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TBSドキュメンタリー映画祭 2022開催決定会見

昨年の第1回に続き、今年も「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」の開催が決定し、1月21日(金)にオンライン会見で発表された。1955年の開局以来、取材力を活かして報道ドキュメンタリーを制作・放送し続けてきたTBSが、テレビでは伝えきれない真実を劇場映画という形で世に送り出す。2回目の今年は3月18日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷(東京)で7日間の上映に始まり、全国で順次開催を予定。ラインアップは社会派からエンターテインメントまで幅広いジャンルの全11作品。テレビとは全く違うスケールアップした劇場版で上映する。また、第2回開催にあたり、新ブランド「TBS DOCS」を立ち上げたことも発表されました。
TBSドキュメンタリー映画祭 会見
会見概要
日時:1月21日(金)
会場:TBS放送センター
登壇:
立山芽以子、武石浩明、酒井祐輔、山本一雄、中島哲平、武田 一顯(オンライン出演)、
須賀川 拓(オンライン出演)、佐井大紀、守田 哲、川西全、西村匡史(オンライン出演)、
大久保 竜(TBSテレビ報道局/報道コンテンツ戦略室長) 以上12名
オンライン会見のMCを務めたのは皆川玲奈TBSアナウンサー。まずは「TBS DOCS」に関する説明があった。
「TBS DOCSはTBSが展開しているドキュメンタリーブランド、TBSドキュメンタリーフィルムズの略称です。海外ではドキュメンタリー作品を“ドックス”と呼ぶそうです。TBS DOCSは、日本国内はもとより世界を震わせる作品を制作していきます。歴史的な事件の真相や今世界で起きている衝撃の出来事、そして市井の人々の日常の瞬間を切り取り、日々取材を続けている記者やディレクターの熱い思いを、多くの人により深く、より丁寧に発信していきます。一昨年、TBSで制作した『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のヒットを受け、ほかにも数々のドキュメンタリー作品を集めTBSドキュメンタリー映画祭を開催し、全22作品を発信しました。そして今年3月には、映画『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』を公開。映画祭では、その『ムクウェゲ』をはじめ新たに11作品を制作、発表します」。

ここで、映画祭の告知映像を紹介。続いて、「TBS DOCS」プロデューサーの大久保竜(TBS報道コンテンツ戦略室長)が、MCの皆川アナウンサーの質問に答える形で新ブランドの詳細を語った。

MC:「TBS DOCS」立ち上げのきっかけは?
大久保:三島由紀夫の映画が幸いヒットしたことが大きなきっかけです。私自身もドキュメンタリー好きで、この企画も最初のところで非常に関わりました。そんな中、社内でドキュメンタリーの可能性がもっとあるのではないかという声が上がり、日本でもドキュメンタリーを見る文化がもっと広がればいいなという願いを込め、ブランドを立ち上げました。

MC:2回目の映画祭だが、どのような点がバージョンアップされた?
大久保:前回の22作品は報道局が中心で制作しました。TBS社内で他のセクションの若手クリエイターたちから「自分にもドキュメンタリーの企画がある」といった声が多く上がり、今回はオールTBSの形で、事件性のあるものや政治、アーティスト密着ものなど、幅広いジャンルの作品が揃い、上映できることになりました。

会場には、長期にわたり真実を追い続けた監督たちが登壇。作品の概要が紹介された後、MCの質問に対し、作品に込めた思いや撮影秘話を各人が語った。

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全11作品の紹介

『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』 監督:立山 芽以子 ©TBSテレビ
「女性にとって世界最悪の場所」と呼ばれる、コンゴ民主共和国・東部地域。女性たちはこの地に埋まる鉱物資源の利権のため、武装勢力から性暴力を受け、恐怖に怯えている。そんな被害女性たちを無償で治療してきた婦人科医、デニ・ムクウェゲ。コンゴの女性たちの平和を願い、自身の命の危険を顧みず、女性たちの悲劇を世界に向け訴え続けている。私たちが生きる、同じ世界で起きていること。決して他人事ではない現実を追った。

