この度、第89回アカデミー賞で『ムーンライト』3部門:作品賞/脚色賞/助演男優賞の受賞をした『ムーンライト』の最速試写会が、アカデミー賞授賞式の前夜行われました。
ゲストには、ZIP!(NTV)の映画コーナーでもお馴染みの映画評論家・松崎健夫さん、映画解説者の中井圭さん。 タイム誌、NYタイムズ誌など全米メディアから「2016年ベスト1ムービー」に選出され、世界中から熱狂的な讃辞が贈られている本作について、「なぜここまで評価されているのか?」本作の魅力について、徹底解説を行いました。 日時:2月26日(日) |
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アカデミー賞授賞式前夜ということで、“アカデミー賞最有力作品”といわれる本作をイチ早く観ようと駆けつけた映画ファンで会場は満席となり、本編を観終わり興奮冷めぬまま、映画評論家の松崎健夫さんと映画解説者の中井圭さんのトークイベントが始まりました。
松崎さん:昨今世界の映画祭で評価されたものを見ていると、多様性を訴えている映画が多い。アメリカはLGBTを扱った作品が多いが、それに加え、本作は黒人問題、貧困問題も扱っており、まさにアメリカで報道されている社会問題がテーマとして全て入っている最強の映画。今の時代にぴったりで、今映画にしたことに意味がある。 と分析。続いて、 中井さん:本作が象徴していることのひとつに“ステレオタイプのモノの見方はしない”ことがある。“黒人はこうであるだろう”というイメージが本作のタイトルにも象徴されるように、月明りに照らされて肌がブルーに見える、つまり“黒人は黒色であるという見方”も見方によっては変わるという、我々が持っている偏見に対する提示をしている。黒人の貧困問題やLGBTの話というのはエモーショナルで動的になりがちだが、本作は非常に静かな物語。少年期、成人期、青年期の3つの時代に分かれてる構成だが、その間に何があったのかということを本作は描いている。それを、主人公の瞳が語るというひとつの軸で貫いているところが非常に魅力的に映った。 と本作へ惹かれたポイントについて話ました。
松崎さん:本作と監督の過去作品の共通点として、画が独特ということが挙げられる。アップの画が多く、被写界深度(ピントの合う位置)がすごく狭いので、人物にはピントが合っているが、背景はぼけている。それによって、黒人の肌の輪郭が柔らかく映し出されているし、登場人物たちが悩んでいて周りが見えていないということを視覚的に表現している。 と分析。 中井さん:映っていないシーンで物語る。セリフ自体が少ないからこそ、何を撮ってどう繋ぐかで観客はセリフにされていない言葉を受け取ることができる。画や色をちょっとずつ変えることによって、感情の動きを表現しており、“瞳が語る悲しみ”を上手く映し出している。 と本作の魅力を話しました。また、低予算で撮られており、ハリウッドではインディーズに位置する作品で、フィルムではなくデジタルで撮られているという話題になり、 3つの時代を描くことを監督はすごく意識している。1世代ごとに色の変化を意識して作っている。それぞれの時代ごとに、フィルムの撮影はできないけど、そのフィルムが持っている特性に寄った画にしたいという意向から、幼少期はフジフィルムのフィルム、成人期はアグファのフィルム、青年期はコダックのフィルムで撮ったものに近くなるようデジタルで撮影をしている。またその中で、本作の肝であるブルーがどう画面に反映するのかを考えて作っている と世界を絶賛させた映像美の裏側を解説しました。 |
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アカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリについて、
「本作で一番スゴいと感じたのはマハーシャラ・アリの演技で、登場したときから彼の人生が感じられた。彼がいなくなってからも、存在を感じさせるのはスゴイこと。マハ―シャラ・アリのシーンによって、本作は自分のためだけでなく、他人のために生きる道もあるということを提示している」 と評価し、ナオミ・ハリスについては、 「3つの年代を描く構成において、主人公が成長していく姿を描きながら、主人公の心の中に秘めた悲しみは変わらないという軸で描かれているが、その一方で、対抗にあるのが主人公の“お母さん”という存在。お母さんの変化が、少年の成長とともに合わせ鏡になっており、その見せ方が非常に上手い。3つの世代で唯一全編に登場するのがお母さんで、それぞれの時代において、ナオミ・ハリスは全く異なる風貌をしている。ナオミ・ハリスの撮影期間は3日だったが、1世代を1日ごとに演じた。それをちゃんとやってのけたナオミ・ハリスはやっぱりスゴイ」 と本作に命を吹き込んだ役者陣について大絶賛。 本作の注目すべきポイントについて 「やはり“瞳”。瞳を見ていると何を訴えているのかすぐ分かる。また、映画が生まれてから100年以上経ち、表現の仕方は語り尽くされてきたと言われているのにも関わらず、このような作品が作られ、新しいアプローチで新しい表現が生まれてくる。本作は、その瞬間ではなく、終わってから少し経ってからじわっとくる作品。アメリカ映画の底力はスゴイ!」 と本作がいかに観客を魅了するのかを語りました。 最後に 松崎さん:3つの時代を一枚の画で表している。違う俳優なのに統一感があるのは同じ目をしているから。 と本作のビジュアルに関しての言及があり、 中井さん:黒人映画は日本でなかなかヒットしないという構図がある中、『ムーンライト』のような作品が当たることによって、今後他の作品も日本で公開される可能性を秘めている。そのために本作は非常に重要であるし、それを支えるのは観客である皆さんである。 と、メッセージを送り、イベントを締めました。 |
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『ムーンライト』 原題:MOONLIGHT 4月28日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー 物語・・・ |
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
キャスト:トレバヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、ジャネール・モネイ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム
【2016/アメリカ/111分/シネマスコープ/5.1ch/R15+】
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