映画情報どっとこむ ralph この度、まもなく来週末10月4日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほかで公開する映画『エンテベ空港の7日間』の特別試写会にて、映画雑誌「映画秘宝」編集部スタッフの岡本敦史さん、月刊誌「軍事研究」副編集長の大久保義信さん、映画ライターの村山章さんのトークショーを開催いたしました。

70年代テロリズム、ドイツ赤軍のウルリケ・マインホフ、コンテンポラリーダンス・・・
意外?!ルカ・グァダニーノ版『サスペリア』との共通点!!
岡本敦史・大久保義信『エンテベ空港の7日間』

日付:9月23日(月・祝)
場所:キノフィルムズ試写室
登壇:岡本敦史(「映画秘宝」編集部スタッフ)、大久保義信「軍事研究」副編集長)、 村山章(映画ライター)

映画情報どっとこむ ralph ■映画を見て・・・

大久保さん:とてもよくまとまっている作品で、特徴は、いかにも悪人という悪人が出てこない。その時代に居合わせてしまっただけ、という描き方でしたね。ただし、パレスチナ解放戦線(PFLP)のハダトという人物は、ソ連のカーゲーベー(KGB)の下請けテロ屋みたいな存在でした。「パレスチナ解放云々~」を建前に、イラクの依頼でOPECを襲撃してサウジアラビアやイランの要人暗殺を謀ったりしてました。78年に謎の死を遂げているんですがね。

岡本さん:この作品は、70年代のテロリズムを描き、ドイツ赤軍やウルリケ・マインホフの名前などが出てきて、さらにコンテンポンラリーダンスも重要な場面で使われる。ルカ・グァダニーノ監督のリメイク版『サスペリア』に似ているなと思いました。あの作品で背景的に使われた要素を、真正面からド直球に扱ったのがこの映画。

村山さん:ダニエル・ブリュール演じるドイツの「革命細胞」のボーゼが「ドイツの政治の中枢部にいる人たちはナチスの頃から顔ぶれが変わってない」と言うシーンがありますが、日本も同じだったんだなと気づきました。『日本のいちばん長い日』という映画の中で、途中までクーデターに参加したけど、途中抜けて生き残った人物がいましたけど、あの人はその後、電通の役職について政界とがっつりやっていたんですよね。戦時中もっとも急進的だった人が国の富裕層として残っているという。ボーゼの考えていることは、その感覚と近かったのかな、と。実話ものの映画は、(映画の内容を)そのまま鵜呑みにしがちですけど、この映画は1つの解釈としては、いい映画だなと思います。

■ロザムンド・パイクについて

岡本さん:彼女は『ゴーン・ガール』以降、普通の役ができなくなったのではないか? でも、本人もそれを良しとしている気がする。この映画でもそうですが、目で語るみたいな迫力ある芝居ができるようになって、覚醒した感があります。

村山さん:最近公開された『プライベート・ウォー』も眼帯をつけたジャーナリストを演じていましたね。彼女は、映画に出始めたのは『007』とか『プライドと偏見』とか注目していなかったんですが、最近の彼女はとても魅力的だと思ったので、製作の人たちはちゃんと彼女の演技力を見てキャスティングしていたんだと思いました。

岡本さん:ぼくが最初に「この人すごい!」と思ったのは、ポール・ジアマッティと共演した『バーニーズ・バージョン ローマと共に』。あのヒロイン役がホントに輝いていて、素敵でした。

■ヒーローと過去作との違いについて

大久保さん:エールフランスの乗務員たちは立派で、感動しましたね。

村山さん:彼らの行動は諸説あったらしく、過去の作品では「キャプテンだけ残ります」と言って、他の乗務員は残りたくなかったけど、それしか選択肢がなかったから残ったという描き方をしているのもありました。でも一番、過去の作品と変わったのは、イスラエル軍司令官のネタニヤフの部分ですね。これまでの作品では人質の救出作戦成功後に亡くなったように描かれてヒーロー扱いをされていたんですが、実際は関係者に調査、考証をしてみると、突入前に彼は被弾して亡くなっていたらしく、本作ではそのように描いています。今のイスラエル首相は、彼の弟で、ヒーローの弟として政界に進出してきました。だからイスラエルは、この映画は嫌いだと思います(笑)。

岡本さん:発売中の『映画秘宝』11月号で、ジョゼ・パジーリャ監督にインタビューしたとき、いまのネタニヤフ首相は「強硬路線を推し進めて、仮想敵を作って国民を支配する、ろくでもない奴だ」みたいなことを言ってました(笑)。

映画情報どっとこむ ralph ■イスラエル、パレスチナについて

大久保さん:いま、パレスチナには壁がありますが、壁の下にトンネルを掘って、そこから生活品を密輸するパレスチナ人業者がいます。彼らは利益集団になってしまって、和平が進むと儲からなくなるから、和平の雰囲気が出てくるとイスラエルにロケット弾を撃ち込んだりしているんですよ。自分の事しか考えてない人が多過ぎです!

