スペインの鬼才ペドロ・アルモドバルが製作し、第72回ヴェネチア国際映画祭にて最優秀監督賞となる<銀獅子賞>を受賞した映画『エル・クラン』が9月17日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国公開となります!
お話は・・軍事独裁政権崩壊後のアルゼンチン。 そんな本作の一般試写会&トークイベントが行われ、児童文学・ヤングアダルト小説の翻訳を手がける金原瑞人さん、そしてTBS「マツコの知らない世界」で放送作家を務め、雑誌InRed、美人百花などにて映画評を執筆する町山広美さんが驚愕の実話を世界に知らしめた本作について語りました!! 日時:8月23日(火) |
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MC:映画をご覧になって
金原さん:実話べースと知らずに観たんです。リアリティのない話をこんなにもリアルに作れるのがすごいと思っていました。本編を最後まで観て実話と知り、びっくりしました。犯罪映画だし怖い話のはずなのに、皮一枚も怖くない。でも後から思い出すと怖い。どこかでこんな感覚があったなと思いましたが『アクト・オブ・キリング』でした。国民的な英雄が虐殺者という話ですが、これに似ていると思いました。実際の人物が本人役として再現する、という怖い話です。皮一枚怖くないけど思い出すとゾクゾクするなと思ったんですよね。ペドロ・アルモドバルがその年の年間ベスト12位の1位に挙げていました。『エル・クラン』は製作がアルモドバル。さらに、最近アルゼンチンで大ヒットした『人生スイッチ』もアルモドバルが絡んでいますね。『人生スイッチ』も『エル・クラン』も両方ともヒットしていて、それも面白いなと思いました。 町山さん:私は実話とだけは知って観たんですが、それぞれの“その後”が出て、思わずえっ!?と声が出てしまいました。特に父さんのその後に関しては、金づちで頭を殴られた感じでした。この映画、父さんがすごい目をしている。ルー大柴を少しさっぱりした感じです(笑)。『瞳の奥の秘密』に出ていたらしいですが全く印象になくて。なんだか変な映画が多いですよね。 金原さん:そのうえに観客動員数が多い。 町山さん:アルゼンチンではエグい昼ドラがヒットしてますが、ドロドロが好きなんですかね? 金原さん:韓国映画もドロドロしてますが、比べてみてどうです? 町山さん:アルゼンチンは…何事もあまり重くとらえていないところが不思議で、余計に怖いですね。お父さんの目つきは鳥みたいなんですよ。自分の親がああいう目つきになった時期があって。不動産で25億円の借金を抱えて現れた時にああいう目をして現れたんですが、何を言ってもポカンとしていました。あの目が本当に怖かった。きっと、今ある事実を認められないんだろうなと思いましたね。悪いことをしたと思っていないというか、自分のこととして捉えられないんだなと思いました。 金原さん:父さんは最初からあの目をしてましたね。 町山さん:あの人は秘密警察みたいな仕事をしていたけど職を失った人ですよね。職探しのシーンも出てきますが。 秘密警察時代にあの父さんは、人を拉致したり拷問したりを、仕事としてやっていた。それで給料をもらっていたから、この犯罪も自分は悪くないと思ってやっていたと思います。クーデターがたくさん起きて国の体制が不安定な中でしたが、体制次第で合法だったわけだから、近所の人を殺したりしても悪いと思っていない。いや、ぼんやり悪いと思っていたかもしれないけど…。 公の場で堂々と誘拐したり、公衆電話から身代金を要求したり、みなさんも随分雑な誘拐だと思ったと思うんですけど、あれって、もともと許されてやっていたから犯罪意識がない。その意味での雑さでもありますね。 金原さん:リアリティのないやり方だと思いましたよね。 町山さん:普通、映画の中で描かれる誘拐ならもっと計画的にやりますけどね。現実は緩いってことですね。 金原さん:普通は1分1秒刻みながら綿密にやりますもんね(笑) |
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MC:子供たちも自ら加担していますね。
金原さん:お母さんが料理を作って監禁部屋に持っていくシーンが出てきますが、何もコメントしない。三男はうすうす気づいて出ていく。次男は帰ってきて加担していく。それって僕が思うヨーロッパ的な家族感ではないです。 町山さん:すごくスキンシップのある理想的な家族ですよね。家族で食卓を囲み、いいことがあるとキスしてハグして、褒められる。 金原さん:あのお父さん、人に優しく声をかけるけど、どこか不気味な感じですよね。 町山さん:集団の中に入って集団だけのルールに従っていくと、何も考えなくなっていくというか、最近、加藤泰監督の映画で新選組をテロリストとして描いた「幕末残酷物語」(64)を観たんですが、外から入ってきた人が中のルールにどんどん洗脳されていく様子が描かれていくんですよね。やがて自分がリンチをするようになる。内部のルールに入れば入るほど安定していく。 金原さん:軍隊もそう。 町山さん:集団の中に入ると選択の余地がなくなるというか。完全に洗脳されているミニマムの集団が家族であって、この家族ですね。 金原さん:そもそも理想の家族に見えはするけど家族愛ってあるのか?っていう。うっすらと感じるけど、家族愛ってあり得るのか?と思った。 町山さん:息子がおしゃれなショップ経営をしたり、何かと豊かな生活をしていますよね。たまたま収入源が身代金なだけで、っていうね。拷問とか誘拐とか以外に何もできない不器用な父さんなんですよね。 |
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MC:誘拐、殺害…凄惨な話ですよね。撮影の技巧とか演出はどうですか?
