映画『ドストエフスキーと愛に生きる』

言葉は人を傷つけることも出来るし、人を救うことも出来る。
森達也さん×太田直子さん×三浦基さんが語る“言葉の力”

2月22日より渋谷アップリンク、六本木シネマートにて公開する映画『ドストエフスキーと愛に生きる』

その公開直前プレイベントが下北沢ブックストア『B&B』にて行われました。
ゲストにはドキュメンタリー映画監督・作家の森達也さん、字幕翻訳者の太田直子さんと劇団「地点」の演出家・三浦基さんをお招きし、本作の魅力や制作における“翻訳”、そして“言葉”が持つ意味についてのトークとなりました。
0219B&Bイベント

◆概要
日時:2014年2月19日(木)
場所:下北沢B&B
トークゲスト:
森達也(映画監督・作家)さん、太田直子(映画字幕翻訳者)さん、三浦基(劇団「地点」演出家)さん

トーク・イベント内容は
2/22(土)より公開となる映画『ドストエフスキーと愛に生きる』。本作はウクライナ・キエフで生まれたスヴェトラ-ナ・ガイヤ―女史が、生涯をドストエフスキー文学の新訳にかけ、翻訳に情熱を注ぐ姿を追うのと共に、スターリン、ヒトラーという二人の支配者に翻弄されたヨーロッパ近代を浮き彫りにしたドキュメンタリー映画。

公開前プレイベントということで、まずは予告を流し作品を紹介、それぞれが感想を語りイベントはスタート。

現在、横浜中華街KAATにて3/14より公演となる『悪霊』の稽古の真っただ中に駆けつけてくれた、舞台演出家の三浦さんは、主演のスヴェトラーナの翻訳作業に注目。「原作を一度自分の体に取りこんで消化して、俳優とともに表現を完成させていく僕の仕事と似ていて親近感を持ちました。演出という作業は、翻訳に似ていますね」。スヴェトラーナは、翻訳をする際に、一度翻訳した文章を第三者にタイピングさせ、その後別の人間に、仕上がった文章を朗読させて練り上げていくという方法で翻訳を行っているそうです。

映画字幕翻訳家の太田さんは、「外国語を母国語に訳すのが普通なのに、主人公のスヴェトラーナさんはロシア語をドイツ語に訳しており、逆である。これは翻訳家からすると、とてもすごい事で普通はなかなか出来ないこと。また彼女の丁寧な暮らしぶりが翻訳にも反映している」と主人公のスヴェトラーナ・ガイヤーを称えました。

一方映画監督である、森さんは「カメラワークが斬新。最近のドキュメンタリーは手振れ感や、カメラを持ったまま振り向いたりという演出が多くみられるが、本作は映像が動かず見事なまでに対象をフィックスして捉えている。そのため、観客は彼女に憑依されることがない。ドキュメンタリー作品は普通なら撮り進むうちに感情移入しがちだが、それをあえてしない禁欲的なカメラワークはみたことない。凄いです。」とドキュメンタリー映画監督ならではの見地を語りました。

またイベント終盤では本作のキーワードである“言葉の力”について、

森さんは現在の政治家を例に挙げ「政治家は言葉が大切な生き物なのに、軽くなっている。言葉をあまり大切にしなくなってきている。日本人は言葉を文章として残していく、アーカイブすることがもともと苦手だったが、戦後ますます深刻になってきている。文章に対しての緊張感がなく、しゃべり言葉によって意識が形成されているから。我々はもっと言葉を考えなければならない。」

「10年前の海外のドキュメンタリーや報道番組は全て字幕テロップだったのに、今はほぼ日本語のヴォイスオーバーなんですよ。理由は明らかなんですよ。見るのが楽だから。だけど本人の“声”って大事なんですよね。それぞれのパーソナリティーがあってこその声なのに、日本のメディアは楽な方に行ってしまっている。“声”という大事な問題を軽視しまっている」と現代の日本のメディアの問題点も。

対して三浦さんも森さんに続き演劇の未来を「政治家は言葉が大切というならば、日本語自体の構造がすごく難しくなってきている。毎日ドストエフスキーの『悪霊』と向き合い稽古しながら思うのは、明らかに根底に流れている文脈は決定的に違う。ただあえて翻訳し挑戦することで演劇にも果たせる役割がある」と語りました。

最後に太田さんは「言葉は人を傷つけることも出来るし、人を救うことも出来る。多くの人が一斉に同じ事をいう社会は気持ち悪い。周りと同じ考えで無事でいられるというのではなく、もっと自分自身で言葉を選び考え、決して他人の言葉が自分の言葉と同じと思ってはいけない。だからこそ言葉を意識的に考え生きていければならない」と述べ、会場には大きな共感が生まれました。

改めて“言葉”の持つ意味や在り方を深く考えられた本イベント。
慎重に言葉を選びだす作業は、翻訳という仕事だけではなく私たちの日常にこそ取り入れていくべき事なのかもしれません。

“言葉の力”を観る
『ドストエフスキーと愛に生きる』

は2月22日(土)より渋谷アップリンク、六本木シネマートで公開です。

公式HP http://www.uplink.co.jp/dostoevskii/
公式FB http://bit.ly/DostoevskiiFB
公式TW https://twitter.com/DostoevskiiJP

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『ドストエフスキーと愛に生きる』

【作品概要】
84 歳の翻訳家スヴェトラーナが織り成す深く静かな言語の世界と、紡がれる美しい言葉たち――。
ドストエフスキー文学と共に歩んだ一人の女性の、数奇な半生を追ったドキュメンタリー
84歳の翻訳家スヴェトラーナ・ガイヤーの横には、華奢な姿に不似合いな重厚な装丁の本が積まれている。『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』、『悪 霊』、『未成年』、『白痴』、言わずと知れたロシア文学の巨匠・ドストエフスキーの長編作品。それらを“五頭の象”と呼び、生涯をかけてドイツ語に訳し た。1923年ウクライナ・キエフで生まれ、スターリン政権下で少女時代を過ごし、ナチス占領下でドイツ軍の通訳として激動の時代を生き抜いた彼女は、な ぜドストエフスキーを翻訳したのだろうか?高潔なる知性と独自の哲学を持って、ドストエフスキー文学の真の言葉を探す横顔には、戦争の記憶が深い皺となっ て刻まれている。本作では、一切の妥協を許さない彼女の織り成す深く静かな翻訳の世界と、紡がれる美しい言葉たち、丁寧な手仕事が繰り返されるスヴェト ラーナの静かな日常を追う。一人の女性が歩んだ数奇な半生にひっそりと寄りそう静謐な映像が、文学の力によって高められる人の営みをたおやかに描き出す。

監督・脚本:ヴァディム・イェンドレイコ
撮影:ニールス・ボルブリンカー、ステファン・クティー
録音:パトリック・ベッカー
編集:ギーゼラ・カストロナリ・イェンシュ
出演: スヴェトラ-ナ・ガイヤー、アンナ・ゲッテ、ハンナ・ハーゲン、ユルゲン・クロット
製作:ミラ・フィルム
(スイス、ドイツ/2009/ドイツ語、ロシア語/カラー、モノクロ/デジタル/93分)

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