映画情報どっとこむ ralph この度、『ぼくの好きな先生』で知られるドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督の最新作『人生、ただいま修行中』が11月1日(金)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開となります。

このたび、本作の公開を記念して、ニコラ・フィリベール監督が11年ぶりに来日し、2020年に看護教育100周年を迎える聖路加国際大学にて行われた特別授業に登壇。映画の主人公たちと同じく、今まさに看護を学ぶ学生や、現役の看護師の方々と共に、映画の感想や質問を交えながら、監督が入院や撮影を通して実際に感じたフランスの看護現場について、また、映画を通じて届けたい、今この時代に“誰かのために働くこと”を選んだ若者たちへの想いを語りました。

【ニコラ・フィリベール監督来日記念 聖路加国際大学特別授業概要】
日時:10月9日(水)
場所:聖路加国際病院 トイスラー記念ホール
登壇:ニコラ・フィリベール監督、奥裕美さん(聖路加国際大学看護学研究科准教授)
参加者:学生(院生含む)、教員、聖路加国際病院の看護師・医師

映画情報どっとこむ ralph 大きな拍手に迎えられ登壇した監督。

フィリベール監督:この病院に招待していただいて大変感謝しております!

と挨拶。まず、本作を作ろうと思ったきっかけからスタート。

フィリベール監督:2016年に肺の塞栓症で集中治療室に入院した後、私はこの看護の世界を作品にしたいと思いました。看護職というのは、本当に大変かつ必要不可欠な職業でありながら、軽視されているところがある。そういった人々にオマージュを捧げたいと思ったのです。ヨーロッパ、フランス、全世界でそうだと思うのですが、看護の仕事というのは医者より患者の身近にいる存在。患者の打ち明け話を聞いたりもします。例えば、末期の患者は『私の命は後どれくらいですか?』と医師には聞けないので看護師に聞ける、といった話もよくあるようにね。陰の存在ながら、とても責任の重い仕事。にも拘らず、賃金は高くないし、労働条件がとても厳しいし、人手不足だし、経済的な効率が重視されて、一人一人のケアを「もっと早く、スピーディに!
『人生、ただいま修行中』ニコラ・フィリベール監督_聖路加国際大学特別授業
と求められる。そんな中で果敢にお仕事をしている看護に携わる方々に大いなる尊敬と賛賞の念を抱いています。」と、本作への想いを明かしました。

ただし、本作は看護のスペシャリストに向けて作ったわけではないといいます。

フィリベール監督:あらゆる人が、今健康であっても、病気になったり怪我をしたり、人生を終えるときも、いつか病院にお世話になる可能性がある。人生の儚さといったものを、この作品を通して垣間見てくれたら。

と、そのユニバーサルなテーマを語りました。

映画情報どっとこむ ralph 続いて、会場の皆さんからの質問が。

現役看護師の方からは、「看護師になっていく学生の大変さは全世界共通であり、それに向かっていく希望に満ちた表情というのもまた同じだなと思いました」という感想に続き、「本作はご自身が入院された経験から本作を作ろうと決めたとのことですが、なぜ現場のナースではなく学生にフォーカスを当てたのでしょうか?」との質問が。

フィリベール監督:その通りですよね。病院で撮影することもできたかもしれません。なぜ学生にしたかというと、看護の職業の大変さ、複雑さ、身に着けるべき知識の膨大さは驚くべきものです。患者としてプロの看護師のスムーズな動きを見ていては分からない、苦労の道のりを、学生のプロセスを追うことによって観客の方々に分かっていただけるだろうと思ったのです。

とし、映画的な視点でも回答が。

フィリベール監督:学びの場には必ず、不安、ためらいがあり、撮られる方々が感情的になる瞬間など、感動的な瞬間があります。また、学生たちは、学ぶことに前向きで、希望を持って取り組んでいらっしゃる。そういった学びの希望ほど美しいもの撮影できることは他にないと思うのです。

と語りました。

『人生、ただいま修行中』ニコラ・フィリベール監督_聖路加国際大学特別授業

また、ある看護学生の「とても共感する部分が多かったです。看護学生や看護師との関わりで、印象的だったことはありますか?」との問いには、

フィリベール監督:入院中は、痛みを伴う病気だったので、呼吸をするごとに胸に短刀を突き刺されているような酷い痛みで、恐怖に襲われていて、周りを気にすることができませんでした!最後の方で少し看護師さんたちと会話することはできましたが。この作品を撮ろうと決めたのは、きちんと元気になって回復してからのことです。

と、過酷な入院体験を明かし、さらに撮影中の学生たちとの関わりについて、

フィリベール監督:この作品は、私自身がとても楽しんで撮りました。作品を撮りながら私自身が次第に理解したのは、看護の職業というのは、大変に人間的な豊かさを持ち合わせている職業だということです。若い人たちがなぜ、こんなにも大変な看護師を目指すのか不思議に思っていたのですが…。理由の一つには、もちろん必ず職があるということがあります。フランスは若者の失業率が高いですし。もう一つ、こちらの理由の方が大事なのですが、看護の職業というのは、人間と直のコンタクトがある。現代社会で個人主義が進む中で、これはとても大きなモチベーションになっていると感じました。

