映画情報どっとこむ ralph 蒼井優の主演最新作であり、黒沢清監督がメガホンをとった映画『スパイの妻<劇場版>』が、全国にて大ヒット上映中です。現在行われている第25回釜山国際映画祭ガラ・セレクションに出品されている本作の、オンラインによる記者会見と上映後のQ&Aに黒沢清監督が登場しました。

第25回釜山国際映画祭『スパイの妻<劇場版>』記者会見、Q&A
日時:10月26日(月)
会場:韓国・釜山
登場:黒沢清監督

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◆記者会見にて
新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、記者会見、Q&Aともにインターネットを通じてメッセージが寄せられ、それを主催者側が選択して、監督へ質問が投げかけられた。

Q:これまでホラーやSFものなどが多かったが、今回は新しいジャンル。この分野を選んだ理由をお聞かせください。また、それに伴う苦労はどんなものだったのでしょうか。

黒沢清監督(以下、監督):これまでの作品は、ずっと現代で、ほとんどが東京を舞台にしたドラマばかりでした。しかし、その場合、最終的に何が正しくて、何が正しくないかの答えはつけられないという実感がありました。そこで、現代と繋がっている、そう遠くない過去を舞台とすれば、何が正しくて、何が間違っていたか、についての前提がある、確信を持って描けると思いました。しかし、想像はしていましたが、やはり撮影場所を探すのは大変でした。予算的にCGを使用することも、セットを建てることも不可能でした。1940年代から残っているところを探しましたがあまり見つかりませんでしたね。
 
Q:ヴェネチアで銀獅子賞を受賞した時、どんなお気持ちでしたか? 受賞理由などの説明があったのであれば教えてください。
 
黒沢監督:このように大きな賞を頂いたのは初めてですから、大変うれしかったです。直接ケイト・ブランシェットさんからトロフィーを渡されていたら、どれほど興奮しただろう、と思いますが、ヴェネチアに行ってないので、実感がないままです。ただ、この賞を頂いたことで、日本ではマスコミで取り上げられることも多くなり、小さな規模の公開ですが、お客さんがちゃんと入ってくれているのはありがたいことです。
現地に行っていないので、どういう言葉でこの映画が評価されたのかはよく伝わっていません。銀獅子賞は監督賞と言われていますが、僕が監督しているところを誰も観ていないのですから、よくわかりません。作品全体を見て頂けた賞なので、やはり、この賞はこの映画に携わった全員に対してもらった賞だと思います。あと、お会いできていませんが、もともとファンだったケイト・ブランシェットさんのさらなるファンになりました。(笑)。
 
Q:蒼井優さんは日本のスター俳優として韓国でも有名です。どのような個性を持つ俳優さんなのでしょうか。彼女の演技がもっともキャラクターとぴったりはまって良かったと思う場面があれば、教えてください。
 
黒沢監督:どこも素晴らしいと思っていますが…。聡子が甥っ子のいる旅館に行って、「これを預けます」と封筒を手渡されるあたりから、聡子はある国家機密を知っていきます。手渡されたものが何であるかを知らないのに、託されたものの重大さ、これから物語がどのように変化するのかを感じさせます。それまでは普通の女性だったのが、凄いものを背負ってしまった。そんな表情に見えました。凄い女優だな、と思いました。 
蒼井さんはとてもうまい。現場では穏やかな方です。こちらの要求することをすべて理解して完璧に演じてくれる。ほかの俳優にも気を使ってくれて、現場がスムーズになるんです。 

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◆上映後のQ&Aにて
『スパイの妻』のエンドクレジットでは、歓呼と拍手が沸き起こったそう。その中でQ&Aは始まった。

Q:寄せられている中で最も多い質問です。この物語をスパイではなく、スパイの妻の目線から描いたのは何故なのでしょうか。
 
黒沢監督:実は、そのアイデアを思い付いたのは、僕ではなく、脚本を書いた濱口竜介と野原位というふたりの若者です。濱口が監督、野原が脚本に加わった『ハッピーアワー』という作品を作ったふたりです。彼らは僕が東京藝大というところで教えていた生徒でもあります。素晴らしいと思いましたね。スパイ本人ではなく、妻が主人公で良かった、特徴的だと思った要素はふたつあります。ひとつは、日常的な描写を主体にして映画を構成できること。スパイを主人公にすればアクションや危機的状況など様々なことが描けるけれども、それを描けるほどの予算を持った映画は残念ながら日本では作れません。ハリウッド映画ならできるかもしれません。でも、妻を主人公にすれば、日常を描きながら、国家機密や国がどういう状態であるか、何が隠されているかを予算もそこまでかけずにサスペンスフルに描けます。それがひとつです。
もうひとつは、国が少しおかしくなって、社会が個人を抑圧している状態の中では、一歩後ろにいる女性の方が冷静だったり、社会の抑圧に対抗して自分を守ることができるんじゃないか、と思いました。スパイ本人は海外に逃げるしかなかったりしますが、妻の方が社会にとどまって、冷静に社会が狂っていく様を観察できるんじゃないか、と思ったのです。
そのふたつの点がこのオリジナルストーリーが面白いと思ったところです。
 