立山芽以子監督への質疑応答
MC:取材のきっかけは?
立山:ムクウェゲ医師を初めて知ったのは2016年の来日時です。先生の活動を知るにつれて、もっと日本の皆さんに伝えなければいけない、特に日本とのつながりについて知ってもらいたいという気持ちから取材を始めました。実際に現地で女性たちの話を聞くと、一人一人違うストーリーがあって、一つ一つが大事な人生なんだと感じました。どうしても被害の話ばかりに興味や関心がいってしまうが、現地に行って感じたのは、女性たちと先生、そして女性同士がお互いに助け合って生きている、その関係性が非常に印象深かったので、今回の映画でもそこを描きたいと思いました。

MC:特に注目してもらいたいところは?
立山:この問題は日本から遠いところの話だとか、自分に関係ないということではなく、自分たちとつながっている問題だということ。自分たちが今生きている同じ世界でこういうことが起きているということをぜひ知って欲しいです。また、自分たちの快適な暮らしが何によって支えられているのかということについて、知って、考えて、行動することにこの映画がつながっていけばいいなと思っています。

『池袋母子死亡事故 「約束」から3年 (仮)』 監督:守田 哲 ©TBSテレビ
3年前、当時87歳の男が運転する乗用車が暴走し、最愛の妻と娘を亡くした松永拓也さん。事故の裁判は「禁錮5年」の実刑判決で終結したが、松永さんの葛藤は終わらない。遺品の整理をする手は、慟哭とともに止まった。収監直前に自らの過失を認めた加害者の飯塚幸三受刑者。心境の変化に至るまで何があったのか。社会に衝撃を与えた高齢ドライバー事故の遺族と加害者を、3年間にわたり取材した真実の記録。

守田哲監督への質疑応答
MC:松永さんや飯塚受刑者を取材して、どのように感情が動いた?
守田:事件や事故は時代を映す鏡とよく言われますが、まさに今の高齢化社会の高齢ドライバーの問題を象徴している事故だと捉え、取材してきました。松永さんと個人的に付き合えば付き合うほど、例えると海の中をずっとさまよっていて、なかなか浮上できないような感覚にとらわれることがありました。知れば知るほど撮影しても表に出せないことも増えてくる。松永さんはざっくばらんなところもありますが、ずっと一貫した方です。彼だけではなく、彼の家族や沖縄の義理の家族、友人、地域の人たちなど、その向こうには非常に豊かな世界が広がっていて、取材を通してその世界観に触れることができました。一方で、加害者の取材は難しい中、やはり取材を尽くして家族の様子や本人の様子を見るにつけ、これはもう善悪で割り切れない世界なのではないかと。二項対立で簡単に被害者と加害者の構図で憎しみ合っているという世界ではないと感じました。
MC:高齢ドライバー問題に関して、監督自身はどのように感じている?
守田:社会的な政策と関わってくるところであり、今まさに国がいろいろな政策を打ち出そうとしています。この事故に関しても刑事裁判は終わったが民事裁判はまだ続いていて、一言で言うと生煮えの状態です。例えば、ご家庭でも「お父さんに免許を返して欲しい。いや返したくない」といった葛藤はあると思います。その中でどう切り込んでいくかは非常に難しい。しかし、この作品で伝えたいことは、事故というのは被害者がいて被害者の家族がいるし、加害者がいて加害者の家族がいる。ですから、事故を起こしてはいけないのは被害者が出るからというだけではなく、被害者家族も出てしまうし、加害者家族も出てしまう。事故がなければ、そもそもその悲しみは生まれないんだということを伝えたいし、皆さんに自分事として考えていただきたいです。

『永遠の総理候補・石破茂 嫌われた正論 (仮)』 監督:中島 哲平 ©TBSテレビ
永遠の総理候補――石破茂。国民人気が高く、“次期総理・総裁”との期待の声も上がるが、総裁選にこれまで4度挑戦するものの連戦連敗。さらに退会者が相次ぎ、2021年12月、「石破派」解消。石破氏はなぜ党内のハグレ者となったのか? 今、何を考え、どう進むのか・・・? 本心を見せない石破氏の実像を知るため、同志、対立議員、石破派退会者、友人、妻などを直撃。石破氏に関わってきた人物たちの証言、石破氏への密着の中で見えてきたものとは・・・?

