映画情報どっとこむ ralph 「自分の人生と切り離せないほどのインパクトを受けた映画」(阿部和重)
「リマスター版を観て、作品と新たに出会った感覚になった」(佐々木敦)

名匠エドワード・ヤン監督が1991年に発表した、伝説の傑作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が4Kレストア・デジタルリマスター、3時間56分版として、3月11日(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館(3/18~)他全国順次公開となります。

エドワード・ヤン監督の生誕70年、没後10年となる節目の今年、25年ぶりに公開される本作の公開を記念し、3月4日(土)に作家の阿部和重さん、批評家の佐々木敦さんを迎え、お二人に、本作との出会い、そしてエドワード・ヤン監督について…魅力を余すことなく語って頂いた濃厚なイベントになりました!

第59回 セブンシネマ倶楽部 私と映画 イベント
日付:3月4日
会場:池袋コミュニティ・カレッジ コミカレホール
登壇:阿部和重(作家)×佐々木敦(批評家)
司会:近衛はなさん(女優・脚本家)

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『牯嶺街少年殺人事件』の最初の出会いを聞かれ、

阿部さん:東京国際映画祭で観たように思います。記憶を改ざんしているかもしれないですが。初公開の時には必ず観ました。蓮實重彦さんがすごく煽っていたのを憶えています。「これはマジでやばいのがくるぞ!」と言っておられて、僕は信者なので(笑)

佐々木さん:僕も記憶が曖昧なのですが『恐怖分子』と『海灘的一天(海辺の一日)』という作品があってすごい監督がいるとは認識していました。『牯嶺街少年殺人事件』は、最初は東京国際映画祭か内覧試写会みたいなものに呼んでもらって観た気がします。長らく再上映ができず、DVD発売もなかったので「確かに観た!でも観直せない。でも観たんだ!」と記憶が曖昧に(笑)
四半世紀も経って先日試写会で再見して、「あぁこんな映画だったのか」と思いました。
懐かしいという気持ちと、こんな映画だったのかと、新たに出会った気持ちにもなりました。

お二人にとって、どのような映画だったか尋ねられると

阿部さん:所有欲をそそる映画ですね。持っておきたい!という映画。何度も観て段階的に受け取り方が変わっています。個人的には自分の人生と切り離せないほどのインパクトを受けた映画です。まだ小説家にもなってなかったし、いちファンとして映画を観たんですが、一応映画学校を卒業して、小説を書こうとしていた時期なので分析的に映画を観ている部分もあったんですが、『牯嶺街少年殺人事件』は感情的に入り込んでしまった。自分が田舎で過ごした少年期と重なって、距離が取れなくなりました。その後の創作活動はもちろん世界で一番影響を受けているのではないかと思っています(笑)これをやりたいとずっと20年間やっている感じ。どれぐらい影響を受けたかとうのは著書「シンセミア」を読んでもらえればわかると思います。群像劇という設定もそうですが、『牯嶺街少年殺人事件』と近い場面なんかも出てきます。

佐々木さん:『牯嶺街少年殺人事件』は1961年に起きた実際の事件を基にしていて、事件から30年後に映画化された。監督が61年にリアルタイムで受けた衝撃と、その後の監督が過ごした30年間も入っている。監督の個人的な記憶が触媒になって、個人という枠、台北という土地を超えて、様々な国の人が自分の少年期を思い出すような作品になっていると思います。

映画情報どっとこむ ralph 今回公開される4Kレストア・デジタルリマスター版の感想を聞かれ

佐々木さん:上映は4K版を2Kで上映する(4Kレストア・デジタルリマスター原版から変換した2K上映)とのことですが、(アメリカで発売された)クライテリオン社のブルーレイを観直して、先日試写のスクリーンで観て「こんなに見えたっけ?」と思いました。この映画は本当に闇の要素が多いので、全体的に暗い。見えてないところに視線を注いで見ていく記憶があったのですが、
だいぶと明度が上がっていて、いろいろとわかるようになりました。人物関係も複雑で把握するのが大変でしたが、それも分かりやすくなったと思います。やはり、リマスター版を観て作品と新たに出会った感覚になりましたね。

阿部さん:緑がかっていてハイコントラストな印象があるVHS版の画面が一番強く記憶に残ってましたが、今回の版を試写で観ると光が自然な淡さになっていました。顔の見分けがつきやすくなり、確かに物語はわかりやすくなりました。スクリーンで観直して改めて、すべての因果関係がパーフェクトに描かれている映画だと気がつきました。僕が単純に昔はぼんやりしていただけかもしれないのですが(笑)

ヒロインのシャオミン役のリサ・ヤンさんは、どのような印象ですか?

佐々木さん:彼女の存在はすごく大きい。ものすごい美少女ではないんですが、映画を観ていると彼女に夢中になるのがわかる。これはモテるだろうなと。彼女はこの1本にしか映画出演していないんです。

阿部さん:僕は映画を観る前に、チラシだったか雑誌か何かで、スチールで少年少女の写真を見て、
これは傑作に違いないとその時点で思ってしまった。いわゆる普通のヒロインとは違う。
彼女はあの映画の”謎”であるんですよね。彼女でないと成り立たない。

映画情報どっとこむ ralph これから観る観客へむけてのメッセージ

阿部:普通にドラマだけを追ってみても面白いし、よくよく観るとひとつひとつの意味というのが大きなものが込められているようにも捉えられる。そして、60年代の台北を描きながらも、”現在の映画”だと受け止めることができる。色々なシーンで新たな発見ができる映画だと思うので、是非、細かいところまで観てほしいですね。

佐々木さん:10年ほど前に、台湾に行ったときに偶然、『牯嶺街少年殺人事件』で使われていた
ロケ地のレストランに連れて行ってもらったことがあるんです。色々と作品についても説明してくれて、エドワード・ヤン監督が特別な存在として台湾で語られているんだと実感した記憶があります。今回この作品が公開になって、多くの若い人たちは今回初めて観ると思います。
こういう監督がいたんだということを再発見してほしいなと思います。

と、イベントを締めました。

3月11日(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館(3/18~)ほか全国順次ロードショー!

物語・・・
1960年代の台湾・台北。夜間中学に通う小四(シャオスー)は不良グループ〝小公園“に属する
王茂(ワンマオ)らといつもつるんでいた。小四はある日、小明(シャオミン)という少女と知り合う。彼女は小公園のボス、ハニーの女で、ハニーは対立するグループ〝217”のボスと、小明を奪い合い、相手を殺し、姿を消していた。

小明への淡い恋心を抱く小四だったが、ハニーが突然戻ってきたことからグループの対立は激しさを増し、小四たちを巻き込んでいく。

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監督:エドワード・ヤン 
出演:チャン・チェン、リサ・ヤン、チャン・クオチュー
1991 年/台湾/236分
配給:ビターズ・エンド
(C)1991 Kailidoscope 
(C)1991 Kailidoscope

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