映画情報どっとこむ ralph 日本を代表する名優・山﨑努さんが「僕のアイドル」(「柔らかな犀の角」山﨑努著・文春文庫より)と敬愛する画家・熊谷守一(通称モリ)を演じた映画『モリのいる場所』が2018年に公開されることが決定しました。

企画の始まりは2011年。

山﨑さんが『キツツキと雨』の撮影現場で、監督の沖田修一に

山﨑さん:こんな面白い、興味深い画家がいるよ。

と熊谷守一を紹介したことがきっかけ。日本映画黄金時代を体現する名優からのヒントに、現在の日本映画をリードする俊英監督が刺激を受け、それから6年。沖田監督が山﨑努=熊谷守一を念頭に、ユーモラスで温かなオリジナルストーリーを作り上げました。

写真は、長年丹精込めて作った庭で蟻の行列を観察するモリ(山﨑努)。
その汚れない瞳はどこまでもピュアで愛らしい。

映画情報どっとこむ ralph 山﨑努さんからのコメント

「熊谷守一について」
 古い簡素な木造家屋を背景に、仙人のような白い立派なひげを生やした老人が、両手の杖にすがってかろうじて立っている写真。しかめっ面。和服、下駄履き。
 藤森武写真集『獨樂 熊谷守一の世界』のなかの一点で、老人はもちろん熊谷守一画伯。当時94歳。キャプションに「45年、この家から動きません。この正門から外へも、ここ30年、出たことがないんです。でも8年ぐらい前、一度だけ垣根づたいに勝手口まで散歩したんです。あとにも先にもそれ一度きりです」とある。これにはびっくり、思わず笑ってしまった。僕も出不精のほうなので共感の笑いだったかもしれない。それにしても30年とは尋常ではない。
 「蟻は左の二番目の足から歩き出す」のだそうだ。モリカズさんの画文集『虫時雨』で読んだ。「この間カニをもらったので歩き方をずっと調べてみましたが」「どの足から歩き出すのか、いくら見てもわからず閉口しました。カニの絵がいまだに描けないのはこのためなんです」と続く。
 カニも蟻も草も木も石も空も、彼はじっと見る。いつまでも見る。そんなモリカズさんの様には圧倒されてしまうのだが、同時にその語り口には何ともいえない愛嬌があって、そのせいか、熊谷さんというよりもモリカズさんと呼びかけたくなってしまう。つい、そうなってしまう。つまり僕は彼の人柄に惚れている。

「熊谷守一を演じて」
 去年(2016年)の秋、突然沖田監督から、モリカズ役をやってみないか、との依頼があった。¯¯配役はいつも突然であって、その突然が俳優業の楽しみでもある。僕はこれまで、この役をやりたい、と手を上げたことは一度もない。役を振るのは監督やプロデューサーの役目で俳優のすることではない。僕は、天命のようにある日突然、役を与えられるのを待つ。そしてその決められた役の枠の中でどう生きるのかを工夫する。それが自分の仕事だと思っている。
 正直、今回の役作りは非常に大変だった。自伝、画文集等からキャラクターは理解している。写真も豊富にあって容貌も充分確認した。だがその姿がいきいきと動きを出してくれないのだ。とくに顔の表情。惚れている人、敬愛する大切な人を演じることがいかに難しいか、関西弁で呟けば「難儀やなあ、あかん」。
 苦肉の策として、モリカズさんに仮面を被せることにした。内面と外界を隔てる仮面。いつでもどこでもその面をつければモリカズとして通る符丁のようなお面。
 さて、どんな面にするか。
 写真集『獨樂』を何度も繰って表情をチェック。惚けたような、放心したような顔がある。同席の人たちやその状況とは全く関わらない、まさに仮面。しかしこの面相は残念ながら僕にはまだ無理だ。かすかに眉間にシワをよせた渋面も多い。穏やかな微笑もある。藤森さんは微笑の面を表紙に掲げている。チャーミングな肖像。
 僕は渋面を僕のモリカズの仮面に選んだ。夫人の秀子さんの「大事に思うことがあまりに人と違っているので、一応のおつき合いで、それ以上のふれ合いには(家族も含めて)なりにくいと思います」(『蒼蠅』)というモリカズ像を強調したかったから。
 通常の演技は、表情の豊かさを目指すが、この映画では逆に表情の変化を殺すことにしたわけだ。なかなか厄介な、そして不安な試みだった。かくなる上は声のニュアンスも殺してしまえと、フラットなかすれた老人声にした。これは多少ヤケ気味。撮影の現場には何が起きるか予測不能の面白さがある。設計した仮面がどこかで外れてしまうことも秘かに期待していた。今、これを書いている時点で、僕はまだ撮られた映像を見ていない。依然不安は残っている。
 