中島哲平監督への質疑応答
MC:石破さんはなかなか本心を語らないそうですが・・・?
中島:近しい記者には普段から弱音や本音を喋ってくれますが、プロなのでいざカメラが回るとまさに政治家として100点のコメントをすることが多いので、本音を聞き出すのは難しかったですね。ただ取材をする中で、今抱えている悩みや、言われている安倍晋三さんとの確執の部分だとか、今の本音をたまにこぼすシーンがあったので、そういうところが今回の映画で伝えられたと思っています。自分は担当して5年ぐらい経ちますが、石破さんは気さくな一面やイメージの違うところもあり、記者への対応もいい方なので、だんだん取材がしやすくなってきたなと感じています。

MC:特に見て欲しいところは?
中島:今回取材のきっかけになったのが、石破さんが総裁選で負け続けて、自民党内で冷や飯を食べさせられているというふうに言われていること。それは石破さんが正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると、時の権力者に対しても厳しく言うところが逆に煙たがられて党内での立場がなくなってしまうというところがありました。ただ、そういうことは会社や他の組織などでも起きていることなのかなと。皆さんに自分と近いものを感じたり、共感したりしていただけたらいいなと思っています。

『完黙 中村喜四郎~選挙無敗の男が負けた時 (仮)』 監督:武田 一顕、松原 由昌 ©TBSテレビ
昨年の衆院選、「無敗の男」と呼ばれた男が初めて敗れた。中村喜四郎・・・初出馬から40年以上、あっせん収賄罪で逮捕、起訴中の選挙でも当選。前科1犯、ムショ帰りの身でも勝ち続けた「選挙の鬼」である。その男がなぜ負けたのか・・・。そして、もう一つの敗北、総理候補を奈落の底に突き落とした“あの事件”と、その取り調べで“140日間完全黙秘”を貫き通した真意とは。数々の逆境を乗り越えてきた不屈の政治家・中村喜四郎の生き様に迫る。

松原由昌監督、武田一顕監督への質疑応答
MC:この作品はチームで作っているということですが・・・?
松原:私はもともと政治家に興味はありましたが、TBSに入ってから報道などに縁はなく、昨年の異動で初めてそういうところに関われることに。中村喜四郎さんを取材したい気持ちがずっとありましたので、武田先輩や社内のいろいろな人に助けてもらい、TBSの諸先輩が取材した貴重な映像も使わせていただきました。ですので「チームTBS」だなと思っています。

MC:武田さん、中村喜四郎議員の取材のきっかけは? どんな人?
武田:1994年3月に中村議員が東京地方検察庁に出頭してきたのは非常に珍しいことで、初めてだったと思います。その時に現場で私は彼を撮影していました。それが、知るきっかけでした。私は20年以上政治の取材をしましたが、中村喜四郎という人は不気味な存在です。記者も役人も彼には近づかない。国会の廊下ですれ違う時に道を開けてしまうような人。その人が「竹下派のプリンス」と言われながら事件で逮捕され、刑務所に収監されて地獄を見たということですね。いったい彼は何をやりたかったのか、どうして彼は当選し続けるのか、茨城の人はどうして支持をするのか、そうしたいろいろな疑問に関して、10時間以上カメラの前でインタビューに応じてくれました。

MC:改めてどんなところを見て欲しい?
武田:私が作ると、ともすればマニアックになるので、それを松原さんがわかりやすく解きほぐしてくれています。それから、今困難に立ち向かっている人たちに見ていただきたいですね。「プリンス」から「逮捕、収監」というものすごい困難を経た人間が、どういう考えでその困難を乗り越え、今はどういう気持ちで生きているのかをぜひ見てください。

『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~ (仮)』 監督:酒井 祐輔 ©TBSテレビ
女性アイドルの最前線を走り続けているももいろクローバーZ。そんな彼女たちも最年少が25歳、最年長は28歳を迎え、30代が目前に・・・。アイドルは何歳になってもアイドルであり続けられるのか? これまでもアイドルの常識を覆し続け、日本の芸能界で前人未到の境地を切り拓こうとしているももクロはどこに向かい、私たちに何をみせてくれようとしているのか? メンバーや関係者たちへのインタビューを通じて、その可能性と未来をみつめる。