と自身の気付きを明かしました。

映画情報どっとこむ ralph また、大学病院で看護教育学を学ぶ学生からは、第3章で映されている、病院での実地研修を終えた学生と指導員との面談シーンについて質問が出ました。

フィリベール監督:学校の教師陣は、非常にあたたかく協力的に迎え入れてくれました。フランスでは、看護教師をしているのは元々看護師だった人たちです。だから、看護学生が話すことやそれに対するアドバイスは、彼ら自身が通ってきた道でもあるんです。

と、舞台になったパリ郊外のクロワ・サン・シモンについて説明。また、

フィリベール監督:私自身が面接シーンを撮影していて感じたのは、担当指導官の間に、定期的に面接が持たれるのです。1回あたり、40-50分かけて聞くんです。これがとても大切だなと感じました。一人一人が具体的な経験を打ち明ける。先輩職員たちにハラスメントをされた、とか、患者の死を連続して目の当たりにした、とか、言葉の壁に戸惑った、とか。現場で働いている看護師の先輩たちは働いているので手一杯で、学生のケアをしている余裕なんてないですから。

と病院での実地研修のリアルについて触れると、

フィリベール監督:一人40〜50分というのはとても長いですね!日本ではそんなにしっかりと面談時間を割くことは中々ないと思います。

と驚く奥先生。

フィリベール監督:フランスでも全ての看護学校でそのように行っている訳ではありません。年に1回だったり、グループ面談だったり。この学校は、研修から戻ってくるごとに指導官と面接ができるという、看護学生にとっては良い環境ですね。

と、フランスの看護教育現場の状況を語りました。

また、質問者の「“他者のためになりたい”という表現をされていますね」という投げかけに対し、

フィリベール監督:本作は、現代の若者、それも人生の中で誰かの役に立ちたいというという若者たちを描いていると思っています。実は、フランスのフィクションで描かれる典型的な若者像というのは、無気力で、無関心で、ちょっと怠惰で、個人主義で…。といったネガティブな印象で描かれることが多い。ですが、私が出会った若者たちはそうではありません。

と説明。

フィリベール監督:また、この作品に映っている若者たちは、フランスの縮図という風に言えるかと思います。色んな出自の方がいて、肌の色や宗教も違います。ですが、残念なことに今、人種差別やナショナリズム、個人主義といった思想が台頭してきていますよね。人類にとって危険なものですし、私たちを脅かすものだと思います。そういった中で、私は、本作を通して、多様な出自の若者たちが 『みんなのために役に立とう』という心構えで、みんなのことを守るためにスタンバイしている。そういう姿を描けたことをとても幸せに思っています。また、フィクション映画で描かれる“無気力な若者像”を少し変えることができたのではないかなと思っています。それが、ドキュメンタリー作家としての、私の政治的なアクトだと言えるでしょう。

さらに、「看護師は日常のヒーロー・ヒロインじゃないかなと思います。毎日立ち向かっていらっしゃるし、自分の中の恐怖感、嫌悪感を克服しなくてはならない。何気ない普通の職業ではないか、と思われがちですが、私なりの言葉で言えば、“普通の人でも、蓋を開けてみると特別な人”です。

と、改めて尊敬の念を伝えました。

奥先生:自分が通ってきた道なので、色んなことを「知ってる、知ってる!」と思いながら観て、逆に看護師でない方はどういう気持ちになるのだろう?という風に思っていました。ですが、本日監督のお話を聞いて、本作には、人が成長すること、助け合うこと、多様性を大切にすることなど、日本やフランスでも変わらない大切なことが描かれているのだと分かりました。ぜひもう一度、劇場で観たいと思います。

という感想を聞き

フィリベール監督:そうなんです!観客誰しもに向けて捧げた作品です。人類全てにとって普遍的なこと、人間関係の中でも、“ケア”ということが描かれています。誰かが誰かをケアするというのは、映画監督、教師、親が子をケアする、など、ユニバーサルで幅の広いものなんです。

と、本作から浮かび上がる普遍的なテーマについて語りました。

映画情報どっとこむ ralph 最後に、

フィリベール監督:きっと何かしら、皆さんが自分自身に語りかけられているように感じるシーンがあるかと思います。よろしければぜひ、周りの方にもこの映画のことを伝えてくださいね。

という言葉が贈られ、大きな拍手でイベントは締めくくられました。

『人生、ただいま修行中』
英題:Each and Every Moment

11月1日(金)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開。

『人生、ただいま修行中』チラシビジュアル

【ニコラ・フィリベール監督プロフィール】
1951年ナンシー生まれ。1978年「指導者の声」でデビュー。その後、自然や人物を題材にした作品を次々に発表。1990年『パリ・ルーヴル美術館の秘密』、1992年『音のない世界で』国際的な名声を獲得。2002年『ぼくの好きな先生』はフランス国内で異例の200万人動員の大ヒットを記録し世界的な地位を確立する。2008年には日本でも大々的にレトロスペクティヴが開催された。本作は2007年『かつて、ノルマンディーで』以来11年ぶりの日本公開作となる。現在68歳。

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監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール

2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
公式サイト: longride.jp/tadaima/

配給:ロングライド
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018

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