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「一年まえのヤマ開き」イベント

 
隔年で開催の山形国際ドキュメンタリー映画祭2025のプレイベント「一年まえのヤマ開き」が、10月13日(日)に山形市内で行われました。
 
今回のテーマは、“未来をつくる人と場”で、イベントは山形市内の文化拠点でもある図書館を併設した遊学館を会場とし、昨年の本映画祭で大賞を受賞し、今年のカンヌ国際映画祭で劇映画『All We Imagine as Light』がグランプリに輝いたインドの気鋭パヤル・カパーリヤー監督の『何も知らない夜』と、現在、最新作『至福のレストラン三つ星トロワグロ』が公開中で、本映画祭の常連でもある巨匠フレデリック・ワイズマン監督の『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の2作品を上映し、各作品の上映後に作品にちなんだゲストが登壇しトークショーを開催しました。
 

山形国際ドキュメンタリー映画祭2025のプレイベント

「一年まえのヤマ開き」
日程:10/13(日)
会場:山形県生涯学習センター2階 遊学館ホール
①10:00- 上映「何も知らない夜」
トークゲスト:黒岩朋子(アートコーディネーター)、藤井美佳(英語・ヒンディー語字幕翻訳者)

山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
 
②13:15- 上映「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」
トークゲスト:大川景子(映画編集者)、猪谷千香(文筆家)
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
 

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①『何も知らない夜』

まず本作を見た感想について、本作の字幕を手がけた藤井氏は、「インドで行われているのは、怒りで分断を招き、国をコントロールしていくという政治。けれど怒りで抵抗しただけでは、自分が思い描く社会にはなっていかない。だからカパーリヤー監督は、社会や政治に対する思いを怒りだけではなく、芸術という方法を用いて届ける力を持っている。あまり見たことのない作品だと感じた」、
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
黒岩氏は、「ドキュメンタリー映画を普段はあまり見る機会がないが、本作は、非常に美術的だなと思った」と語った。
また二人とも、本作につながる出来事として、1992 年に起こったアヨーディヤのモスク破壊からの2002年グジャラート暴動を取り上げた。黒岩氏は、「この事件はインドにとって非常に大きな出来事であり、今日に至るまで、国内の美術表現で繰り返し取り上げられてきた。本作から、当時の宗教対立がヒンドゥー至上主義を唱える現政権に至るまで脈々と続いている問題の根深さを実感した」という。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
本作は、2015年に始まった学生運動を背景に、架空の学生L(エル)がカーストの違いによって引き裂かれた恋人に宛てた手紙の朗読で物語が紡がれる。藤井氏からは、「実は彼女の手紙にはからくりがあり、実は最初はヒンディー語で書かれているのですが、途中からベンガル語に変わるんです。ヒンドゥー語はインドの中では一番強く英語に次ぐ共通語のような言葉で、途中から言語が変わることでLがベンガル出身だということがわかり、自分の言語で思いを語り始めるという作品の層の厚さを感じることができる部分なのですが、色々と試してみたけれど、それを字幕ではなかなか表現しきれませんでした。」と日本語版制作の裏話を語った。また作品の制作について黒岩氏より「カパーリヤー自身、映画学校で起きた学生デモの当事者です。とにかく学内で起きている出来事を記録しようとカメラを回したようです。当初は映画にする意図はなく、後に映画制作の話が持ち上がった際に、これらの映像と仲間からもらい受けたものなどを集めて編集したそうです。」と解説があった。
また、当時の断片的な映像を監督がファウンド・フッテージと呼んでいるのを知り、美術制作における、身の回りの日用品をつかったファウンド・オブジェクトによる美術製作に近いものを感じたという。フィルム、デジタル、スマートフォンや監視カメラなど形態の違う映像にテキスト、ドローイング(描画)を介在させて、単なるドキュメンタリーではない、美術的な側面を感じさせる仕上がりについても触れていた。畑事務局長は、「本作の監督のパヤル・カパーリヤーは、今年のカンヌ国際映画祭に長編劇映画を出品しグランプリを受賞しており、今後がとても楽しみな監督です。本映画祭出身の監督として是非みなさん注目してください。」と話した。