酒井祐輔監督への質疑応答
MC:この作品を撮ろうと思ったきっかけは?
酒井:僕はバラエティのプロデューサーやディレクターをずっとやってきて、バラエティの視点からももクロを見てきました。10年ぐらい前に僕自身がファンになり、彼女たちもどんどん人気になり、一緒に仕事をする機会も出てきました。そういう中でずっと思っていたのが、このタレントさんたちは将来どうなっていくのだろうと。ももクロはどこへ向かうのか、ひょっとしたら今まで日本の芸能界にいなかった存在になっていくのではという思いがあり、それを自分自身で確かめてみたいなと思いました。

MC:彼女たちの本音は見えてきた?
酒井:彼女たちは本当にオンとオフが変わらないんです。テレビなどに映っているあのまま。なので今回改めて個別に時間を取ってもらい、きっちりインタビューさせてもらいました。その中で僕自身が「そんなこと考えていたの?」という話がいっぱい出てきました。ファンである僕自身がハッとする場面がいっぱいあったので、ファンの皆さんにはとても興味深い内容になると思います。一方で、ファンではない方たちにも、彼女たちがなぜたくさんの人の心をつかむのかということが透けて見えてくる内容になっていると思います。

『ライブで歓声が聞こえる日 コロナ禍に抗う音楽業界 (仮)』 監督:川西 全 ©TBSテレビ
5人組メタルバンド「HAGANE」。彼女たちの“晴れ舞台”初ワンマンライブは新型コロナの感染拡大で無観客に。それから今日まで観客はライブで声を出すことが禁じられている。水際措置で開催困難となった海外アーティストの来日公演。洋楽プロモーターは2年以上“本業”ができず、先も見通せないままだ。観客の“声出し”はいつ解禁されるのか。海外アーティストが日本でライブをする日はいつ来るのか。コロナ禍に生きる音楽関係者の苦悩を描く。

川西全監督への質疑応答
MC:HAGANEに密着しようと思った理由は?
川西:たくさんバンドがいる中で、私は報道の人間として、その人たちのバックグラウンドにどういうストーリーがあるのかを一番重視して取材をします。今回はコロナ禍の音楽業界がテーマ。HAGANEはバンドとして最初の目標であるワンマンライブを予定していたけれども、ライブ前日にコロナの影響で無観客配信になってしまった。まだレーベルに所属していない彼女たちは、その重い決断を背負わされました。その葛藤がすごく伝わってきたので、そこを聞いてみたいなというところから始まりました。もう一つは、私自身がステイホーム中にたまたまYouTubeでHAGANEを見かけたこと。コロナ禍を描く上でこのチョイスは必然だったなと思ってもらえる作品にしたいと考えています。

MC:作品の見どころは?
川西:ニュースなどでは飲食店が取り上げられがちですが、コロナ禍で大きなダメージを受けた一つが音楽業界、特にライブエンタテインメント業界だと思います。音楽業界の取材というと、芸能の方々だけでなく、その範囲は非常に広く、報道という我々のテリトリーでも社会部や経済部、私がいる政治部にまで広がります。イベント一つとっても、ミュージカルやクラシック音楽は文化庁が所管し、今回のようなロック、ポップスは経産省です。そんなふうに取材先も違ったりして、たぶん狭間に落ちているのではないかと。報道としては、そういう普段取り上げられないところに向き合うのが筋だろうという私の勝手な使命感のもとでやらせていただきました。いろいろな音楽業界の方が取材に応じてくださって、それは苦しい実態を伝えたいという思いからだと思います。そこのところをぜひご覧になっていただきたいです。

