カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール大賞のほか、数多くの賞を獲得している世界的な巨匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督。
異例の7作品連続カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品となった彼らの最新作『午後8時の訪問者』がヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて大ヒット上映中です。 本作は、謎の死を遂げた“名もなき少女”に何が起こったのかを探るサスペンス。「もしかして何かが変わったのではないか」と思わせる人生の転機はどこにでもある。その転機を探るうちに危険に巻き込まれ意外な真相にたどり着く…。これまでにない極上のヒューマン・サスペンスが誕生しました。 そんな大ヒットを記念して映画解説者の中井圭さんと映画評論家の松崎健夫さんのお二人によるトークイベントが行われました 『午後8時の訪問者』を徹底解説! |
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ダルデンヌ兄弟の作品の秘密その1 撮影のタイミングが合っていて、ずれている?!
松崎さん:よくダルデンヌ兄弟は、手持ちカメラや、ワンシーンワンカットが多いことからドキュメンタリーのようだと言われますが、元々はドキュメンタリー映画を作っていたことにも起因すると思います。でも、ドキュメンタリーはどう動くかわからない対象物をカメラが追うからタイミングが合わないはずなんです。でも突然動く人物や起こる出来事をカメラが追いかけているのに、実はびっくりするほどキレイに、“居てほしい位置”に人物が映っている。それで、かなり計算してるんじゃないか?とずっと思っていてお会いした時に質問してみたら、やはり、俳優を入れてのリハーサルも、カメラだけのリハーサルもかなり重ねているとおっしゃっていましたね。 と長年の疑問を直接監督にきいてスッキリされたという松崎さん! 中井さん:でも、僕はダルデンヌ兄弟のカメラ位置はやっぱり悪いと思うんです!」と、中井さんが真逆なことを指摘?!「『ジュラシック・パーク』などでは“画面で次にどんなことが起こるか=視線誘導”をカメラが先回りしていくんですが、それが全くない。次に何が起こるか予測できないんです。だから、つぎに何が起こるか全く掴めない観客は、その場で一緒に目の前の出来事を目撃しているような感覚になります。ダルデンヌ兄弟はそれを「良い、“悪いカメラポジション”を探している。 と述べました。 ダルデンヌ兄弟の作品の秘密その2 ダルデンヌじゃなければ全く違う作品になっていた!? 中井さん:『午後8時の訪問者』で感じられるのは人の断絶、隣人に対する無関心。こういう題材の作品はほかにもあるし、ほかの監督が撮ったら、医療問題やすぐ隣に住んでる人が分からない怖さとかにフォーカスした全く違う映画になったんじゃないでしょうか。でも、世界を見渡してみるとイギリスやアメリカが移民・難民をシャットアウトしようとしていて、「これからの世界はどうなるの?」という思いを我々は抱えています。そこで、ダルデンヌ兄弟は『午後8時の訪問者』で主人公が開けなかった扉を国境に例えて、他者に対する不寛容=移民に対する不寛容を描いたんですよね。ほかの監督ならこうはならなかった。 松崎さん:元々ベルギーという国は、ベネルクス三国という小さな国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の間で国境線が色々変わったり、多様な人種がやってくるのを受け入れて同調する国民性だったそうです。けれど最近はベルギーだけでなくヨーロッパ全体に言えることですが、移民に対して不寛容になってきている。それを監督たちは感じているから、いま映画にしなければいけなかった。それで、被害者は、金髪の白人ではなく、アフリカ系の黒人の移民だったんですね。 と、ベルギー、ひいてはヨーロッパが現在抱えている問題もあぶり出されていると話しました。 |
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ダルデンヌ兄弟の作品の秘密その3 世界の巨匠たちに共通するテーマ。
中井さん:ケン・ローチとダルデンヌ兄弟が描き出すテーマは少し似ていますよね。ケン・ローチも引退宣言を撤回してまで、いまの“世界の不寛容や無関心”への警鐘を映画にしなければならないと思って『わたしは、ダニエル・ブレイク』を撮ったわけです。 松崎さん:ケン・ローチはイギリス人だからか、ユーモアを入れて、人のたくましさを描きますね。ダルデンヌはユーモアよりも温かさを感じる。とても厳しい現実を描くけど、最後には必ずほんの少しだけれど希望を見出す。ケン・ローチの作品は温かく終わることもあれば、すっごいバッド・エンドもあるんだけど(笑)。今回の主人公は自分のペースで利己的に生きていたのが、ラストシーンでおばあさんと一緒に歩いていますよね。他人と一緒のペースで歩こうとする、彼女の生き方が変わったということです。ダルデンヌ兄弟は人に寄り添うやさしさを見せてくれます。 とふたりでダルデンヌ兄弟とケン・ローチの共通点と相違点を分析。 最後に・・・ 中井さん:映画は、たとえエンターテインメントであっても、世界を映し出してくれる。だから、いま自分たちがどんな世界に生きているかを肌で感じる素晴らしいものだと思っています。『午後8時の訪問者』はまさに世界を知る入り口になる作品。こういう作品を観る方がもっと増えたら嬉しいですし、ぜひオススメしてほしいですね。 イベントを締めました。
これまでにない極上のヒューマン・サスペンスが誕生しました。 映画『午後8時の訪問者』 絶賛公開中! |
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
撮影:アラン・マルコアン
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
出演:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・ レニエ、ルカ・ミネラ、オリヴィエ・グルメ、ファブリツィオ・ロンジォ―ネ
© LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – RTBF (Télévision belge)
2016 年/ベルギー=フランス/106 分/カラー/提供:ビターズ・エンド、KADOKAWA、WOWOW
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