「沖田修一監督について」
 沖田修一さんは「場所」にこだわる監督のようだ。『南極料理人』の南極、『キツツキと雨』の木曽山奥の寒村、今度の『モリのいる場所』では関東の庭。東北でも、九州、沖縄でもない東京近郊の庭。風土が人と物語を作る、それがテーマなのだろう。沖田さんの造った庭は美しかった。
 風土でふと思い出したのが、若い頃演じた黒澤明監督『天国と地獄』、犯人役の「夏は暑くて眠れない。冬は寒くて眠れない」というせりふ。あれはハワイでもアラスカでも成立しない。

2017.9.13.記

映画情報どっとこむ ralph 熊谷守一(1880-1977年)

明治に生まれ、大正・昭和の画壇で活躍した洋画家。美術学校を首席で卒業し、若い頃から絵の才能を認められながらも、いい絵を描いて褒められようとも有名になろうとも思わず、たまに描いた絵も売れず、長いこと借家を転々として友人の援助で生きながらえる。ぽつぽつ絵が売れてようやく家族を養えるようになったのは50歳を過ぎた頃。この頃の有名なエピソードとして、作品を二科展で見た昭和天皇が「これは子どもの絵か」と尋ねたという。やがて、その風貌や言動から「画壇の仙人」としてひろく脚光をあびる。文化勲章と勲三等叙勲を辞退。その理由を「これ以上、人が訪ねて来るのと困るから」と言っていたが、本当は褒状をもらうのが嫌だったため。

そうして、家の外へ出ることなく、ひたすら自宅の庭で動植物を観察し続けました。

熊谷守一は2017年に没後40年を迎え、12月1日からは東京国立近代美術館にて200点以上の作品を集めた大回顧展が開催されます。

<展覧会>
東京国立近代美術館「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」12月1日より開催。

http://kumagai2017.exhn.jp/

映画情報どっとこむ ralph 映画は、そんな熊谷守一のエピソードを元に、晩年(94歳)のある1日をフィクションとして描きます。

撮影は、去る7月、連日30度を超える猛暑の中、神奈川県逗子市・昭和の暮らしが色濃く残る古民家にモリの庭と家を作り、行われました。物語の舞台は昭和49年、モリ94歳の夏の日。居間や庭に佇む山﨑努はモリその人となり、蝶や蟻、猫など”共演者”とともに地面に這いつくばったり庭を彷徨うなど果敢に挑みました。

物語・・・
自宅の庭には草木が生い茂り、たくさんの虫や猫など、守一の描く絵のモデルとなる生き物たちが住み着いている。守一は30年以上、じっとその庭の生命たちを眺めるのを日課にしていた。普段、守一は妻の秀子と二人の生活をしているが、毎日のように来客が訪れる。守一を撮ることに情熱を燃やす若い写真家の藤田くん、看板を書いてもらいたい温泉旅館の主人、隣人の佐伯さん夫婦、郵便屋さんや画商や近所の人々、そして、得体の知れない男・・・
今日もまた、モリとモリを愛する人々の、可笑しくて温かな1日が始まる。

モリのいる場所

2018年全国公開決定
mori-movie.com

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配給:日活
(c)2017「モリのいる場所」製作委員会
     
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