『戦争の狂気 戦場特派員が見た中東和平の現実 (仮)』 監督:須賀川 拓 ©TBSテレビ
それはまるでカミソリのように鋭く、その大きさからは想像できないほどズシリと重かった。イスラエルがガザに投下した爆弾の破片は、いとも簡単に体を切り裂く。「精密誘導弾だから、人道的に配慮している」とイスラエルは主張する。対するイスラム組織ハマスは4000発ものロケット弾を無差別に放った上で「イスラエルが境界封鎖を解けば軍事施設を狙う精密兵器を作る」と開き直った。現場を歩き、集めた証言から浮かび上がる戦争の残酷な現実に迫る。

須賀川拓監督への質疑応答
MC:須賀川監督はTBSの中東支局長ですが、ここ1年でどちらに行きました?
須賀川:レバノンや、今回映画の題材にしているイスラエル、パレスチナのガザ地区、つい最近は中東の範囲からは外れますがアフガニスタンなどに行きました。

MC:この作品を撮ろうと思ったきっかけは?
須賀川:中東の紛争や貧困、難民の話をする上で、まず根源となるのが中東和平問題、何十年と続くイスラエルとパレスチナの確執はやはり迫らなくてはいけないというのが大前提としてありました。現場を取材していて一番感じたのが、指導者や軍関係者との間で、争いとは全く関係ない一般市民が取り残されてしまっているということで、そういった声を届けなくてはいけないと。実は自分たちの指導者に対しても不満を感じている人はものすごくたくさんいるのですが、そういった人たちの声はニュースではなかなか届けづらい。ニュースはどうしても国際情勢の方に目が行ってしまうので。ですから、今回そこをしっかりやらなくてはいけないと思い、このテーマを選びました。

MC:街で暮らす人々の生活を取材して、いかがですか?
須賀川:特に今回の現場であるイスラエルとパレスチナのガザは、それぞれ自分の指導者に対する不満をかなり持っていても、それをなかなか言えない。当然、周りの同調圧力もありますし、政治指導者も特にガザに関しては特殊な側面もあるので、なかなか言えない現状があるんだなと。当然ガザの人たちはイスラエルに対して、ものすごく不満を持っていますし、イスラエルの人たちもガザに対して複雑な感情を持っていますが、双方のサイドの人たちが実は同じようなことを考えているんだとすごく感じました。

MC:どんなところを見て欲しい?
須賀川:停戦直後にガザで密着した、ある男性です。子ども4人と奥さんを空爆で失った男性ですが、彼の言葉には我々メディアに問いかけるものがすごくありました。彼らとしては、紛争のたびにたくさんメディアが来ていっぱい放送をする。でも、紛争が落ち着くとみんないなくなってしまうと。彼らにとってみれば、そこからの生活再建が地獄なんですね。失った人はもちろん帰ってこないという思いを持ちながら、生き続けなくてはいけない。去年のガザの5月の紛争が今ニュースになることはほとんどなく、アフガニスタンがその後、戦争終結して大きく取り上げられました。そのアフガニスタンも今ではだんだん忘れられつつあります。現地の人たちにとって「忘れられる」ということがいかに恐ろしいことかということを、男性は語ってくれています。我々メディアに対する厳しい問いかけも、この男性はしてくれていて、映画のラストにもつながるところです。そういったところをぜひ見ていただきたいです。

『難病と私~萌々花20歳 だから私は前を向く』 監督:山本 一雄 ©TBSテレビ
病気を知ってもらう一番の方法は、自分の言葉で伝えること。「混合型脈管奇形」という、原因も根本的な治療法も分からない難病と闘う萌々花さんは自らカメラを回してくれた。記録されていたのは・・・毎日服用する大量の薬、お腹の血管の塊を取り除いた手術の痕、痛みで眠れない様子・・・赤裸々な闘病生活。そして、彼女の本音。病気のこと、友達のこと、母のこと、彼女が自立を目指すこれからのこと・・・。20歳になった萌々花さんは“私らしく”前を向いて生きていく。