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②『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

まずワイズマン監督作品を愛する編集者の大川氏は、作品の特徴について「今日は4、5回目の鑑賞ですが、これだけ見てもまだ発見があるんだと驚きます。それだけ作品が複合的で多面的に描かれているということですよね。ワイズマン作品はその時の自分の状態や考えていることによっても反応する部分が違うし、その人のこれまでの人生経験や背景によっても各々見え方が変わる。そこが魅力のひとつだと思います。彼の撮影は、対象への予備知識をあまり持たずに、その場で体験したことを撮るというスタイルです。もちろん彼は才知に優れた監督で、反応能力が高い身体で撮影に挑んでいるということもあるけれど、そうやって撮った膨大な撮影素材をワイズマンはじっくり見て体験に落とし込みます。そして、編集(ワイズマンは圧縮と言っています)して作品にしていきます。観る私たちも、先入観を持たずにまず観て、彼の映画を通して撮影対象である場所や人やモノなどにダイレクトに出会って自分が何に反応するかというのを鑑賞しながら受け取るというのが面白いところだと思います。」
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
日本全国の図書館を巡り、ニューヨーク公共図書館へも聖地巡礼をしたことがあるという猪谷氏からはその大きな違いについて語られた。「この映画では本館と92の分館からなる世界最大級の図書館の舞台裏が映し出されるわけですが、まず、この図書館では働いている人皆が、それぞれの場所や立場で、どのようにパブリック(公共)な図書館を運営して市民の人たちに還元していくか、という一つの目標に向かって考えて動いていることに驚きました。日本だと、図書館は娯楽としての読書の場であって、イベントもこの映画に出てくるような政治性の強いものはまずないです。この公共図書館が提供するサービスも、ここまでやるの?と、凄いなと思いましたし、あまりの日本との違いに落ち込んでしまいます。映画の中にも“公共図書館は民主主義の柱だ”という言葉が出てきますが、まさに自分たちがもっている権利がどういうものなのかということを図書館が提示してくれています。」
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
日本の公立図書館の職員である佐藤氏は、「図書館は何を目指すかでやっていくことも違うと思います。また日本の場合は自治体が運営していて、ニューヨークとは制度や予算など全てが違うので、同じことをやろうとしても現状ではなかなか難しいのが実情ですが、ニューヨークでのこれらの取り組みはそれでも素晴らしいなと思います。例えば映画の中に、貧しく家にインターネットがない人々のために、図書館がネット環境を提供しようという試みが出てくるのですが、図書館が単なる本や資料を読む場だけでなく、より積極的に人と情報をつなげる場にもなりうるということが分かり、なるほど、と思いました。」
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
また経営企画会議で、予算をどの様に工面するかという一見生臭く思える場面も本作には登場することについて、大川氏は「彼らにとってはとても大切な仕事。全て具体的な市民へのサービスのために、必要な予算をどのように引っ張ってくるかという話だから、皆に知ってもらうべきだと思っているんだと思います。」猪谷氏は、「その(オープンな)空気が素晴らしいですよね。今の日本では難しいと思います。この映画を観ると、パブリック(公共)に対する考え方が日本とは全く違っていて、サービスを受ける市民も、ニューヨークでは成熟しているということがよく分かります。
例えば、日本では、新設される図書館について、どんな図書館が良いかと市民にヒヤリングをすると、犬の散歩がてら立ち寄ってお茶が飲める図書館が良い、などの意見が出ます。自分の要求はいくらでも出てくるけれども、地域にとって図書館がどんな場であると良いか、ということまでは考えられていないことが多いです。日本では運営側も、それを受ける市民も、意識変革が必要かと思います。」と、パブリック(公共)に対する両国の違いを指摘した。
最後に猪谷氏は「今からでも本作を多くの方に観ていただき、公共図書館の可能性や、そのあり方について考えていただきたいです。」と語った。
 

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山形国際ドキュメンタリー映画祭2025

 
2025年 10月9日[木]~10月16日[木]
 
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025
山形国際ドキュメンタリー映画祭2025

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