村山さん:監督にインタビューした際に、「世界の人々は、パレスチナ問題に飽きているでしょ。」と言っていたんです。このエンテベの事件から考えても43年経っていますが、結局何も変わってない。だからみんな興味がない、と。この映画って、イスラエル側、パレスチナ側どちらにとってもけしからん映画で、またテロリストを人間的に描いたことで、テロリストを擁護していると批判を浴びているんですよ。

岡本さん:テロリスト側の抱える矛盾もきっちり描いていますけどね。

村山さん:そうなんですよね。だからちゃんと見て欲しいです。監督は「この作品で少しでも、議論が起きればいい」と言っていました。

■『サンダーボルト作戦』関連の旧作との比較

岡本さん:いわゆるアクション映画的なノリを期待すると、のっけからダンスシーンで始まるので面食らう羽目になる。みんなの期待を、いい意味で「裏切る」映画ですよね。

村山さん:そうですね。だから見るべき映画だと思います。過去の作品と比較しても面白いと思っていて、過去作のなかでは『エンテベの勝利』は面白いです。テレビ用に事件から半年後に放送されたんですが、びっくりするほどキャストが豪華です。アンソニー・ホプキンス、カーク・ダグラス、エリザベイス・テーラー、リチャード・ドレイファスなど登場して、ハリウッドの腕利き脚本家が手がけると、こんなにも観やすい娯楽作品になるというわかりやすい例かな、と。

岡本さん:『特攻サンダーボルト作戦』のほうは、アーヴィン・カーシュナー監督の好みなのか、やたらと渋いオヤジ俳優が大挙出演していましたね。

大久保さん:俯瞰的にこの作戦を描いているのは、『特攻サンダーボルト作戦』ですかね。武器考証という観点では、『特攻〜』では、ウージー(サブマシンガン)を使用していましたが、本作ではカラシニコフを使用していて、資料を調べると、これが正しかったようなんです。

村山さん:あとこちらはフィクションなんですが、『ラストキング・オブ・スコットランド』は、アミン大統領が登場して、最後エンテベの救出作戦で終わるのでこの事件にご興味持たれた方は、ぜひご覧いただきたいです。

岡本さん:この作品とセットで観ると面白いかもしれませんね。

最後に・・・<テロに遭遇したら>

大久保さん:この映画からも、人質籠城事件に巻き込まれたらどうすればいいのか学べます。まず特殊部隊が突入してきた時に「立ったらダメ!」です。あと、手はこのように開いて、武器を何も持っていないことを特殊部隊に示してください。

映画情報どっとこむ ralph 『エンテベ空港の7日間』
原題『Entebbe』(UK) 『7 Days In Entebbe』(U.S.)

10/4(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

http://entebbe.jp/ 

『エンテベ空港の7日間』

1976年、イスラエル・テルアビブ発パリ行きのエールフランス機が乗っ取られ、ウガンダのエンテベ空港に着陸。ハイジャック犯は500万ドルと50人以上の親パレスチナ過激派の解放を要求する。多数の自国民を人質にとられたイスラエル首相は、交渉の道を探りつつも態度を保留。テロリストとの交渉に反対する国防大臣は、士官らと秘密裏に人質奪還計画を練っていく……。

実際に起きたハイジャック事件とイスラエル国防軍による“奇跡の救出劇”「エンテベ空港奇襲作戦」(=サンダーボルト作戦)。なぜ作戦はまれにみる成功を収めたのか。

ハイジャック犯を演じるのは、『荒野の誓い』『プライベート・ウォー』と公開作の相次ぐロザムンド・パイクと、『ラッシュ/プライドと友情』などの実力派俳優ダニエル・ブリュール。ベルリン映画祭金熊賞受賞の『エリート・スクワッド』や、リメイク版『ロボコップ』、Netflix『ナルコス』などで知られる社会派監督ジョゼ・パジーリャが映画化した。

元イスラエル国防軍のメンバーが技術的な軍事顧問として協力。また生き残った人質の何人かに連絡をとり取材、再検証し、可能なかぎり史実の再現を試みた本作。事件の生々しさと鼓動高鳴るサスペンス、複雑な人間模様を融合させた骨太エンターテインメントである。

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監督:ジョゼ・パジーリャ 「エリート・スクワッド」「ロボコップ」 
脚本:グレゴリー・バーク

出演:ロザムンド・パイク、ダニエル・ブリュール、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ドゥニ・メノーシェほか

2018/イギリス、アメリカ/スコープサイズ/107分/カラー、モノクロ/英語、ドイツ語、フランス語、ヘブライ語、アラビア語/5.1ch/

日本語字幕:川又勝利
配給:キノフィルムズ/木下グループ

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