山本一雄監督への質疑応答
MC:久しぶりの萌々花さんとの再会はいかがでしたか?
山本:14年前はまだ幼稚園の年長さんだったので「大きくなったね」なんて話をしました。彼女は混合型脈管奇形という病気で、血管やリンパ管が異常に増えてしまいます。お腹にもその患部があり、転んで怪我をすると出血してしまう。だから6歳の時、こちらが「やりたいことは何?」と質問すると「何もない。もう諦めた」と言っていました。そんな彼女が去年20歳になり、すごく夢を持っていた。「いろんなことをやりたい」と。その変化に驚きつつ、そんな彼女のポジティブな様子を届けたいなと思って作りました。

MC:今回、萌々花さん自身がカメラを回してくれたそうですね?
山本:まず萌々花さんに自分の言葉で本音を語ってもらいたかったのと、コロナ禍でなかなか取材に行けないという事情もありました。結果として、撮ってもらった映像がとてもリアル。僕たち製作者には撮れないなと感じました。今の子は動画を撮るということに慣れているので、抵抗感なく普通にしゃべることができますね。

MC:この作品で伝えたいことは?
山本:2008年当時、彼女は我慢することばかりで、それが辛くてかわいそうだということを描いたんですね。でも、やはり年が経ってみると、泣き言ばかり言っていられない、前を向いて歩いているんです。そういうところを伝えたいですね。病気を抱える人たちや社会の中のマイノリティを見る僕たちの目は、最初は同情から入ってしまうことがあると思いますが、そうではなく彼女たちはしっかり前を見て歩いているというところにも目を向けてほしい。特に今回、彼女の友達が出てきます。中学校の同級生6人組で、萌々花さんの病気のことはあまり気にしていません。病気だからかわいそうではなく、友達だから心配する。彼女を彼女として見ています。そういう見方が社会の中でも困っている人たちを見る目として、うまく伝わればと思っています。

『日の丸 ~それは今なのかもしれない~ (仮)』 監督:佐井 大紀 ©TBSテレビ
TBSドキュメンタリー史上、最大の問題作と呼ばれた作品がある。1967年2月放送、街頭インタビューのみで構成された番組『日の丸』。「日の丸の赤は何を意味していると思いますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」放送当時に閣議で問題視され、長年タブーとされてきた本作が現代に甦る。2022年と1967年、2つの時代の『日の丸』インタビューの対比を中心に、「日本」の姿を浮かび上がらせていく。

佐井大紀監督はスケジュールの都合で欠席のため、皆川アナウンサーがメッセージを代読した。
「1967年と2022年、東京オリンピックと大阪万博の開催など、この2つの時代は似ていると感じた私は、自ら街に飛び出して日の丸インタビューを再現し、今の日本の温度をパッケージしたいと思いました。また67年版を作った寺山修司たちの制作背景も描き、彼らの熱量も本作には息づいています。見てくださった個人個人に、この温度、熱量を直接伝える作品となりました。皆さんも見終わった後、お一人お一人で違う心の動きがあると思います。きっと何かを持ち帰っていただけるはずです。ご期待ください」
『地下鉄サリン被害者家族の25年 ~さっちゃん最後のメッセージ~ (仮)』 
監督:西村 匡史、神保 圭作 ©TBSテレビ
「家族みんなで支えていたことが、さっちゃんにとって本当に幸せだったのだろうか。辛い辛いで生きていたのではないだろうか」。2021年3月、浅川幸子さんの一周忌で、兄の一雄さんは涙を拭った。地下鉄サリン事件で重い障害を負いながらも、懸命に生きてきた幸子さん。傍らには在宅で介護し、いつも寄り添い続けた一雄さん一家の存在があった。突然、襲いかかった苦難に、被害者家族はどう向き合ったのか。さっちゃんと家族の25年の記録。

西村匡史監督への質疑応答
MC:特にどこに注目して欲しい?
西村:幸子さんをはじめ被害者とその家族が、25年間どのような生活をしていたかということをまず見ていただきたい。もう一つは、この家族の力です。想像を絶する困難に襲われながらも、家族がどのように困難と向き合ってきたのか。恨みごとなども多いはずですが、そんなことは見せずに、ささやかな幸せを守りきった家族の力を伝えたいと思いました。私は当初ほかのメディアと同じように、この被害者の取材をする際、裁判など節目の時に伝えるために取材していたので、この家族の力を伝える機会がありませんでした。なので、いつかこの家族の力を中心にしたドキュメンタリーを作りたいと思っていました。

