤、そして、かつての敵同士が人間同士としての理解を深める様子を通じて、「国(と いう集合体)」と「個人」について考えるきっかけになる作品でもあります。 昭和女子大学の小野寺拓也先生は 小野寺先生:映画 だけを切り取れば(国の罪を償わされるかのようなドイツ人少年兵が置かれた状況は)理不尽極まりない事実であり ながら、一方でドイツ人少年兵が受けてきた教育や彼らが戦場でしたであろうことを考えると”理不尽”だけでは済まされない背景もある。 と言います。 ドイツとデンマークという特定の地域が舞台となる作品ですが、世界中どの地域を切り取っても現代に通じるテーマでもあることから、同じ歴史を繰り返さないために映画から何が学べるのか、そして教える素材としても重要である という先生の話から上映がスタート。
|
|
上映後のディスカッションでは、涙ながらに感想を語るなど女子大生 たちの等身大の“声”を聞くことができました。
教科書には書かれていない、リアルな視点 ・ナチスの罪に焦点を当てた映画は多いが、「戦後」がテーマでありデンマークの捕虜となったドイツ人に焦点を当てた映画は珍しい。戦争映画は二対立のものが多いが、この作品はデンマーク vs ドイツ少年兵 vs 地雷という敵(過去 のドイツ)という三対立を描いている部分が興味深い。本当に憎むべきものは何であるのか考えさせられる。 ・悪いのはナチスという側面しか教科書では習わない、当時の人々のリアルな部分は教科書には書かれていないので 映画は(そういうことに気付く)良い機会だった。史実として知られていなかった出来事だが、「黙認=加害」である という意識もそろそろ持ち始めた方が良い時代だと思う。悪いのはナチスだけではない、目を覚ましてくれという描 き方でもあると思った。 ・地雷は埋めてもすぐに取り除くことができるけれど、人の感情はそうではない。私は戦争を体験していないので、 相手の民族を憎むという感情がわからない。もちろん理屈ではわかるけれど、当時を生きた人々との温度差はあると 思う。この映画に限らず、戦中戦後の人たちは人間関係や感情の処理をどうしていたのかという点は気になる。 ・敵であった相手を憎むのは当然だし、個人的な付き合いを重ねるにつれ情が移るのも当然。感情というものに正解 はないと思った。憎しみ続けることの難しさ、信頼し続けることの難しさ、両方を感じた。 |
|
『ヒトラーの忘れもの』タイトルの意味、人間の感情について
・邦題の意味が気になった、「忘れもの」って何なのか。人間的な感情を忘れてしまったのか、ヒトラーが置き去りに した少年兵たちのことか、それとも埋め残していった地雷のことなのか。 強制労働させられた少年兵たちは、果たして可哀想なだけの存在か。 ・ドイツの少年兵たちは理不尽なようにも見えるが、決して純粋無垢だったわけではないと思う。ヒトラーユーゲン トとして教育され、ヒトラーに対する信奉心も持っていただろうし、ドイツ人としての在り方や人種への差別意識な どを植え付けられてドイツを信じて育ってきた子どもたちのはず。ただの被害者というだけではないと感じる。 ・憎しみが憎しみを生んでしまう。ドイツの少年兵が地雷撤去を強制されるのは可哀想だが、彼らがやらなければ誰 がやるのかという問題もある。デンマークがやるのはもっと違うと思う。少年たちはよく「俺たちのせいじゃない」 と言わなかったなと、自国の罪をしっかり理解しているのだと感じた。 ・怒りの矛先はどこへ向かうべきなのか、全ての原因が少年兵たちにあるわけではない。敗戦国に向けられるのではなく、戦中戦後の責任は誰が担うべきなのか考えなければいけない。 因に、東京国際映画祭当時の邦題は 『地雷と少年兵』。英題:Land of Mine です。 戦争を知らない私たちの世代 ・戦争を知らない、偏見もない、そんな幼い少女が劇中に出てくるが、彼女の存在は戦争を知らない今の私たちに近い存在として描かれているのだと思った。当時は人が死ぬということが当り前になっている時代なので、それを繰り返さないでほしいと感じた。 ・常に死と隣り合わせでも強く生きている姿は、自分たちでは考えられない。それが現実にあったということに驚く。 |
|
小野寺先生は、一人の人間が極限状態で何がしうるのかということも本作の重要なテーマとして掲げ、学生達は映画の細部を例に挙げながら時間をかけて自分自身の感情や言葉、そして日頃研究している内容に重ね合わせ言葉を絞り出しました。
小野寺先生:第二次大戦中のドイツの被害を描いた映画が製作され公開できるということは、これまでにドイツがナチの罪と向き合い反省してきたことと密接。だからこそ、本作のような映画を上映しても問題になることがない、日本で同様の作品をつくるのは難しく大問題になりかねない。 と・・・。 また、 小野寺先生:自分も気が 付かなかった視点が多く出てくる、映画の感想って語り合うべきだね! と学生たちと意見を交しました。 【ディスカションを終えて、映画スタッフの感じたこと】 ヒトラーやナチについての映画は、様々な方向から作られ続けています。 戦後 70 年を経た今だからこそ、これまで語られなかった戦争の真実が語られるようになっています。本作のマーチ ン・サントフリート監督自身、1971 年生まれの戦後世代であり、戦争体験世代であれば見過ごしてしまったかもしれない。そんな1つの史実から“戦争”の恐ろしさや悲しさ、加害者と被害者に二分できるものなのか?という、大 きな課題を、今を生きる人たちに投げかけています。それを、これから社会へ出て未来を担っていく学生の方々が、 自分なりの考えで受けとめ、意見の違いはあっても、<戦争というあやまちを二度と繰り返してはいけない>という 共通の想いを感じました。本作を通じ、1 人でも多くの方々が、彼女たちのように考えてみるきっかけとなればと願います。 映画『ヒトラーの忘れもの』 物語・・・ 本年度アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表作品選出。また、ヨーロッパ映画賞、技術部門で 3 冠獲得。 |
脚本・監督:マーチン・サントフリート
出演:ローラン・ムラ、ミゲル・ボー・フルスゴー、ルイス・ホフマンほか
2015/デンマーク・ドイツ/カラー/ドイツ語・デンマーク語・英語/101 分/シネマスコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