町山さん:ドキュメンタリーっぽいですよね。長回しの1カットもうまいですね。それに、音楽も。この時代に禁じられていたから、アルゼンチン国民が隠れて聞いていた流行歌だったり、The Kinksの音楽は税金をとられる歌だから使ったり。 金原さん:サントラにして発売しても良さそうですよね。パーティで初めてポップな音楽が流れて、センスがいいなと思いました。 町山さん:そうそう、この監督は青春映画もうまく撮れるんじゃないかなと思います。長男のエピソードが素敵でしたね。パーティとか友達とのこととか。私は青春映画を見るとき、ディスコとパーティのシーンがうまく撮れていることが大事なんですけど、これもうまかったですね。これまでも犯罪モノが多く、この後も犯罪モノが控えているらしいですが、実は青春映画を撮ったらいいと思います。 MC:ラテンアメリカの映画のイメージは? 金原さん:アルゼンチン映画と聞いて思い出したのは、『タンゴ ガルデルの亡命』というピアソラが音楽を担当している映画や『ブエノスアイレス』は暗いんですよ。『モーターサイクル・ダイアリーズ』は…まあ明るいですね。ちょうど『人生スイッチ』を見たばかりだったし、僕の頭にはアルゼンチン映画が明るいというイメージはないんですよね。 町山さん:『人生スイッチ』は暗い話もありながら、やり直しが効くっていうところがありますね。お父さんもやり直しているし。暗いというか、ふと抜けているところがあるような感じですね。 金原さん:ブラックな中にも明るいところもある感じでしたよね。 町山さん:『瞳の奥の秘密』に関しては、粘着質とはこのことか!と思いました。 金原さん:そういえば、『ル・コルビジェの家』もアルゼンチン映画。何か明るい映画ってありますか?(笑) 町山さん:政治モノが多いイメージがありますよね。 金原さん:『黒いオルフェ』も、リメイク版は政治が絡んでいて殺伐としていました。 |
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最後に・・・・
町さん山:『エル・クラン』はとっても面白いので是非たくさんの方に面白いと広めていただきたいのと、他に南米映画だと『チリの闘い』というドキュメンタリー映画も面白いのでお勧めしたいです。アルモドバル監督の新作『ジュリエッタ』ももうすぐ公開ですね。私も楽しみにしています。 金原さん:僕も『チリの闘い』はすごく楽しみですね。『エル・クラン』是非たくさんの方にご覧いただきたいですね。今日はありがとうございました。 映画『エル・クラン』 公式HP:el-clan.jp 物語・・・・ 以降、彼らのまわりで金持ちだけを狙った身代金事件が多発。犯人が捕まらず近所には不安な空気が流れる中、プッチオ家はいつもと変わらない生活をしていた。 ある夕飯の時間、アルキメデスは、妻の作った料理をキッチンから食卓ではなく、なぜか2Fの奥にある鍵のかかった部屋へと運んでいく。この家族には誰にも言えない秘密がある―。 |
監督:パブロ・トラペロ
脚本:パブロ・トラペロ、ジュリアン・ロヨラほか
製作:ペドロ・アルモドバル、パブロ・トラペロほか
出演:ギレルモ・フランセーヤ、ピーター・ランザーニ、リリー・ポポヴィッチほか
2015/アルゼンチン/110分/シネスコ//PG-12
配給:シンカ、ブロードメディア・スタジオ
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