MC:幸子さんと兄の一雄さんはオウムに対してどのように思っている?
西村:幸子さんは被害者なので誰よりもオウムに対する恨みは強かったです。ただ、その恨む背景には自分が何よりも大好きな家族に負担をかけてしまった。自分が介護を受けるということに関して家族に後ろめたさのようなもの感じていたようで、それに対する怒りが強かったと思います。兄の一雄さんもオウムに対して恨みは強かったですが、その一方でオウムの後継団体に、事件を知らない若者が今もたくさん入信しているので、また同じように加害者になってしまうことを心配しています。

MC:幸子さんが闘病生活の最後まで取材を受けてくれた理由は、どういうところにあると?
西村:このような事件、このような被害者が生まれるということを忘れてほしくないという思いが一番だったと思います。兄の一雄さんは取材前に必ず幸子さんに許可を取ります。「今日はTBSの西村さんが来てくれているよ、さっちゃん。取材を断ることもできるけど、どうする?」と言うと、幸子さんは精一杯の声を振り絞って「いいよ、いいよ」と答えてくれました。言語障害があった方なので、普段は口数も少なく、実際に喋ることも大変だったと思うのですが、取材を受ける際は非常に饒舌にいろんなことを語ってくれました。やはりこの事件をどうしても忘れてほしくないという幸子さんの思いがあり、私は最初に取材を受けてくれる際の「いいよ、いいよ」の言葉を聞いて、自分の心を奮い立たせて、この現実をしっかり伝えなければと思って取材をしてきました。

『クライマー山野井泰史 ~垂直に魅せられた人生〜 (仮)』 監督:武石 浩明 ©TBSテレビ
「誰も成し遂げていないクライミングを成功させて、生きて還る」。世界の巨壁に単独で挑み続けてきたクライマー・山野井泰史。彼は2021年、登山界最高の栄誉、ピオレドール生涯功労賞を受賞した。しかし、山野井の挑戦は終わらない。伊豆半島にある未踏の岩壁に新たなルートを引こうとしていた。そして再びヒマラヤにも・・・。“垂直の世界”に魅せられた男の激しい生き様とは? 山野井の生涯のパートナーである妻・妙子への取材も通して問いかける。

武石浩明監督への質疑応答
MC:なぜこの映画を撮ろうと思った?
武石:26年前、山野井さんと僕は一緒にヒマラヤに行きました。ヒマラヤで挑んだ非常に厳しい課題の取材がきっかけでした。私は厳しい登山の世界に半端がないぐらいに興味があり、その中でも山野井さんは「天国に一番近い男」とも言われていて、究極のこの世界をもう一度描いてみたかったんです。もう一つは、なかなか取材を受けない山野井さんが、「自分のことを一番理解してくれているのが武石さんだ」と言ってくれたので、誰も知らない彼の世界をもう一度描いてみたいなという思いからです。

MC:奥様もご登場されるが、お二人を見ていて感銘を受けたことは?
武石:自然体といいますか、これだけすごいことをやって来たのに、それをひけらかすこともなければ、とても自然。しかもお金もかけずに自然の中に溶け込んだような生き方をしています。僕も何度もお邪魔しましたが「こんな生き方、素晴らしいよな」と。そういう魅力も伝えられたらと思います。

MC:見て欲しいポイントは?
武石:山野井さんがどれだけ厳しい登山をしていたかというのは、なかなか伝わりにくいと思います。実はフリーソロでヒマラヤの未踏の壁をロープもほとんど使わないで登りきるということもやっていましたが、非常に多くの方が亡くなっています。でも彼は生き残ってきました。しかもソロだけではなく、いろいろな人と山登りしてきたなかで、一緒に登った人の誰一人死んでいない。彼の野性味と言うか、究極の姿みたいなものがあって、そこは自分にしか伝えられないのではないかと、おこがましい言い方ですが思っています。そういうものを描いてみたい、私も命をかけて作りたいと思っています。

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記者との質疑応答

11人の監督の話が終わったところで、出席した記者の皆さんとの質疑応答が行われた。

<「TBS DOCS」に関して>
記者:テレビというメディアを持っているのに、なぜ映画を? テレビは放送法の絡みなどで表現が限られるからという点もあるのでしょうか? なぜ映画祭という形を取ったのでしょう?