Q:これもまた、多くの方から出た質問です。こういった題材や時代背景を扱うことは、政治的に敏感な部分に触れる可能性もあります。このテーマと時代を選んだ理由をお聞きしたいです。2点目は映画の中で「コスモポリタン」という単語が出ますが、監督としては、コスモポリタンの気持ちで作ったのでしょうか。3点目、正義が失われた時代の中でこそ、正義を語る意義がある、と受けとめましたが、観客にメッセージがあればお願いします。
 
黒沢監督:政治的なメッセージを持った映画を作ろうとは思っていませんでした。ただ、実際に起こった歴史は誰もが知っていることです。実際に起きたことには忠実に、正しく、誠実に向きあいたいと思って作りました。ただ、この作品はサスペンスであり、メロドラマであり、娯楽性を考えて作った作品です。この映画からどのようなメッセージを受け取って頂いても構いません。自分からはこの映画はこういうメッセージなのだ、ということは全く規定していません。娯楽作なのだ、ということだけを提示しました。 
二つ目の質問は大変面白いですね。コスモポリタンでありたい、と思ってはいますが、この科白を考えたのはやはり濱口と野原なんです。自分がコスモポリタンだとはとても思えないので、ちょっと気恥ずかしい科白です。でも、映画を作っている間だけはコスモポリタンであろうと思って、作っていたように思います。
3つ目の正義に関しては本当に難しい。この映画でも夫の優作は一種の正義を実現しようとして、妻を犠牲にしようとまでする。そういう生き方もあると思います。でも、僕は妻の生き方に寄り添おうと思っています。正義を実践しようとしても、非情であってはいけない。自分が生きている日常、目の前の大切なもの、いろいろなことを考えた上で正義の機能を考えたいです。正義だけを考えると犠牲が出るような気がします。
 
Q:各役者さんと劇中の役割の組み合わせが印象的でした。キャスティングにまつわる話を聞かせてください。
 
黒沢監督:理想的なキャスティングができたと思います。蒼井さんと東出さんはこれまでにも何度かご一緒していたので絶大な信頼を置いていました。高橋さんは初めてでした。海外ではまだ知られていないかもしれませんが、日本で40歳少し前の年齢の男優の中で演技力としては一番と言われている人です。前から一度やりたかったのですが、今回初めて彼と仕事ができてうれしかったですね。

予定されていた記者会見の時間は1時間にも関わらず、終了時間になっても質問は寄せられ続け、メッセージ欄は更新され続け、30分もの延長に!それでも「まだ1時間くらい話をお聞きしたい」と司会から言われながらも、記者会見は終了となりました。続く、公式上映は2席間隔をあけての上映ではあるものの、熱心なファンが詰めかけ、やはり質問が後を絶たず、盛況のうちにQ&Aが終了しました。

映画情報どっとこむ ralph 映画『スパイの妻<劇場版>』

HP:wos.bitters.co.jp

太平洋戦争前夜。愛と正義に賭けたふたりがたどり着くのは、幸福か、陰謀か——。
1940年、神戸で貿易会社を営む優作は、赴いた満州で、恐ろしい国家機密を偶然知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。満州から連れ帰った謎の女、油紙に包まれたノート、金庫に隠されたフィルム……聡子の知らぬところで、別の顔を持ち始めた夫、優作。それでも、優作への愛が、聡子を突き動かしていく―。

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蒼井優
高橋一生
坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理
東出昌大 笹野高史

監督:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位 黒沢清 音楽:長岡亮介
エグゼクティブプロデューサー:篠原圭 土橋圭介 澤田隆司 岡本英之 高田聡 久保田修
プロデューサー:山本晃久 アソシエイトプロデューサー:京田光広 山口永 
ラインプロデューサー:山本礼二
技術:加藤貴成 撮影:佐々木達之介 照明:木村中哉 録音:吉野桂太
美術:安宅紀史 編集:李英美 スタイリスト:纐纈春樹 ヘアメイク:百瀬広美
VFXプロデューサー:浅野秀二 助監督:藤江儀全 制作担当:道上巧矢
制作著作:NHK, NHKエンタープライズ, Incline, C&Iエンタテインメント
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 
配給:ビターズ・エンド 配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ
2020/日本/115分/1:1.85 

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