大久保プロデューサー:ドキュメンタリー映画の制作は三島由紀夫の映画のヒットはベースにはありますが、劇場の大きなスクリーンで見る臨場感の魅力が一つあります。報道局やテレビの現場を見渡してみますと、日々のニュースとして放送されない部分や、放送後もさらに深く掘り下げて取材を尽くして届けたいという思いがあるというのは感じました。例えば、ニュースに限定すれば、一度放送されて終わりということではなくて、その後もっと追求して新たな事実とともに届けたい、そんな続編があるのではないかと。ストレートニュースを出すだけではなくて続編も出していきたいという気持ちを取材記者は強く持っているし、そういった素材のVTRもTBSにはあるので、それを利用した形でドキュメンタリー映画という手法を使って、より深く、より丁寧に伝えることができるのではないかと思いました。また、ドキュメンタリー映画祭にしたのは、ヒューマンから事件、政治、アーティストの密着ものなどさまざまなドキュメンタリー作品を一度に見られるのも一つの魅力と考えたためです。放送コード的なことでは、例えば『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』は、レイプをした犯人や被害者の方々の証言も入っています。これを今の地上波でどこまで放送できるのかなど、そこは常にせめぎ合って挑戦しているところですが、映画にすることによってその表現の幅が広がるのは間違いないので、そういう意味もあります。

<『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』に関して>
記者:コンゴでは性暴力が武器として武装勢力に使われているということですが、武器としての性暴力を日本人にわかりやすく説明するために工夫された点は?

立山監督:武器としての性暴力については、正直言って我々にはなかなか理解できない部分が多いと思います。日本で起きている性暴力や性犯罪とコンゴで起きていることは同列ではないので、どのように説明すれば日本人に理解、共感、想像できるのかなど苦心しました。もちろん言葉は尽くしましたが、やはり、わからないものはわからないし、説明できない。そういう日本人の理解を超えた現実があるということを、彼女たちの証言をもとに丁寧に描くことで、理解を得たいなと思って描きました。

<『クライマー山野井泰史 ~垂直に魅せられた人生〜 (仮)』に関して>
記者:山野井ご夫婦の関係性に関しては、どこに魅力を感じました?

武石監督:山野井さんのやりたいことを叶えてくれる存在が、妻の妙子さんです。生活について言えば、食べるものやお金の管理などは全て妙子さんがしています。山野井さんがやりたいこと全部をどうしたら叶えられるのかを妙子さんがいろいろと考えてやっているという感じです。お互いにリスペクトし合っている関係ですね。それが何かとても自然で、ある意味微笑ましく、面白いところもいっぱいあります。私だけが知ってるようなことも映像で表現したいと思っています。

<『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~ (仮)』に関して>
記者:ももクロが他のアイドルと違う点は? 撮影秘話もあれば教えてください。

酒井監督:ももクロは常に全力のパフォーマンスでのステージングと言いますか、ずっと全力を出し切るパフォーマンスをやってきている。自分の全てをぶつけているという熱みたいなものが一番の魅力だと思うし、それが全く色あせないことですね。結成から14年になりますが、デビュー当時から全く色あせないスタンスのままでいて、そういう魅力を彼女たちから強く感じます。撮影秘話としては、ライブの裏側に入らせてもらいました。彼女たちは、ものすごくたくさんのレパートリーを持っていますが、「次のライブはこの曲やります」となると、まるで体の底の方からダウンロードし直す作業をしているようなところがあり、その姿が僕には衝撃でした。

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TBSドキュメンタリー映画祭 2022概要

開催期間:3月18日(金)〜3月24日(木)7日間 ほか全国順次開催
開催場所:ヒューマントラストシネマ渋谷(東京)

公式サイト:
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/
公式Twitter:@TBSDOCS_eigasaiTBSドキュメンタリー映画祭 (2)

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